盗撮疑惑
「いや、考え事をしていたものですから」
「それにしても1時間以上も中年の男が、スーパーの中をウロウロするなんておかしいじゃないですか」
「いや、しかし本当にそうなんですから」
「先生。おかしいでしょう。その間は店員の誰もあなたの姿を見ていないんですよ。男がそれだけ長い間店内にいたら、誰だって気がつくはずです。ところが、誰もあなたを見ていない。これはどういうことなんですか?」
「店員さんだって、客の顔を全部覚えているわけじゃないでしょう。私は目立たないごく普通の男ですよ。記憶に残らなくたって不思議じゃない。覚えているほうがおかしいですよ」
「しかし、あなたは店内で女性店員に疑われて大声で叫ばれたんでしょう? あなたの姿を大勢の人がその時に見ている。そしてあなたは走って駐車場まで行って、自分の車に乗り込んだ。それは何人もの人が目撃しているんですよ? その上、あなたは猛スピードで自宅とは違う方向に走り去った」
「いや、あれはなんのことか私にはわからなかった。だが、変なことには関わりたくないと思ったので、その場を去ったんです。私ではないとわかっていたからこそです。私は学校の教頭ですよ。私が盗撮なんかするわけないじゃないですか!」
「ほぉ~。盗撮ね。先生、私どもは今の今まで、一度も盗撮という言葉は言っていないんですがね」
そういうと、刑事は机に両肘をついて両手を組んだ。
(しまった!)
と、男は脂汗が額ににじんでくるのを覚えながら、一生懸命、言葉を探していた。
「いや、それは…。いや、あのときに、女性店員がたしかそう叫んでいたんですよ。たしか、盗撮した男をつかまえてとか何とか」
「その女性店員さんからはね、被害届が出ているんですよ。被疑者不明のままね。彼女はこういったそうですよ。いいですか」
刑事は手元のコピーを見ながら読み上げた。
「『ちょっと、待ちなさいよ。あんた、今、トイレでヘンなことしたでしょ』それから、他の店員に向かって『あの男の人が、今トイレでカメラで写していたの。盗撮よ。あの男をつかまえて』と、こう叫んだんでしょう」
「たしかに、そんなことを言っていたような気がします。しかし、私は関係ない。だからこそ無視してその場を去ったんです。私は教育者ですから、そういうことに関わるだけでも困るんですよ。だからあの場を去ったんです」
「教育者であろうとなかろうと、事実は事実としてハッキリさせなくてはならないんですよ。いや、むしろ教育者であればこそじゃないですか?」
「……」
→防犯カメラ
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