夢だった?
朝になって… |
A菜は、首筋の汗を手の甲でぬぐうと、胸の内でつぶやいた。
(夢でよかった…)
まだおさまらない胸の動悸と荒い呼吸を押さえ込むようにタオルケットを頭からかぶり、体を縮めて再び眠りに落ちた。
翌朝、二日酔いのような不快感でようやく目が覚めてベッドでぼんやりとしていた。しばらくは何も考えなかったが、突然、昨夜の夢を思い出した。ハッと、飛び起きて室内を見渡す。バッグは床にある。持ち上げてみると財布も間違いなくあった。
ベランダの窓辺に行って、カーテンを開けると窓もカギも間違いなくしまっている。
「ホゥッ」
カーテンをつかんだまま、深くため息をついた。
「あぁー恐かった!」
口に出して言ってみると、夢だったことがハッキリした。
「フフッ。あー、ホントに恐かったー。殺されるかと思った。いやー、すごい夢を見ちゃった。リアルな夢。あんな夢って見たことなかった。あー、恐い。窓から男が入ってくるなんて恐すぎるしー」
(でも、あのとき、壁をドンッと叩いたような音は本当に聞こえたような気がしたな。本当に音がしたのかな。もしかすると、隣の人が本当に壁を叩いたのかもね。隣の人、寝ぼけていたのかしら)
現実…
それきり、夢のことは忘れてしまっていた。ところが、あれが実は夢だとはいいきれない出来事だったのだと、A菜はかなり経ってから知ることになった。翌年の春になってから、A菜は地元の警察署から来た二人の刑事の訪問を受けたのである。
『窓からの恐い夢~後編』に続く。