待ちかまえているもの
「その店ですから。じゃ、楽しんでください」男はもみ手をしながら、愛想良く笑って去っていきました。
「いらっしゃいませー!」
「お待ちしておりました」
すぐにそれぞれ、個室に通されました。T橋さんがネクタイをはずしていると、女が入ってきました。
(なかなかかわいいじゃないか)
にんまりとして上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎました。
「いらっしゃいませー。じゃ、先にお会計をお願いします。えっと、入場料が90分で1万円で、サービス料が9万5千円です」
「なにー? だって、1万円ポッキリって言ってたぞ。それ以上払うつもりなんかないよ。そうでなけりゃ、この店には来なかったよ」
「ですから、ウチの店は入場料が90分で1万円なんです。サービスは別料金なんですよ」
「ふざけるなよ。帰るよ」
T橋さんは脱いでカゴに入れていた着るものを取ろうとしましたが、女が素早くそれをさえぎりました。
「よこせよ。帰るよ、おれは」
と、大きな声を出しました。すると、ドアがノックもなく突然開きました。いかつい顔つきの大柄な男が入ってきました。後ろに痩せた男もついて入ってきました。
「お客さん、騒いでもらっちゃ困るんだよ。なんか問題あんのかよ。この部屋に入った以上、払うべきものは払わなくちゃ帰れないくらい、わかってんだろっ!」
と、すごみました。
「いや、でも、私は客引きの男が1万円ポッキリって言うものですから…」
おれ、から私、に言葉遣いが変わってしまっています。
「だから、それは入場料なんだよ。それに客引きって誰のことだよ。ウチはそんなことはしていないぜ。客引きは禁止されてんだよ。ウチでは客引きなんて雇ってないんだ。失礼なこと言うな」
「でも…」
「デモもストライキもねえよ。払うものは払ってから帰れよ、おっさん」
「しかし、そんなお金は持ち合わせていません」
そのとき、痩せた男がT橋さんの上着から財布を取りだして、中を探っていました。
→クレジットカード!
→→高い勉強代