一流の「頼み方」と「断り方」とは?
頼み方や断り方ひとつで、人間関係の印象は大きく変わります。
『その言語化は一流、二流、それとも三流? 頭のいい“この一言”』(清水克彦 著/青春出版社)では、信頼を損なわずに意図を伝える言葉の選び方を伝えています。
今回は本書から一部抜粋し、一流の「頼み方」と「断り方」について紹介します。
【仕事を頼む】三流は「これやってくれ」、二流は「君にお願いしたい」、一流は?
心理学の有名な学説に、マズローの欲求五段階説というものがあります。アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を五段階に理論化したものです。
『その言語化は一流、二流、それとも三流? 頭のいい“この一言”』(清水克彦 著/青春出版社)
●マズローの欲求五段階説
第一段階「生理的欲求」=食べたい、飲みたい、眠りたいなど、根源的な欲求
第二段階「安全欲求」=安全な環境にいたい、経済的に安定したいなどの欲求
第三段階「社会的欲求」=家族や集団を作り、所属していたいという欲求
第四段階「承認欲求」=自分の存在や価値を周りに認めてもらいたいという欲求
第五段階「自己実現欲求」=自分の持つ能力を存分に発揮したいという欲求
マズローは、下位の欲求が満たされれば、しだいに上位の欲求へと進んでいくとしていて、近頃では、社員に対するマネジメントの参考に活用されるようになっています。
仕事を頼むときにも、マズローの欲求五段階説は活用できます。それは、「あなた限定」という手法です。言い換えれば、「あなただけ特別」という気持ちを相手にきちんと伝えるということです。
A「君、これをやってくれ」
B「これを君にお願いしたい」
C「これを君に任せたい。君のこれまでの経験値に期待しているんだ」
A「ぜひ、来てください」
B「ぜひ、いらしてください。お待ちしております」
C「ぜひ、いらしてください。藤戸さんがいないと始まらないんです」
いずれの場合も、Aだと相手の心が躍りません。Bの表現もAよりは丁寧というだけです。しかし、Cであれば、「あなた限定」「あなただけ特別」という効果が効いてきます。
■「あなた限定」効果が得られる表現安全欲求に働きかけるケース
・ 「よく聞いておいて!」→「聞き逃すとこれからの段取りがわからなくなるよ」
・ 「正確に報告しなさい」→「君の評価を上げるために経緯を把握しておきたいんだ」
■承認欲求に働きかけるケース
・ 「君にやってもらいたい」→「君の行動力に期待しているんだ。やってくれないか」
・ 「新商品の情報ですが」→「増田課長に最初にお耳に入れますが、新商品情報です」
このように、「危険は避けたい」「もっと収入を上げたい」という思いを刺激したり、「私だけ特に目をかけてもらっている」という思いにさせたりする表現にすることがコツです。
【決めの一言】「あなただけに特別に……」
相手の承認欲求をくすぐることができる
【断る】三流は「できませんと言う」、二流は「事情を説明する」、一流は?
特に会いたい人でもなく、会うメリットが感じられない相手から誘われた場合、角を立てないように断る必要性が生じます。
■アポイントの依頼を婉曲に断る表現
・ 「あいにく先約がありまして」
・ 「申し訳ございません。その日は動かせない予定が入っておりまして」
・ 「せっかくですが、その日は都合がつきませんもので、またお声がけください」
■会合や宴席に出席したものの途中で退席するときの表現
・ 「話は尽きませんが、もう一軒回るところがございまして」
・ 「申し訳ございませんが、次の約束がございまして」
たいていの場合、これらの表現を覚えておけば、特に会う必要がない相手から誘われたり、お付き合いで出席せざるを得なかった会合に居続けたりすることから、自分の時間を守ることができます。
では、仕事関連でお願いをされた場合について見ていきましょう。
「佐藤さん、このクライアント、君に担当してもらいたいのだけど」
A「できません」
B「今、別件で立て込んでおりまして厳しいです」
C「今、別件で立て込んでおりまして、今すぐはいたしかねます」
たとえば上司からの依頼に、「できません」と言ってしまっては身もふたもありません。上司からの依頼は業務命令ですから、できないとなると評価が下がってしまいます。
Bのように実情を説明すれば、上司は納得しやすくなりますし、Cのように「今すぐはできない」=「少し時間をくれればできる」というニュアンスであれば、上司は他の部下に仕事を回すか、少し待つなどの配慮をしてくれる可能性が高くなります。
波風を立てないよう断るのは難しいものですが、ケースごとに参考例を挙げてみます。
■上司からの依頼を婉曲に断る表現
・「今、○○部長(上司にとって上役にあたる人物)からお願いされた仕事で立て込んでおりまして、今すぐは難しいのが実情です」
・「その分野の経験がなく、安請け合いしてご迷惑をおかけしてはと存じます」
・「身に余るお話ですが、私、とてもその任ではございません」
・「ほかに適任者がおりますし、私のようなものがお引き受けしていいものかどうか」
・「ありがたいお話ですが、今それに取りかかるとなると、別件の納品が大幅に遅れることになります。いかがすればよろしいでしょうか」
■取引先など社外からのオファーやお願いごとを婉曲に断る表現
・「お役に立てず残念ですが、今回は見送らせてください」
・「考えさせていただいたのですが、その件はお役に立てそうにありません」
・「結構なお話ではありますが、時期が時期だけに難しいと存じます」
・「ほかを当たっていただいたほうがよろしいかと存じます」
・「これ以上の条件(値引き、納期など)はご容赦いただけませんでしょうか」
・「物理的に厳しく、今回はお受けいたしかねます」
【決めの一言】「今回は……」
「残念ながら今回は難しい」を強調してみる
政治・教育ジャーナリスト、びわこ成蹊スポーツ大学教授。愛媛県今治市出身。早稲田大学大学院公共経営研究科修了、京都大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。文化放送入社後、政治記者、ベルリン特派員、米国留学を経て、ニュースキャスター、大妻女子大学非常勤講師、報道チーフプロデューサーを歴任。専門分野は「現代政治」と「国際関係論」。大学ではキャリアセンター長を務め、メディア出演、オンライン記事の執筆や講演など幅広く活動中。ベストセラー『知って得する、すごい法則77』(中公新書ラクレ)ほか著書多数。






