多くの日本人は、サウナと聞けば営業施設としての公衆サウナをまず思い浮かべることでしょう。けれど、サウナの本場フィンランドでは、そうしたお金を払って入浴するサウナ施設は、国内に計300万以上もあると言われるサウナの一形態にすぎません。
自宅にはマイ・サウナが、アパートには共同サウナが、学校やオフィスには予約制サウナが、ホテルには宿泊客専用サウナが、そしてコテージには大自然の中の“極上プライベートサウナ”があります。
フィンランド人にとってのサウナは、日本人にとってのお風呂と同じくらい、日常的でありふれた存在なのです。
おしゃべりの場としての公衆サウナ
それだけ身近にサウナがあるフィンランド人が、わざわざお金を払って公衆サウナに入りに行くのは、日本人が家に風呂がありながらもしばしば銭湯に足を運ぶのと同じく、「より広くて気持ちいいサウナに入りたい」ときです。
自宅サウナの多くは、3~4人用のファミリーサイズ。一方、公衆サウナには広々としたベンチがあり、混み合っていなければ寝転がるのも可能です(他の客の邪魔にならない限りはマナー違反ではありません)。また公衆サウナの多くは、熱源に伝統的な「薪ストーブ」を使っており、自宅サウナで主流の電気ストーブより、ずっと柔らかく心地よい蒸気が身を包みます。
加えて、公衆サウナを「誰かとおしゃべりする社交場」として活用する人も多いです。日本人が居酒屋で飲みニケーションする感覚で、久しぶりに会う友人と積もる話に花を咲かせる人や、常連客との他愛ない会話のために決まった時間にサウナに通う人もいます。
コロナ禍で“黙浴”が呼びかけられた日本の温浴施設とは異なり、フィンランドのサウナは、室内でも外気浴スペースでも誰もが自由に会話を楽しんでおり、常ににぎやかなのです。休憩中はビール片手に談笑する人も。店内にも「◯◯禁止」といった張り紙はほとんどなく、利用客のモラルと節度に雰囲気作りが委ねられています。
日本で人気の「サウナハット」「水風呂」。一方、フィンランドでは…
フィンランドのサウナも、基本は男女別で裸入浴という日本の銭湯スタイルですが、近年はジェンダーフリーや家族入浴の機会の観点から、男女混浴(原則として水着着用)の施設も、都市部を中心に増えています。
タオルや水着は持参が基本ですが、有料レンタル可能な施設も。日本のサウナ愛好家の必需品「サウナハット」は、フィンランド人はあまり被りません。フィンランドのサウナは温度がそこまで高くないので、髪や耳を守る必要性が少ないからです。
また、日本では「サウナと水風呂はセット」という考えが常識かもしれませんが、フィンランドでは通用しません。確かに、湖畔や海辺の施設ならサウナを出てひと泳ぎする人も多いですが、街なかの施設では人工の水風呂は稀。何よりもまず、サウナの中での熱々の蒸気の対流をゆったり楽しみ、のぼせてきたら冷水シャワーで軽く汗を流して、あとは屋外での外気浴時間に重きを置きます。
外気浴スペースは公衆の面前!
外気浴スペースは、店舗の中庭や門前(つまり公衆の面前!)にあることも多く、タオルを巻いた姿でくつろぎます。昨今は、タオルや水着姿のままでレジに並んで飲み物や軽食を購入できる、おしゃれなバーやレストランを併設した公衆サウナが特に人気です。
日本からの“サ旅”観光客で大にぎわい!
新型コロナウイルスの世界的パンデミックの間、閑古鳥の鳴いていたフィンランドの公衆サウナですが、規制緩和に伴いにわかに国内外からの客足が戻ってきました。特に、コロナ禍でもサウナブームが途絶えるどころかますます加速した日本からは、連日多くの“サ旅”(=サウナを目的とした旅行)観光客が公衆サウナに足を運び、人気施設では日本人客を見ない日はないほどです。
フィンランドに来た際には、五感でこの国らしさを体感でき、地元の人々の飾らない日常を垣間見られる公衆サウナに、ぜひ足を運んでみてください!