実例「そごう・西武」からストライキをそもそも解説
そもそも、「ストライキ」とは? 本来違法だけど、「労働組合」だから免責される
ストライキとは、会社と労働組合との労使交渉が決裂した際などに、労働組合が会社へ揺さぶりをかけるために実施する行為(争議行為)です。労働組合とは、労働者の地位向上を図ること、具体的には労働条件などについて使用者と団体として交渉することを目的とする組織です。日本では企業別の労働組合が基本ですが、企業別労働組合の上部団体として、産業別の労働組合の連合体(全国単産)、さらにその上に「連合」などの全国的組織があります。
企業によっては労働組合が無いところもあります。その場合は、勝手にストライキをすることは許されません。ストライキは社員が職場を放棄し、故意に会社業務に損害を与える行為です。本来は労働義務違反(労務の不提供)に該当し違法であり、ストライキに参加した社員は、会社から損害賠償責任を問われます。労働組合法という法律に守られた適法な労働組合だから、それが免責されるのです。
そごう・西武は、なぜ今ストライキをしなければならなかった?
ストライキの実施件数は1973年の第1次オイルショックを境に大きく減少し、近年ではほとんど話題にも上がらなくなりました。第1次オイルショックでは消費者物価が急騰し、大幅な賃上げを求めてストライキが頻発しました。まさに生きるための生活闘争でした。しかしその後は、経済も回復し労使協調路線で安定雇用を図る取り組みが進展しました。使用者とあからさまに対立するのではなく、地道な労使交渉(労使協議)を通じて労働条件の維持・改善を図るようになったのです。ストライキの日は、社員にも賃金が支払われず、会社も業務が停止し大きな痛手となります。特にストライキが決行されるとニュースになるので、企業ブランドも毀損します。社員にとっても会社にとっても良いことではないのです。
では、なぜ今回そごう・西武でストライキが行われたのでしょうか? そこには雇用維持に対する組合側の根深い不安があったようです。
雇用不安がそごう・西武ストライキの引き金
今回の一連の紛争は、使用者としての株式会社そごう・西武とその企業別労働組合であるそごう・西武労働組合との争いです。組合の労使交渉の相手先は、そごう・西武です。しかし、そごう・西武はセブン&アイ・ホールディングスの傘下にあったために、実質的な労使交渉はセブン&アイ・ホールディングスの意向、売却先である投資ファンド(米フォートレス・インベストメント・グループ)の方針に強い影響を受けていました。投資ファンドの方針、たとえば池袋本店のフロア変更(家電量販店の入居、ブランドショップの縮小)や地方店舗の再編などで、社員にどのような影響が起きるのか、雇用が維持されるのかが明確ではなく、またセブン&アイ・ホールディングスは直接の使用者ではないため、労使交渉を拒否していたことなどから、打開を図るために組合は最後の手段を選んだものと想定されます。
ストライキ当日、社員の賃金は発生する?
ストライキは集団で労務を提供しないことなので、参加した社員には賃金が支払われません。当日の欠勤を年次有給休暇に切り替えることも認められません。有給休暇の趣旨である「心身ともに休養し鋭気を養う」に反するからです。一方、労働組合員ではない社員(アルバイトなど)などストライキに参加しなかった社員には賃金が支払われます。会社の判断でストライキに参加しない社員に自宅待機を命じた場合には、休業手当が支給されます。会社の責任で就労できなくなったのだから、会社は休業手当という形で損害賠償をしなければならないからです。
そごう・西武の社員以外の協力業者の社員は、通常の勤務となります。そごう・西武に納品できないなどで協力業者にはしわ寄せがいきますが、そこの社員への影響は大きくはありません。
そごう・西武の今後は? 社員はどうなる?
9月1日にそごう・西武は投資ファンドへの売却が決まりましたが、法人としてのそごう・西武は存続しています。社員との雇用契約は継続しているので、社員が一方的に解雇され、労働条件が変更(不利益変更)になることは当面ありません。問題はこの先です。会社や投資ファンドの方針や事業戦略によっては、業績が悪化し、事業の再編が行われる可能性は大きいです。事業戦略が変わるということは、新しい人材が必要になるのと同時に、従来事業で過剰人員が発生します。
セブン&アイ・ホールディングスは売却後、グループ企業での雇用を含めて、雇用維持を図るという方針を打ち出しました。消費者を最終顧客としているセブン&アイ・ホールディングスが、今後、どれだけ社会的責任を果たすことができるのか注目されます。