労務管理

「台風で出勤無理なら有休使え」正当or不当? 休業手当が出る条件、有給休暇のOK・NG事例を確認

台風などの自然災害が原因で出勤できないなど、社員としては本意ではないがやむを得ず休む必要が生じた場合も有休を消化しなければならないのでしょうか。休業手当の対象となる場合など、休暇・欠勤の事例を見ていきます。

本田 和盛

執筆者:本田 和盛

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台風の中歩く人

「台風で出勤できないなら有給を消化しろ」ってそんなのあり? 休業手当は出ないの? 労務のプロが解説

たまには休暇をとってリフレッシュしたい。そういうときに利用したいのが年次有給休暇(有休)。もし有休を使わないで会社を休むと欠勤となり、完全月給制(欠勤しても月給が減らない賃金制度)の会社でない限り賃金が支払われません。

では、台風などの自然災害が原因で出勤できないなど、社員としては本意ではないがやむを得ず休む必要が生じた場合の休暇・欠勤の扱いはどのようになるのでしょうか。さまざまな事例とともに確認していきます。
 

有給休暇の基本:時季指定権・時季変更権とは?

有休は原則、社員が使いたいときに使えるもので、有休の使途を事前に会社に申告したり説明したりする必要もありません。社員が、「この日に有休を使う」と会社に申し出るだけで、有休を取得する権利を行使できます。これを年次有給休暇の時季指定権といいます。

ただし、社員が指定した日に重要な会社行事(イベント)が入っている場合など、業務に支障が出る場合は、会社は他の日に有休日を変更するように求めることができます。これを時季変更権といいます。この時季変更権の行使は、限定的にしか行えないので、基本的に有休の取得は社員の自由と考えて差し支えありません。
 

有休の取得を社員に強制することはできない

有休の取得は社員の自由なので、会社が社員に働きかけて、「この日に有休を申請して休みなさい」と指示することは原則できません。以下のような、会社都合で社員を自宅待機させる場合は、会社は休業手当を支払うことになります。
 
  • 台風などの自然災害で会社の業務がストップし、社員を休業させる
  • 部品が入ってこないので工場の操業を一時停止させるなどの経済的な事情
  • 新型コロナウイルスなどの感染が拡大し、店舗の営業ができなくなった飲食店の店員を休ませる

休業手当とは「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合に会社が社員に支払うもので、平均賃金の60%以上の支払が必要と労働基準法(26条)で定められています。

この「使用者の責めに帰すべき事由」には、自然災害や感染症拡大による休業など、本来は使用者の責任でないものまで含めて、広く認められています。そのため、会社主導で社員を休ませる場合は、休業手当の支払が義務づけられると考えておいて問題はありません。例えば、以下のような場合も休業手当を支給しなければなりません。
 
  • 新型コロナウイルス感染が疑われる社員を念のために出勤停止にする場合
  • 懲戒処分を検討するために社員を一時自宅待機にする場合

ただし、医師の診断により社員の新型コロナウイルス感染が確定した場合や懲戒処分として出勤停止処分が決定した以後は、休業手当を支払う必要はありません。
 

台風で出勤できない場合は有休消化?

一方で、社員の都合で出勤できないなど社員側に責任がある場合は、会社は賃金を支払う必要がありません。会社自体の営業は止まっておらず休業の知らせもないが、台風で電車が止まって出勤できない場合、新型コロナウイルス感染により自宅待機が要請された場合などでは有休を使うことで、収入を確保することができます。また最近はテレワーク(自宅勤務)を認めている会社も多いので、業務内容によってはテレワークに切り替えることも可能と思われます。会社と相談してみるとよいでしょう。

台風などの自然災害で交通機関が動かなくなった場合で、その後に復旧し出勤がかなった場合は、遅刻扱いとして処理されます。遅刻扱いとなっても、終業時刻を延長して所定労働時間(例えば8時間)働いたなら、賃金はフルに支給されます。

また、半日単位や時間単位で有休の取得を認めている会社も多いです。このような会社では、午前中は有休で処理して、午後から出勤ということも可能です。

会社側が「出勤できないなら有休を使え」と強制することはできませんが、会社の営業は止まっておらず、会社側から休業・自宅待機の指示がない場合は、休業手当の対象にはならないので、有休を使わなければ無給となります。出勤できないけれど収入を確保したいという場合は、有休を使うのが賢明ということになります。
 

有休が認められない事例:前日や当日の申請は?

正当な年次有給休暇の行使に当たらない場合は、有休を使えない場合もあります。例えばストライキです。ストライキとは労働組合が労働条件の改善等を求めて会社業務をボイコットする争議行為です。会社の業務をボイコットするのですから、当然賃金は支払われません。ストライキは会社の業務にダメージを与えることが目的なので、会社業務をボイコットする一方で、会社に有休を請求することはできないのです。

また冒頭でも触れた通り、社員が有休を取得しようと申請した日(時季指定した日)が会社行事と重なっていた場合などでは、会社から時季変更権を行使される場合もあります。会社が時季変更権を行使したにもかかわらず、休暇を強行した場合なども正当な年次有給休暇の行使に当たりません。

また会社が時季変更権を行使するか否かを判断する時間的余裕が無いような形で有休を申請することも不適切です。例えば、有休の取得予定日の前日に申請されても、会社や上司はすでにスケジュールを組んでしまっているので困るわけです。そのため、就業規則で有休の申請期限を定めている会社が一般的です。

とはいえ、急な体調不良や交通機関のトラブルなどで当日の朝に有休申請をすることもあると思います。これは有休取得日の業務が始まってからの申請なので、本来であれば有休申請は認められませんが、上司や会社の裁量で認めているというのが実態です。
 
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