不正発覚後の転職は困難を極めるので、不正発覚前に異変に気づき逃げることが重要
今後、大幅な業績悪化が見込まれ、賃金カットや人員整理だけでなく会社存続すらも危ぶまれています。当然、将来への不安を抱える社員の大量離職が始まることが予想されますが、ここまで会社のイメージが悪化すると、社員の転職市場でのイメージも大きく低下します。とりわけ不正を行っていた部門の管理職や一般社員の転職活動は困難を極めるでしょう。どこの企業も不正を行っていた可能性のある人材や、不正に眼をつぶって組織のいいなりになっていた人材は採りたくないからです。
そうなると、不祥事を起こしそうな危ない会社・組織の異変を早期に見極めて、世間に不正が発覚する前に逃げ出すことが重要になります。
異変(1)ガバナンス機能不全会社
不正や不祥事が発生する会社は、いわゆるガバナンスが機能していない会社です。ガバナンスとは、健全で公正な企業経営が行われるように管理・監督といった統制機能が整っていることを言います。分かりやすくいうと、トップや一部の社員、一部の組織が暴走しようとしても、別の組織がそれを発見し、止める仕組みになっているということです。このガバナンスが機能していない会社は要注意です。たとえば同族企業や創業経営者の会社、長年にわたって1人の経営者が権力の座にいつづけている会社はガバナンスが働きにくくなります。ビッグモーターもそうですが、同族トップダウン型経営の会社では、社員は常にトップや経営者ファミリーの顔色をうかがい、トップの指示や命令にだけ関心を示し、他の従業員や組織に眼を向けなくなります。組織の横連携がなされないので社内の風通しが悪くなり、不正が行われていても誰も気付かなくなります。
またこのような会社では、社内の情報は上から下に向かって流れるだけで、下から上にボトムアップ的に流れることはまれです。裸の王様になっている経営者は不都合な情報など自分が聞きたくない情報には耳を貸さないので、内部告発などをしても無視されるか、社長の機嫌を取りたい社長の取り巻き連中によって途中でもみ消されます。
異変(2)ブラックボックス化した組織
- 業務が特殊で専門性が高い組織
- 働いている人の職種が同じなど同質性の高い組織
- その組織だけで業務が自己完結する組織
以上のような組織は、他の組織と交流する機会が少なくなりがちでブラックボックス化しやすいです。ブラックボックス化した組織は、外から何をやっているか分からないので、不正発生のリスクが高くなります。ビッグモーターでは修理・整備を行う板金部門で主な不正が行われていました。
またブラックボックス化した組織は閉鎖的になるので、独自の規範(価値観や決まり)が生まれ、それが閉鎖空間の中でさらに強化されます。仮に不正が行われ、誰かがおかしいと言い出したとしても、次第に組織の同調機能が働き、誰も異議を唱えなくなります。
特に工場長など発言力が強い者が不正を主導した場合、他の良心的な社員は沈黙するようになり、沈黙する社員が増えることで発言力が強い者がますます主導権を握るようになります。この現象は「沈黙の螺旋(らせん)」と呼ばれる理論です。
そうなると不正を行うことは特に悪いことではなく、普通のこと、もしくは正しいこととして扱われるようになります。ビッグモーターでは車両にキズをつけて修理金額を水増しする手法が他拠点の板金部門に広がっていきましたが、背景には同部門の仲間意識があったと思われます。そのため規範意識の麻痺(まひ)が拠点を越えて拡散してしまったのです。
あなたの会社で、「あの組織は何をやっているかよく分からない」という組織が複数あれば、組織のブラックボックス化が進んでいるのかもしれません。要注意です。
異変(3)信賞必罰が徹底している会社
ビッグモーターは信賞必罰、つまり成果主義が徹底していたようです。転職支援サイトの社員による会社評価スコアを見ると、ビッグモーターの「人事評価の適正感ランキング」が自動車関連業界2233社中1位になっていました(8月3日閲覧, OpenWork)。がんばりと成果が直結しているという点では適正評価をしているということなのでしょう。「社員の士気ランキング」を見ても、上位に食い込んでいました。ビッグモーターの急成長の理由が垣間見られますね。なお「風通しの良さランキング」「法令遵守意識ランキング」「人材の長期育成ランキング」は2233社中2220位台以下と最低評価。ブラックボックス化が進み、目的達成のためには手段を選ばない、成果を出せない人は切り捨て御免の組織風土であったことがうかがえます。
ビッグモーターでは成果を出せない社員はLINEで罵倒され、さらし者にされ、また降格人事も頻繁になされていました。成果主義の徹底は、がんばって高い収入を得たいと考える人材にとっては魅力的でモチベーションも高まりますが、その副作用として、目的達成のために手段を選ばないコンプライアンス意識が欠如した組織になりがちです。
会社の不正で職を失わないために
「不正のトライアングル理論」というのがあります。- 不正が可能となる機会がある
- 不正を起こす直接的な動機がある
- 不正を自己説得できる理由がある
この3つがそろうと不正が発生するという考え方です。ずさんな管理体制、ブラックボックス化した組織は不正が可能となる「機会」を作り出します。ノルマ達成という過剰なプレッシャーは不正を起こす「動機」として十分です。さらにノルマ達成で給料がアップする、みんなやっていることと「自己説得」することで今回の不正が発生したのです。自分の会社がこれら3つの観点から見て健全な組織か、確認してみてください。