漢方・漢方薬

五月病を治す方法は?だるさや気力低下に効果的な漢方薬

【漢方薬剤師が解説】「五月病」による疲労感や気力の低下などに悩んでいませんか? 5月は過ごしやすい季節ですが、心身の不調を感じやすい時期でもあります。自分で治すためには生活リズムの改善も大切ですが、漢方薬を活用するのも有効です。不調に効果的な補中益気湯、十全大補湯、加味逍遙散、苓桂朮甘湯などの漢方薬の特徴と効果をご紹介します。

吉田 健吾

執筆者:吉田 健吾

薬剤師 / 薬・漢方・医療ニュースガイド

五月病による心身の不調……快適な季節になぜ不調が起きるのか

落ち込む女性

五月病は疲労感、気力低下、食欲不振、不安感など多彩な症状を含む


気温も暖かく、晴れ間の多い5月。厳しい寒さや暑さのない過ごしやすい季節なので、体調も安定しそうなものですが、「五月病」という言葉がある通り、心身の変調が起こりやすい時期でもあります。今回は、「五月病」とは何か、自分でできる治し方について、漢方的な見地からわかりやすく解説します。
 

五月病の定義・症状は? 環境や気候変化が原因で起こるさまざまな不調

そもそも「五月病」とは正式な病名ではないので、はっきりとした定義は存在しません。一般的には、5月上旬のゴールデンウイーク後に起こる、さまざまな心身の不調を指します。主な症状として挙げられるのは、疲労感、身体が重く感じるようなだるさ、気力の低下、食欲不振、頭痛、めまい、不眠、不安などが代表的です。

五月病が起こってしまう原因には主にふたつの原因が挙げられます。ひとつは社会的な環境変化です。日本の場合、4月から新年度が始まり進学や就職を機に社会的な環境が大きく変わる時期です。大きな期待と不安を抱えながらスタートを切り、緊張の中で良くも悪くもエネルギーを使うことが多くなります。結果的に1カ月が経った頃に「燃料切れ」が起こってしまうのです。

そしてもうひとつは気候面での環境変化です。春は過ごしやすい天気の日が多いのですが、気温や湿度の急な変化が起こりやすい季節でもあります。この気候の変化に適応するために、しらずしらず体力を消耗してしまうのです。

漢方の考えで「秋冬」は静的で寒性の「陰」、「春夏」は動的で温性の「陽」と分けられます。4~5月は陰から陽へと大きく転換する時期に当たり、それに連動して心身の変化が起こりやすくなるタイミングです。日本の場合、このタイミングと進学・進級や就職などで体力を消耗する時期が重なってしまいます。結果的に5月頃は心身両面にさまざまな症状が起こりやすくなるのです。

以下では、五月病で起こりやすい症状に合わせて、それぞれに有効な漢方薬をご紹介します。
 

体が重く感じるようなだるさや気力低下を回復する「補中益気湯」

筆者が営んでいる漢方薬局でこの時期に最も多く訴えられる症状は、漠然と身体が重く感じるようなだるさや気力の低下です。これは生命エネルギーである「気」が消耗した典型的な「気虚(ききょ)」の症状です。そのような方には気を補うエース格の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が適しています。上記の他にも消化器のはたらきを向上させる作用もあるので食欲不振、胃もたれ、軟便にも有効です。

ざっくりまとめると「身体が重く、だるくてやる気が出ない」「なんだか食欲がなく食べられない」という方に適したのが補中益気湯です。疲労をきっかけに何らかの不調(頭痛やめまいなど)が起こる方にもまずお勧めできる漢方薬です。
 

もともと貧血体質の方の疲労感に効果的な「十全大補湯」

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は補中益気湯と同じく気を補うことができる漢方薬であり、気の他にも血(けつ)を補う力もあります。心身の疲労感にくわえてもともと貧血気味で顔色が悪く、やせ型の方により有効です。十全大補湯には血を補う地黄という生薬を含むのですが、胃弱の方は稀に胃もたれが出ることもあります。そのような場合は前出の補中益気湯に切り替えてください。

食欲はあり食べられているけれども「元気が出なくて立ちくらみもする」「もともと貧血気味で顔色が青白い」ような方に十全大補湯は良いでしょう。
 

メンタル系の症状を改善してくれる「加味逍遙散」

加味逍遙散(かみしょうようさん)は気の巡りをスムーズにすることで、精神を安定化する漢方薬です。イライラしたり気分が沈んだりする方、眼が冴えて入眠ができない方などに有効です。精神面以外にも上半身のほてりと下半身の冷え、首肩こり、食欲の低下、生理不順や生理痛にも効果を発揮します。

「目立った理由がないのにイライラしたり落ち込んだりする」「生理前になると精神面の不調がより悪くなってしまう」ような方に加味逍遙散は適しています。メンタル系のトラブルが他の症状よりも相対的に目立つ方に有効です。
 

悪天候でめまいや頭痛が出やすい方に効果的な「苓桂朮甘湯」

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は身体の水分バランスを整える漢方薬です。水分代謝が滞ると回転性のめまい、鈍い頭痛、頭が重い感じやだるさ、吐き気、むくみなどが起こりやすくなります。気温が高くなり水分摂取量を急に増やしたりすると発汗や排尿で処理できる以上の水分が身体にたまってしまい、上記のような症状が現れやすくなります。

「頭を動かすとめまいでクラクラする」「乗り物酔いしたような気持ち悪さや頭痛が続いてしまう」ような方に苓桂朮甘湯は適しています。特に天気が悪い時や悪くなる前に症状が悪化する方に有効です。
 

漢方薬だけでなく生活改善も重要! 最優先すべきは「睡眠時間の確保」

漢方薬の服用期間の目安ですが、まず2カ月程度は継続することをお勧めします。身体には元から新しい環境に適応したり、ストレスを跳ね返す力が備わっています。数カ月間服用すればその力を後押しして、ダラダラと「六月病」や「七月病」にならず一時的な不調で済むはずです。

漢方薬の服用だけではなく生活面の改善も必須です。その中で最も重要なのが睡眠時間の確保と質の向上です。うまく眠れない方はカフェインを含んだコーヒー、緑茶、エナジードリンクや栄養ドリンクは避けて、麦茶などのカフェインを含まないものに変えましょう。

日中に仕事でディスプレイをずっと見ている方は目の使い過ぎにも要注意です。漢方医学において目の酷使は情緒不安定から不眠症に繋がると考えます。夕食後や入浴後は意識してスマホやタブレットは控えてみましょう。

まじめな方ほど新年度から良いスタートを切るためにいつもより頑張りがちです。一方でこの時期は心身に負担がかかりやすいと認識し、頑張り過ぎないことも大切です。この点を意識するだけでも気分は楽になるかと思います。
 

自分に合った漢方薬が分からない場合は、専門家に相談を

上記ではしばしば用いられる4つの漢方薬をご紹介しました。これらはドラッグストアなどでも扱っていることが多いのでまず試してみるのも良いでしょう。くわえてこの4種類以外にも五月病に有効な漢方薬はたくさんありますので、判断に迷うようでしたら早めに専門家にご相談されることをお勧めします。

繰り返しになってしまいますが春は気持ちのいい季節である反面、落とし穴が多い時期です。これを認識して仕事量もスケジュールも70%程度の力で過ごすのが良いのではないでしょうか。
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