日本の伝統的な発酵食品「味噌」
味噌は色、麹、味などで種類が分かれます(写真は左から淡色味噌、赤味噌、白味噌)
味噌は大豆に麹と塩を混ぜて作る発酵食品で、色、麹、味などによって分類され、さらにその土地ならではのものもあって種類が多様です。では、日頃よく見聞きする「赤味噌」「白味噌」「合わせ味噌」とはどんな味噌でしょう? その違いを知っておくと、味噌選びに役立ちます。
またおなじみの味噌汁は、沸騰させてもよいのでしょうか? じつは沸騰させてよい味噌と、沸騰させてはいけない味噌があります。こうした味噌の豆知識について和文化研究家の筆者が解説します。
<目次>
味噌の色による分類:「赤味噌」「白味噌」「淡色味噌」
味噌は、大豆に麹と塩を混ぜ、木桶などに入れて発酵・熟成させて作ります。色、麹、味などによって味噌の種類が分かれますが、色で分類したときに濃い茶褐色の味噌を「赤味噌」、淡い茶色の味噌を「淡色味噌」、白めの味噌を「白味噌」と呼んでいます。よく見聞きするのは「赤味噌」と「白味噌」ですが、「淡色味噌」は赤味噌と白味噌の中間で、市販のものの多くが淡色味噌にあたります。味噌の色の違いは、発酵・醸造の際に原料の大豆などのアミノ酸が糖と反応して褐色に変化する「メイラード反応」という化学変化によっておこります。醸造期間が長くメイラード反応が進んだ味噌ほど、味噌の色が濃くなっていきます。商品になってからも熟成は進むので、時間が経つほど色が濃くなっていきます。
「赤味噌」と「白味噌」の違いと特徴
赤味噌と白味噌の大きな違いは、作る工程で大豆を蒸すのか、煮るのかという違いです。また、味にも特徴があります。【赤味噌】
赤味噌は大豆を長時間蒸してメイラード反応を促進させるので、濃い茶褐色になります。また熟成期間が長いのでコクがあるのが特徴です。塩分濃度が高く、味も塩辛くなります。「豆味噌」「仙台味噌」「八丁味噌」などがあります。
【白味噌】
白味噌は大豆を煮てメイラード反応を抑えるように作るので、淡く白めの色になります。また、白味噌は熟成期間が短いため、赤味噌に比べて塩分濃度が低く、麹の糖分で甘みがあるのが特徴です。「西京味噌」「府中味噌」「讃岐味噌」など関西以南の暖かい地方で主に作られています。
「合わせ味噌」とは
「合わせ味噌」とは、2種類以上の味噌を組み合わせたもの
2種類以上の味噌を組み合わせたものを「合わせ味噌」といいます。麹の種類(米・麦・豆)が違う、色(白・淡色・赤)が違う、産地が違う、辛さが違うなどの組み合わせ方があります。互いの個性が混ざり合って新たな風味になります。
味噌の味による分類:「辛口」「甘口」「甘」
「辛口」「甘口」「甘」というように、味噌は味によっても分けられます。味の加減は、食塩の量と「麹歩合(こうじぶあい)」によって決まります。麹歩合とは、原料の大豆に対する麹の割合のことです。塩分が一緒であれば、麹歩合が高めの味噌のほうが甘くなります。味噌の麹による分類:「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」「調合味噌」
麹とは穀物に麹菌を培養して繁殖させたもので、発酵食品で大事な役目を果たします。味噌の主な原料は大豆と塩で、そこにどんな麹を足すかで「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」と、これらを混合した「調合味噌」に分けることができます。【米味噌】
大豆に米麹を加えて作ったもの。全国各地で生産されており、生産量のおよそ80%を占めます。「信州味噌」「西京味噌」「仙台味噌」「津軽味噌」「江戸甘味噌」「加賀味噌」「府中味噌」など。
【麦味噌】
大豆に麦麹を加えて作ったもの。九州、四国、中国地方が主な生産地で、生産量のおよそ9%を占めます。「薩摩味噌」「九州麦味噌」「せとうち麦味噌」など。
【豆味噌】
大豆に豆麹を加えて作ったもの。愛知、三重、岐阜の中京地域が主な生産地で、生産量のおよそ5%を占めます。「八丁味噌」「三州味噌」「名古屋味噌」など。
【調合味噌】
「米味噌+豆味噌」「米味噌+麦味噌」というように、異なる2種類以上の味噌を合わせた製品や、複数の麹を混合して醸造した味噌を指します。生産量のおよそ6%を占めます。
沸騰させてよい味噌、沸騰させてはいけない味噌がある
味噌汁を作るときに沸騰させてよい味噌と、沸騰させてはいけない味噌があります
・米味噌と麦味噌は、90度以上で長時間加熱すると風味が飛んでしまうため、沸騰させてはいけません。味噌を入れたら沸騰直前で止めるか、火を止めてから味噌を加えます。
・豆味噌は、煮込むことで旨みが強くなる特徴があります。そのため、味噌煮込みうどんや土手鍋は、豆味噌(色で分類すると赤味噌)を使ってグツグツ煮込んで作ります。味噌汁も沸騰させたほうがおいしくなるので、最初に味噌を入れ、具材と一緒に煮込みます。
今でもよく使われている「味噌」の慣用句
「手前味噌」は自家製味噌を自慢しあったことに由来します
【手前味噌】
■意味:自分で自分をほめること。自慢。
■語源:かつて味噌は自家製だったため、各家庭で良い味を出すために趣向を凝らし、自分が作った味噌を互いに自慢し合ったことから。「手前」とは自家製、自前、自分のこと。「味噌」には趣向を凝らしたところという意味があり、現代でも「そこが味噌」のように、ポイントの意味で使われています。
【味噌を付ける】
■意味:しくじる。失敗して評判を落とす。
■語源:味噌を器につけて汚してしまうと見苦しいことから。また、昔はやけどの特効薬として味噌を活用していました。やけどをしくじりとみなして「味噌を付ける」というようになったという説もあります。
【味噌っかす】
■意味:一人前に扱ってもらえない人(とくに子ども)
■語源:味噌を濾したときに生じるかすで、価値がないもののたとえや、物の数に入らない者、遊び仲間に入れてもらえない子どもなどを指すようになりました。
※【参考文献】『「和の食」全史』/永山久夫著、『日本の食文化史』/石毛直道著
※【参考サイト】農林水産省Webサイト「今昔、豆の加工品。」
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