「Internet Explorer(インターネット・エクスプローラ)」が誕生したのは阪神・淡路大震災の年
「Internet Explorer」(画像出典:Japan Windows Blog)
同じ1995年の暮れ、勤労感謝の日に「Windows 95(ウィンドウズ95)」が発売されます。秋葉原、日本橋、大須商店街など各地の電気屋街には深夜に向けて続々と人が集まり、店舗前には長い行列。午前0時にWindows 95の販売が開始されますが、深夜のカウントダウンイベントがテレビや新聞で大きくとりあげられ、お祭り騒ぎとなります。
テレビを見ていた人への宣伝効果はバッチリで、Windows 95をきっかけに、はじめてパソコンを買う人が続出。今はサブカルチャーの街となった秋葉原ですが、パソコンや周辺機器を求める人で賑わう電気屋街として発展していきます。
Windows 95にはIEなどが「Microsoft Plus! for Windows 95」として同梱されていました。Windows 95を買えば、話題のインターネットが簡単に始められるというイメージ戦略もあって、人気に拍車をかけます。簡単といってもソフトをインストールし、モデムに接続するために暗号のようなコマンドなどを覚える必要はありました。ただWindows 95がきっかけで個人や企業へ急速にパソコンが普及していきます。
ビル・ゲイツの失敗が背景に
実はIE以前に「Netscape Navigator(ネットスケープ・ナビゲーター)」というWebブラウザが注目を集め、インターネットユーザーには普及していました。マイクロソフトはWindowsとOfficeで十分に儲かっており、IEの開発はすすめていましたがインターネットに本腰をいれてはいませんでした。当時、マイクロソフトが注力していたのは「MSN」というポータルサイトサービスでしたが、既にパソコン通信の時代からインターネットへと移りつつありました。インターネットはオープンな世界で、対極にあるクローズな世界で利益をあげていたマイクロソフトにとってはよく分からない世界でした。マイクロソフトにはネイサン・ミアボルドという天才児がいて、インターネットはWindowsをコモディティ化(付加価値のないものにしてしまう)するプラットフォームとなる可能性があるという予測をし、ビル・ゲイツに伝えます。
ようやくビル・ゲイツのアラームがなりました。この危機的な状態を脱するには、中途半端な組織替えでは不十分であることを認識し、会社全体をインターネットに対応させないといけないと考えます。そこでエグゼクティブスタッフ全員に発信したのが「インターネットという大津波」というメール。1995年、マイクロソフトが「今後はすべてのマイクロソフト製品をインターネット対応にする」と発表し、業界に大きな衝撃を与えます。同じ1995年にGoogle、Amazonがスタートします。
「Windows 98」ではIEをWindows OSとセットで提供し始めたことで、インストールする必要がなくなり、一気に情勢が変わっていきます。同じようにMicrosoft Officeの「Word(ワード)」と「Excel(エクセル)」をWindows OSと抱き合わせ販売して日本ではジャストシステムが提供するインストール型の日本語ワープロソフト「一太郎」を席捲しました。
IEには癖がある
IEがデファクトスタンダードとなったため、各社ともIEを基本としてシステム提供をはじめます。しかし、IEにはいろいろと癖があります。本来、ホームページ(HTML)の規格はW3C(World Wide Web Consortium)という、標準化を行う団体が決めています。よって、その規格を守っていれば、どのブラウザでも同じようにホームページが表示されるはずです。ところがマイクロソフトは勝手に機能を拡張してしまいました。W3Cに提案し、標準化してリリースすればよいのですが、時間がかかるということでマイクロソフトは勝手に機能拡張を作ったのです。結果、IEでできることが増えたため、この機能拡張を使ったWebサイトがいろいろと造られます。ほかのブラウザではちゃんと表示されるページがIEだけレイアウトが崩れることがあったのはそのためです。
IEはその後、機能が追加されるたびに動作が重くなり、Googleがリリースした「Google chrome(グーグルクローム)」など他のブラウザーへ移るユーザが増えます。まずいと思ったマイクロソフトは標準に準拠した「Edge(エッジ)」というブラウザを新たにリリースし、IEからの移行を呼びかけましたが、EdgeにはIEにあった便利な機能がありませんので、Webサイトを作りなおさなければなりません。つまりお金がかかります。
IEのサポート終了の話は以前から出ていたので、Webサイトの改修に動き出しつつあった企業もあります。しかし、そのタイミングで襲ってきたのが、新型コロナです。業績がダウンした企業にWebサイトを改修する予算が出るはずがありません。
現場ではIEを今後も使わざるをえない
こうなるとサポートが終了してもIEを使わざるをえないサイトがでてきます。官公庁や銀行系システムではIEが主になっていました。自治体の入札サイトがIE対応なら、IEを使わざるを得ません。例えば信用金庫で運用しているある信金ネットバンキングは、IEが主でしたがサポートが切れたため、Edgeの「Internet Explorer(IE)モード」で使うようにアナウンスしています。マイナポイントのサイトもIEを主としていたため、パソコンでEdgeやGoogle chromeを使ってマイナポイントの予約、申込を行う場合には拡張機能の追加が必要になります。
また、専用ソフトが古いWindoes XPでしか動作せず、専用ソフトを作っていたメーカーが新しいWindowsに対応しないと発表済、もしくは倒産している場合、Windows XPを使わざるをえません。セキュリティ上の問題があるのでインターネットと切り離す必要があり、ランサムウェア攻撃を受けた徳島県の病院では仕様が古い電子カルテシステムを動かすため、ウイルス対策ソフトを止めていたりしていました。
このように、まだまだ現場ではIEのサポート終了に伴う混乱がしばらくは続きそうです。
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