高校卒業後の進路にはさまざまな選択肢がありますが、学歴と生涯賃金は相関し、「学歴が高くなるほど生涯賃金が上昇する」といわれています。
ならば奨学金という借金を背負ってでも進学したほうがいいのか、学歴別にどれだけの金銭メリットが得られるのか、などを公表データをもとに考えてみます。
一人あたりの奨学金の平均借入額は324万円
労働者福祉中央協議会がおこなった調査によると、一人あたりの奨学金の平均借入総額は324.3万円であり、返済月額約1万7000円、返済年数約15年間と報告されています(「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査 2019年3月」」)。正社員なら、月々1万7000円を返済できないことはないでしょうが、決して楽な額でもありません。しかも、返済がこの先15年も続くとなれば、将来設計に不安を感じる人も多いはずです。
なぜ、奨学金を借りてでも進学するのか。それはいうまでもなく、収入をはじめ、将来の選択肢を広げるためでしょう。
ちなみに、日本学生支援機構の貸与型奨学金の学種別利用割合は、大学(37.1%)、短期大学(44.9%)、専門学校(41.3%)と報告されています(日本学生支援機構「奨学金事業への理解を深めていただくために」2019年2月)。
気になるのが、大学よりも短大や専門学校のほうが奨学金の利用割合が高い点。一般的に修学期間が4年間の大学の方が2年間の短大や専門学校に比べて、奨学金の利用率が高まると思うでしょうが、実態はその逆なのです。
6500万円もの生涯賃金差! 女性のほうがインパクトが大きい学歴効果
生涯賃金を示す例としてよく引用される「ユースフル労働統計」という指標集があります。今回は「ユースフル労働統計2021」から学歴別の生涯賃金差(2019年)をグラフにしてみました。すると、学歴が高くなるほど生涯賃金が上昇するという結果が示されています。 さらに「高卒」と比較した「高専・短大卒」「大学・大学院卒」の賃金差に絞って男女別の生涯賃金差を見てみます。
高卒との生涯賃金差(男女別)
この統計は「60歳まで途切れることなくフルタイムで働く」「退職金を含めない」という前提条件のもとに出された推計値で、かつ個人への保証ではありません。しかし学歴による経済的メリットが男性よりも女性のほうが大きいことが見てとれます。
奨学金の借入額を含めた生涯賃金の収支は?
一人あたりの奨学金の平均貸与額が約324万円であることは先に触れました。そこで、奨学金の借入額も含めた高卒との生涯賃金差を見てみたいと思います。専門学校でも医療系やIT系分野では3年制以上の学科が増えていますが、一般的に短大・専門学校の修学期間は2年です。また、大学学部生と院生でも修学期間が異なります。そのため、奨学金の実際の借入額は324万円より多い人も少ない人もいるはずですが、ここでは学種に関わらず先の平均額を引用します。
奨学金の平均借入額を差し引いた高卒との生涯賃金差(男女別)
しかし、それを割り引いても、学歴が女性の生涯賃金に与えるインパクトの大きさに驚きます。以前から課題になっている女性の社会進出が、いかに日本経済の発展に大きな影響を与えるかが想像できます。
いっぽう、男性は女性よりも相対的に学歴効果が低く、とくに短大・高専・専門学校卒者の高卒者との賃金差はマイナス74万円です。つまり、奨学金を借りて進学しても金銭的メリットが得られないということになります。
事実とすれば非常にショッキングなことです。社会が高等教育に求める質と実際の教育現場との間にずれが生じているならば、広く真剣に議論しなければならないテーマです。
高校現場の周辺に20年以上携わっている筆者の個人的な感覚ですが、これには専門学校進学における男子と女子での学校選びの違いがあるように感じます。大まかにいうと、女子は医療系分野など将来の保証が見通せる進路が多く、男子はエンタメ系など趣味や憧れの延長の「夢追い系」分野へ進学する方向性があるからではないかと考えます。
将来を見すえて慎重な進路選択を
今回引用した統計では、大学・大学院卒者の生涯賃金が最も高いという結果が示されましたが、大学全入時代といわれる現在では大学も玉石混交です。ご承知のように、大卒だから将来が保証されるという時代でもありません。また、全国には2754校(2021年度)もの専門学校が設置されています。進学率も24%と短大(4.0%)、高等専門学校4年次(0.9%)に比べてはるかに高く、高校生の進路に与える影響は大きいものです。
さらに、企業のほうでも日本的雇用慣習の「終身雇用」「年功序列」から「ジョブ型」「成果主義」への転換が進んでおり、個々の能力が求められるようになっています。
これらのことを踏まえても、学歴別生涯賃金はひとつの指標に過ぎないかもしれませんが、将来への投資効果を考える際の参考材料として活用する価値はあるように思います。
【参考】
文部科学省の「令和3年度学校基本調査」