ヨーロッパ東部のおすすめ世界遺産
トルコの世界遺産「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群」の奇観。奇岩群は、柔らかい地層の上に固い地層が堆積した大地が隆起して、下の柔らかい地層が万単位の年月を経て風雨に削られることで生み出される ©牧哲雄
この地域はトルコとバルカン半島を除くほとんどの地域が冷帯~寒帯に属しており、一部は北極圏となっている。ロシアや北欧の一部には永久凍土が広がっており、凍土は深さ400m近くに達する。北極圏にあるロシアの世界遺産「ランゲル島保護区の自然生態系」やスウェーデンの「ラポニアン・エリア」では白夜やオーロラが見られるほか、シロクマやトナカイなど独特の動植物が生息している。
永久凍土の上にはタイガと呼ばれる針葉樹林やツンドラと呼ばれる草原が広がっている。緯度が下がるにつれて落葉広葉樹が顔を出すようになり、世界遺産でいえばウクライナとスロバキアの「カルパチア山地のブナ原生林」やベラルーシとポーランドの「ベラヴェシュスカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャの森」のような森林が広がっている。
スウェーデンの世界遺産「タヌムの線刻画群」の岩絵。種々の船や農耕の牛車、祈りの姿や狩猟の様子など、およそ3,000点の絵や図形が発見されている
巨大な古代文明が栄えたのは地中海や黒海周辺。紀元前18世紀頃にアナトリアにヒッタイトが興り、鉄器を使用して西アジア最強国となった。エーゲ海にはクレタ、ミケーネ、トロイアなどの文明が誕生したが、ヒッタイトを含むその多くが「海の民」によって滅ぶ。トルコの世界遺産「ハットゥシャ:ヒッタイトの首都」やギリシアの「ミケーネとティリンスの古代遺跡群」などがその遺構だ。
「世界のヘソ」と呼ばれたギリシアの世界遺産「デルフィの古代遺跡」のアテナの聖域。アポロン神殿で下されるデルフィの神託には絶対的な力が与えられていた
紀元前後には地中海と黒海周辺のほとんどをローマ帝国が支配する。395年に帝国は東西に分裂、西ローマ帝国は476年に滅びるが、バルカン半島やアナトリアを中心とする東ローマ帝国(ビザンツ帝国)は1453年まで1,000年以上も存続する。その国教が正教会(ギリシア正教会、東方正教会)で、これがヨーロッパ東部の国々に浸透していく。ローマ時代の世界遺産にはトルコの複合遺産「ヒエラポリス―パムッカレ」やギリシアの「テッサロニキの初期キリスト教とビザンチン様式の建造物群」などがある。
中世以降はハプスブルク家が支配した神聖ローマ帝国やオーストリア帝国、ロマノフ朝によるロシア帝国、イスラム教国であるオスマン帝国など、各地に帝国や王国が興り、それぞれに都市が発展した。チェコの「プラハ歴史地区」やロシアの「サンクト・ペテルブルグ歴史地区と関連建造物群」、ポーランドの「クラクフ歴史地区」などがその一例だ。
では、ヨーロッパ東部の代表的な15件の世界遺産を紹介しよう。
アテネのアクロポリス
女神アテナを祀るパルテノン神殿。ユネスコのマークはこの神殿の円柱部分にUNESCOの文字を配してデザインされている ©牧哲雄
紀元前1500年前後よりミケーネ文明の城砦がアクロポリスの丘に建築され、女神アテナの神殿が建てられた。やがて都市国家アテネはギリシアの盟主に成長し、街は絢爛豪華に造り直される。その象徴が人類史上最高の建築物といわれ、ユネスコのシンボルマークにも使用されているパルテノン神殿だ。円柱ひとつとっても中央より下を絞り、やや内側に傾斜させ、柱の間隔をそれぞれずらし、四隅の柱を太くして、最高の美観が得られるよう配慮されている。
紹介記事はこちら>>アテネのアクロポリス/ギリシア