「公立王国」の愛知において、2校に1校が“定員割れ”の衝撃

高校受験本番まで半年を切った今、志望校選びに余念がないという人も少なくないでしょう。「地元で評判のあの公立高校がよい」という人もいれば、「授業料は高いけど、私立高校も捨てがたい」という人もいます。

そんな中、公立高校が上位進学校の多数を占める「公立王国」として有名な愛知県で、今年度(2022年度に高校進学を目指す生徒)の中学校卒業見込者数6万9680人のうち、私立高校への進学希望者数は1万2806人であることが分かりました(「令和3年度中学校等卒業見込者の進路希望状況調査(2021年10月)」。

2016年の同調査では、中学校卒業見込者数7万2601人のうち、私立への進学希望者は9902人でした。5年前に比べ、中学校卒業見込者数が約3000人も減っているにもかかわらず、私立高校への進学希望者は約3000人も増えているということです。

つまり、この数年で公立高校離れが進んでいるということが分かります。
愛知の公立高校の定員割れ状況と二次募集の人数

愛知の公立高校の定員割れ状況と二次募集の人数推移/「全日制第二次選抜募集人員(愛知県)」より筆者作成

また2021年度入試(2021年度入学の生徒)の二次募集の状況によると、愛知県の公立高校の50.9%が定員割れを起こしていることが分かりました。定員割れとは、受験生が募集定員を下回っている状態。学科やコースなど何らかの形で募集定員を満たしていない高校があることを示しています。

愛知県の全日制公立高校159校のうち、2017年度入試で定員割れを起こしたのは36校だったのに対して、2021年度入試では81校へと倍増しています。過去5年間の志願状況をまとめたのが上のグラフ。定員割れの高校の割合は22.6%から50.9%となり、二次募集の人数は550人から2676人へと4倍以上に増えているのです。

NHKの調べによると、この傾向は全国規模で起きていることが分かりました(「2019年4月 都道府県別 公立高校の定員割れ」)。全国の公立高校のうち約43%にあたる1437校の学科やコースにおいて、募集人員を下回る「定員割れ」となっていたのです。中には、高知など9割以上の公立高校で定員割れが起こっている地域もある一方、東京は約10%と都市部になるにつれてその割合は低い傾向にありました。しかし、都市部の場合、割合が低くても生徒数や高校数が多いためその影響はむしろ小さくありません。

定員割れの問題は、少子化だから仕方がないと思われるかもしれませんが、それだけではありません。こうなった背景として考えられるいくつかの要因を見てみましょう。
 

私立高校の「授業料実質無償化」が人気を後押し

2020年4月から、私立高校に対する就学支援金制度が変わりました。年収目安590万円未満の世帯は私立高校の平均授業料分の支援金を受けることができ、これにより私立高校の授業料の実質無償化が実現したのです。
 
さらに例えば愛知では、県による独自の支援金の拡充制度があり、年収目安720万円未満の世帯までが実質無償化の対象、また年収目安840万円未満までは授業料の半額が補助されます。こうした県独自の支援金の拡充制度は、神奈川など他の自治体でも取り入れられています。
 
こうした流れもあり、それまで高嶺の花だった私立高校が志望校として現実的な選択肢となり、公立高校離れ、私立高校人気につながったのです。
 

公立高校の旧態依然とした指導方針

この他、急速に公立高校離れが進んでいる原因として挙げられるのが「チョーク&トーク」「大量のプリント課題」「地毛証明書」などに代表される古い指導観や理不尽な校則などの旧態依然とした方針や校風です。
 
チョークを使って板書をする授業自体が悪いわけではありませんが、「ノートに写すだけで精一杯」「退屈で眠くなる」など生徒の不満は後を絶ちません。また、先生がよかれと思って出している大量のプリント課題が、ただの重荷となっている生徒も少なくありません。「地毛証明書」を提出させるといった理不尽な校則は、今や全国的に問題となっており、生徒や保護者の不満の要因のひとつとなっています。
 
また、プロジェクターを使った視覚でも捉えやすい授業、タブレットを活用したグループワークなどICTを活用した授業となると、公立高校は私立高校と比べて見劣りするのが現実です。

もちろん、私立高校にもそういった厳しい校則やプリント課題などがないわけではありません。ただ、これまで公立高校は教育費の面でお手頃であったため、理不尽なことも受け入れざるを得ないのが現実でした。しかし、それも私立高校の授業料実質無償化により進学の選択肢が現実味を帯びたことで敬遠される理由となってしまったのです。
 

コロナ禍、全国的に拍車がかかった「私高公低」

東京では当たり前と思われる「私高公低」の傾向も、全国的に見るとその逆でした。しかし、コロナ禍の一斉休校が、全国規模による私立高校人気、公立高校離れという「私高公低」に拍車をかけました。
 
すぐにオンライン授業に切り替えたり、動画を配信したりした高校と、大量の紙プリントでその場をしのぐという場当たり的な対応をした高校とに二分化されました。一概に決めつけられませんが、それでも前者に私立高校が多く、後者に公立高校が多かったということが、SNSで拡散された生徒・保護者の声で明らかになりました。
  
公立高校でも、授業動画と称していくつかの科目の動画が学校のホームページにアップされましたが、「何をしゃべっているのかさっぱり分からない」といった不満の声も多くみられました。

コロナによる一斉休校が前代未聞の事態なのは、高校生も重々承知しています。もちろん、動画に関しては学校の先生はプロではありませんから、教育系YouTuberなどと比較すること自体フェアではありません。

しかし問題は、決して動画の出来などといったことではありません。いかに生徒に寄り添ってくれる高校か、その評価が明暗を分け、公立高校の多くが私立高校と比べて見劣りすることがあらわになってしまったのです。
 

N高に代表されるような広域通信制高校の台頭

私高公低の傾向に追い打ちをかけようとしているのが、N高等学校に代表されるような広域通信制高校の台頭です。2020年の時点で全日制高校に通う生徒数は約301万人ですが、通信制高校に通う生徒数は20万人を超えました。特に私立の通信制高校に通う生徒数は、ここ数年、数万人という規模で増え続けています。
 
通信制の高校は全日制と異なり、毎日学校に通う必要がありません。もちろんスクーリングもありますが、オンラインで授業を受けたりレポートを提出したりすることにより、高校卒業の資格を得ることができます。理不尽な校則なども一切ありません。生徒の興味や自主性に任せた学びが可能ということで、今注目を浴びているのです。
 
もちろん、通信制の高校にも問題がないわけではありません。生徒数が急激に増えすぎたことで、教員の過酷な労働実態が問題視されている高校もあれば、実際には授業を行っておらず、ずさんな指導を行っていた「偽装授業」が問題となった高校もありました。
 
しかし、それでも通信制の高校に編入したという話は最近よく耳にします。また以前は、偏差値の低い高校を中退して通信制に入ってくる子が多かったのですが、現在は公立進学校特有の授業進度の速さや宿題の多さが苦になって辞めて編入する子も少なくないようです。
 

志望校選びは「公立と私立のメリット・デメリット」をよく吟味して

日比谷高校に代表されるような公立高校の逆襲はあるか?

日比谷高校に代表されるような公立高校の逆襲はあるか?

かつて東大合格者数で全国一を誇っていた都立日比谷高校が、その座を譲って何十年も経ちます。ところがここ数年、日比谷高校も復活を遂げ、全国の公立高校の中で東大合格者数がトップとなっています。
 
公立の学校は、教員の異動によって指導方針や校風が変わってしまうことも少なくありません。しかし、それは教員の流動性が高いことの表れでもあります。一方、私立高校の中には、教員が固定化されることで指導のマンネリ化が問題視されているところもあります。
 
また、公立高校は地域に点在していて通いやすいのもメリットのひとつです。大学のように電車やバスを乗り継いで通わなくても、徒歩や自転車で通学可能な高校も少なくありません。
 
こうしてみてみると、私高公低と一概に決めつけられるものではないかもしれません。公立と私立、それぞれのメリットとデメリットをよく吟味して、最適な志望校選びをすることが何よりも大切といえます。

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