南米のおすすめ世界遺産
ペルーの世界遺産「マチュピチュの歴史保護区」。奥の山が「古い峰」を示すワイナピチュで、写真には見えないが手前が「新しい峰」マチュピチュになる。遺跡はふたつの峰の間にある ©牧哲雄
ペルーの世界遺産「チャンチャン遺跡地帯」。9~15世紀に栄えたチムー王国首都の遺構で、通気性を考えた網状の壁が特徴 ©牧哲雄
赤道の前後にあるため大陸の多くの部分が熱帯から亜熱帯に属し、その中心にアマゾン盆地が広がっている。アマゾン川を河口から4,000kmさかのぼっても標高100mほどという広大な盆地に世界最大のジャングルが生い茂り、その周囲も湿地や森林が囲んでいる。世界遺産でいえば、ブラジルの「中央アマゾン保全地域群」やペルーの「マヌー国立公園」がアマゾン、ブラジルの「パンタナール保全地域」が大湿原だ。
平らなアマゾン盆地だが、大陸の西端付近でいきなりアンデスの大山脈にぶつかる。気候は劇的に変わり、山頂付近には万年雪や氷河さえ広がっている。太平洋岸は雨が極端に少ない砂漠地帯で、そのため砂漠に描いたナスカの地上絵が1,500年以上経っても消えないでいる。特徴的な世界遺産には、ジャングルから高山にかけて多彩な気候を見せるペルーの「リオ・アビセオ国立公園」や、標高6,768mにもなる「ワスカラン国立公園」がある。
大陸南端は南緯約55度にもなり、温帯から寒帯までの気候が順次現れる。南緯40度前後から南に広がるパタゴニアには大氷河地帯があって、アルゼンチンの世界遺産「ロス・グラシアレス」のペリト・モレノ氷河などで知られている。
ポルトガル語で「ああ、美しい!」という名を持つブラジルの世界遺産「オリンダ歴史地区」
大規模な文化が栄えたのは乾燥地帯である太平洋沿岸で、ペルー周辺では紀元前2,000年前後には数々の文化が見られた。具体的にはチャビン、ナスカ、チムー、ティワナクなどの文化があり、それぞれの遺構である「チャビン(古代遺跡)」「ナスカとフマナ平原の地上絵」「チャンチャン遺跡地帯」がペルーの、「ティワナク:ティワナク文化の宗教的・政治的中心地」がボリビアの世界遺産として登録されている。
13世紀、インカ帝国がプレ・インカ文化群を統一し、コロンビアからチリに至る大帝国を興す。地球の円周40,000kmほどもあったといわれるインカ道(カパック・ニャン)を張り巡らせ、首都クスコを金で覆うほどに栄えたが、1532年、ピサロ率いる200人に満たないスペイン人によって皇帝アタワルパが捕えられ、やがて帝国は消滅する。ペルーの「クスコ市街」「マチュピチュの歴史保護区」「アンデス道路網、カパック・ニャン」がこの時代の世界遺産だ。
これ以降、スペインやポルトガルによる支配がはじまり、数多くの植民都市が築かれた。エクアドルの「キト市街」、ペルーの「リマ歴史地区」、ブラジルの「オリンダ歴史地区」などの世界遺産が一例だ。
では、南米の代表的な15件の世界遺産を紹介しよう。なお、イースター島のモアイで有名なチリの世界遺産「ラパ・ヌイ国立公園」については記事「オセアニアの世界遺産」で紹介する。
ロス・グラシアレス
「ロス・グラシアレス」はスペイン語で氷河のこと。写真は青く輝くペリト・モレノ氷河。水面から50mほどもある氷塊が大音響と共に湖に落ち込む
パタゴニアに約30ある国立公園のひとつで、氷河の集中地帯。太平洋からもたらされる湿気がアンデス山脈にぶつかって冷やされて降る雪が源で、その規模は南極やグリーンランドに次ぐといわれる。雪のあまりの圧力に氷中の気泡は少なく、光の吸収力が高まるおかげで氷河は青く輝いている。衝撃的なのがペリト・モレノ氷河。高さ150m以上もある氷河の末端は毎日2mほど前進しており、20,000年かけて末端に達し、湖の水圧で削られて大崩落を起こす。