企業のIT活用

エッジAIとは? レジやロボット、スマホにもAIが搭載されるとどうなる?

近年話題になっている「エッジAI」。エッジとは端の意味で現場で活用するAI(人工知能)になります。今までのクラウドAIとエッジAIはどう違うのか、企業での導入事例などを交えながら解説します。

水谷 哲也

執筆者:水谷 哲也

企業のIT活用ガイド

第三次ブームを迎えたAI。話題のエッジAIとは?

エッジAI

エッジAI

AI(人工知能)は第三次ブームを迎え、「AIで仕事を奪われるからベーシックインカムを考える」「藤井聡太棋聖がAI将棋で勉強」など、AIという言葉をよく聞くようになりました。今までは専用機でAIが提供されていましたが、クラウドでの提供へと移っています。

本記事では近年話題の「エッジAI」について解説しますが、まずはエッジAIの前にクラウドAIについて事例を交えながら昨今の動向をみていきましょう。
 

安い早いお気軽――クラウドAI

2017年頃からAmazonがクラウドでAIサービスを始め、IBMのWatson(ワトソン)など同じようにクラウドで提供される多彩なAIサービスが増えクラウドAIが一気に拡がりました。AIというと難しい印象がありますがトレーニング教材やチュートリアルが充実していて、すぐに試すことができます。

以前のようにAIを使うために専用機を導入して多額な投資をしなくても、クラウドですから利用期間に応じたチャージ料を支払えば個人でもすぐに始められます。無料で試して、良ければカード決済をし、始めることができるのです。
 

クラウドAIの事例:AIアナウンサー「ナナコ」、コールセンター

ここでエフエム和歌山のクラウドAIを使った事例を紹介します。放送局は災害時にニュースを流さないといけませんが、アナウンサーを常に確保すると経営が成り立ちません。同社では何とか自動化できないかシステム会社に見積もりを依頼すると、非常に高額となりました。そこでAmazonのAIサービス「Amazon Polly」(※深層学習を使用して文章をリアルな音声に変換するサービス)を使用して、AIアナウンサー「ナナコ」を開発します。

ナナコの導入により、エフエム和歌山は2017年7月からアナウンサーやスタッフを確保できない時間帯でも24時間アナウンスし続ける体制が可能になりました。Amazonに支払っているのは年間1000円ほど。現在ではニュース、天気予報の文章の取得、推敲、再生まで全ての工程をオートメーション化し、完全無人による放送を可能にしています。

大手企業でもクラウドAIの導入が進んでいます。三井住友銀行ではIBMのワトソンをコールセンターに導入しています。今まではオペレーターが顧客からの問い合わせ内容に従って資料を探し回答していたため、経験の多いベテランと新人には大きな差がありました。

ワトソン導入後は顧客からの問い合わせ内容をテキストに変換、分析し、瞬時にオペレーターの画面にいくつかの回答候補を表示します。オペレーターは資料を探し回らなくても顧客に確認しながら画面で候補を絞り込み、回答ができます。クラウドAIの導入によって、応答時間、質ともに向上しました。
 

エッジAIの発達はセンサーがたくさんできたから

エッジとは端の意味です。エッジAIとは、末端のいろいろなデバイスにAIを搭載したものをいいます。

ビッグデータという言葉をよく聞きますが、データが増えた要因の一つがセンサーです。電気屋街へ行くと加速度センサー(歩数が分かる)、ジャイロスコープ(姿勢が分かる)、地磁気センサー(デジタル方位計)、近接センサー(耳元に近づけると電源を落とす)、照度センサー(周りにあわせて明るさを調整)、圧力センサー(気圧がわかる)、GPS(位置情報)が売られています。

これらのセンサーは全てスマートフォンに入っています。センサーが簡単に安く手に入るのはスマホの普及で大量に作られるようになったからです。さまざまなセンサーが手に入るようになったため、IoTが進化、普及しました。このセンサーをデバイスに組み込んだエッジデバイス(IoT)にさらにAIを組み込んでエッジデバイス側で処理を行うのがエッジAIです。
 

エッジAIって、クラウドAIではダメなの?

5G(第5世代移動通信システム)など通信速度が速くなりましたが、やはりタイムラグがあります。

車の自動運転では瞬間、瞬間でAIが判断しないと事故になってしまいます。他にもたくさんの製品を流す産業用ロボットや工作機械でも即時性が求められるので、エッジAIが活躍をします。エッジAIには、クラウドに依存せずエッジデバイスだけで行う「スタンドアロン型」と、判断・制御はエッジデバイスで行いますが、その他はクラウドを活用する「併用型」があります。
 

エッジAIの事例:パン屋

エッジAIの事例をみていきましょう。パン屋で難しいのがレジでの計算。パンが全て均一料金のお店はなく、パンの種類と価格を覚えなければなりません。アルバイトを雇うと覚えてもらうのに時間がかかり計算ミスなどで顧客からのクレームになります。そこで作られたのが画像認識AIレジです。

画像認識AIレジは、ベーカリースキャンという名前でトレイ上のパンの種類・値段を一括で認識します。本格的なディープラーニング(深層学習)を導入すると大変なので、パンの認識にさまざまな角度から5つほど撮影すればOKと小さなパン屋でも導入しやすいように工夫をしています。セルフレジと組み合わせて、お客さんが会計している間にパンの袋詰めができ素早く提供できます。
 

エッジAIの事例:身近になりつつある物流、ロボット

エッジAI:荷物を運ぶロボット

エッジAI:荷物を運ぶロボット

エッジAIは大手企業でも導入が進んでおり、例えばドローン物流の実証実験が始まっています。ドローンは離島や僻地へは目視で飛ばせません。ドローン自身が自分の位置を把握し各種センサーから得たデータをリアルタイムに計算して、飛行速度や方向、高度などを判断し飛び続け確実に届けなければなりません。少し怖いのは技術的に軍事やテロにも応用できる点で何らかの仕組みが必要になることです。

工作機械ではAI切りくず除去の搭載が進んでいます。何千万円もする工作機械内に切りくずが貯まると工作機械が止まってしまい生産計画に大幅な影響を与えます。そこで切りくずの画像をAIに覚えさせ、切りくずにあわせて工作機械内の洗浄経路を制御し、効率的に取り出せるよう実装が始まっています。これで工作機械を止める必要がなくなります。

新型コロナウイルスの影響で人と接触しないビジネスが着目されています。ホテルや施設などで活用できるAI業務用掃除機もエッジAIの一つです。走行ルート上の障害物や段、人を検出して適切に行動します。施設によっては夜に掃除をする必要があり、人の確保が大変な点も解消できます。同じようにAIを使った食事の配膳や荷物を運ぶロボットも登場しています。

私たちが日常的に使っているスマホにも各種センサーが組み込まれクラウドで接続されています。現在発売されている端末のほとんどはクラウドを活用するデバイスにすぎませんが、スマホにAI機能が搭載されればスマホ自身がエッジAIにもなるのです。
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