定年・退職のお金

公的年金の繰り上げ受給、繰り下げ受給 結局どうしたらお得なの?【動画でわかりやすく解説】

老後収入の中心となる公的年金ですが、本来の受け取り開始年齢より早く受け取る「繰り上げ受給」、遅く受け取る「繰り下げ受給」が選べるのはご存じでしょうか。今回はこの「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」が得なのかどうかを考えてみたいと思います。

川手 康義

執筆者:川手 康義

ファイナンシャルプランナー / サラリーマン家庭を守るお金術ガイド

  • Comment Page Icon
老後収入の中心となる公的年金ですが、本来の受け取り開始年齢より早く受け取る「繰り上げ受給」、遅く受け取る「繰り下げ受給」が選べるのはご存じでしょうか。今回はこの「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」が得なのかどうかを考えてみたいと思います。

【ガイドの川手さんが動画で年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給について解説】



《目次》
公的年金の繰り上げ受給とは
公的年金の繰り下げ受給とは
繰り上げ受給、繰り下げ受給は得なの?損なの?
繰り上げ受給を選ぶ際の注意点
繰り下げ受給を選ぶ際の注意点
繰り上げ、繰り下げの選択は総合的に判断すべき
 

公的年金の繰り上げ受給とは

公的年金の支給が始まるのは原則65歳ですが、仮に60歳で定年された場合、受け取り開始まで5年の期間があります。そんなに待てないので早く年金を受け取りたいと本人が希望すれば支給を前倒しで開始できる制度、これが「公的年金の繰り上げ受給」制度です。繰り上げ開始年齢は60~65歳の間から月単位で選べます。それならば早くからもらった方が得かといえばそうとも限りません。なぜならば繰り上げ受給の請求をした時点(月単位)に応じて年金額は減額され、その減額率は一生変わらないためです。

減額率は1カ月あたり0.5%ですので仮に60歳からの受給開始を選んだ場合、5年(60カ月)早く受け取るわけですから0.5×60=30%減額された額、つまり本来受け取るはずの70%相当の年金額しか毎年受け取れなくなることになります。
繰り上げ,減額率,月数

繰り上げ月数によって減額率が変わります

 

公的年金の繰り下げ受給とは

逆の制度として本来の受け取り開始年齢である65歳よりも支給開始年齢を遅くできる制度が「公的年金の繰り下げ受給」制度です。こちらは受給開始年齢を66歳(注1)~70歳(注2)の間から月単位で選ぶことができます。請求した時点(月単位)に応じて年金額は増額されその増額率は1カ月あたり0.7%です。仮に70歳からの受給開始を選んだ場合5年(60カ月)遅く受け取るわけですから0.7×60=42%増額された額、つまり本来受け取るはずの142%相当の年金額を毎年受け取れることになります。

(注1)65歳0カ月~65歳11カ月までの間は繰り上げできないことに注意が必要です
(注2)2022年4月から75歳まで繰り下げることが可能になります
繰り下げ,増額率,月数

繰り下げ月数に応じて増額率が変わります

 

繰り上げ受給、繰り下げ受給は得なの? 損なの?

「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」それぞれの制度を選んだ場合の受給額を65歳からの通常受給と比べて考えてみましょう。下の図は「繰り上げ受給」を選んだ場合と65歳受給した場合の受け取り総額と比較したものです。

例えば60歳受給開始を選んだ場合で考えると、毎年の受け取り額は本来受給額の70%相当。それを毎年累積していくと76歳満了時点で本来の65歳受給より受け取り総額が少なくなるのが分かります。

同じように61歳受給開始の場合は77歳、62歳受給開始の場合は78歳、63歳受給開始の場合は79歳、64歳受給開始の場合は80歳とそれぞれの年齢を満了した時点で本来の65歳受給より受け取り総額が少なくなるのがお分かりかと思います(図内の黄色い枠)。逆に言うとその年齢までは繰り上げ受給しておいた方が受け取り総額は多いわけです。
繰り上げ,年間受給額,累計受給額

繰り上げで減額された年間受給額はずっと変わらない


次に「繰り下げ受給」を選んだ場合はどうでしょうか。「繰り下げ受給」を選んだ場合と本来の65歳受給の場合の受け取り総額を比較したものが下の図です。仮に66歳からの繰り下げ受給を選んだ場合だと77歳満了時点で繰り下げ受け取り総額が本来の65歳受給総額を上回り、その後は受け取り総額が増えていくことが分かります。

同じように67歳受給開始の場合は78歳、68歳受給開始の場合は79歳、69歳受給開始の場合は80歳、70歳受給開始の場合は81歳とそれぞれの年齢を満了した時点で本来の65歳受給より受け取り総額が多くなることが分かります(図内の黄色い枠)。
繰り下げ,年間受給額,累計受給額

繰り下げで増額された年間受給額はずっと変わらない


もらえる年金額以外にも「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」を選ぶ際に知っておくべき注意点がありますので以下にまとめてみました。
 

繰り上げ受給を選ぶ際の注意点

・老齢基礎年金、老齢厚生年金の両方同時に繰り上げなければならない
・国民年金に任意加入中の方は選択できない(年金額を増やす目的で入っている人のことです)
・繰り上げ受給中に障害者となっても障害年金はもらえない
・繰り上げ受給すると寡婦年金がもらえない(国民年金保険料を10年以上払った夫と10年以上結婚している65歳未満の妻は、夫が死亡した場合、本来夫が受け取るはずの年金額の3/4がもらえ、これを寡婦年金といいます)
・繰り上げ受給した場合、65歳になるまで遺族厚生年金を併給できない(繰り上げ受給中に配偶者が亡くなった場合、65歳になるまでは「繰り上げ受給している年金」か「遺族厚生年金」どちらかを選択しなければならないという意味です。65歳以降は併給可能です)
 

繰り下げ受給を選ぶ際の注意点

・老齢基礎年金、老齢厚生年金はどちらか一方を繰り下げることが可能
・繰り下げの選択は66歳以降(65歳中はできません)
・65~66歳になる間に他の年金の受給権が発生した場合は繰り下げができない
・66歳以降に他の年金の受給権が発生した場合はその時点で増額率が固定される
・加給年金は増額されず、待機期間は支給されない(厚生年金に20年以上入っている方が年金を受け取る場合、配偶者が65歳になるまで加算される家族手当のようなものです。条件あり)
・在職中の方は、在職老齢年金調整後の額が増額の対象(65歳から70歳の間、働いている場合、年金の一部または全額が支給停止となる場合があり、在職老齢年金といいます)
 

繰り上げ、繰り下げの選択は総合的に判断すべき

早くからもらえるから「繰り上げ受給」を、年金額が増えるから「繰り下げ受給」をと安直に選んでしまうのはあまりおすすめしません。なぜなら前項で述べたように、受給金額以外にも繰り上げ、繰り下げを選ぶことで通常なら受けられたはずの制度が制約を受けてしまうことも多いためです。

繰り上げ受給、繰り下げ受給を選ぶ際には、ご自身の状況も踏まえたうえで総合的に判断する必要があるかと思います。

【関連記事をチェック】
いま話題のイデコ(iDeCo)、何から始めたらいいの?
定年退職後にかかる医療費と介護費の目安はいくら?自己負担の金額とは?
失業した・収入が下がった時の年金保険料免除制度とは
【編集部からのお知らせ】
・「家計」について、アンケート(2024/10/31まで)を実施中です!

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※謝礼付きの限定アンケートやモニター企画に参加が可能になります
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます