メンタルヘルス

精神科入院…任意入院・医療保護入院・閉鎖病棟など

【医師が解説】統合失調症などの心の病気を発症した場合、症状の深刻さによっては精神科への入院治療が望ましいことがあります。任意入院と医療保護入院の違い、閉鎖病棟と開放病棟の違い、実際の入院生活での一日のスケジュールや、タバコやアルコール、スマホの持込可否とそれらの理由など、精神科入院の基本について解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

心の病からのよりよい回復のためには、精神科病院への入院治療が必要なことも

 
医者の説明を受ける患者

心の病気の症状が深刻な場合、精神科での入院治療が望ましいこともあります。実際の入院生活には、どのようなイメージを持たれているでしょうか。


うつ病、統合失調症などの心の病気が重症化してしまった場合など、精神科病院への入院治療が必要になることもあります。症状の深刻さによっては長期間の入院になることもあるかもしれません。精神科病院での入院生活については、心の病気の経験などがない方にはイメージがつきにくい面も多いでしょう。
 
心の病気の基礎知識として、実際の精神科病院での入院生活がどのようなものなのか、今回は統合失調症での入院を例に詳しく解説したいと思います。なお、一般的に「精神病院」と言われることもまだ多いですが、正しくは「精神科病院」ですので、以下では正式表記で解説を進めたいと思います。
 

精神科病院への入院治療の必要性……基本的に症状の深刻さで判断

精神科入院で多いのは、統合失調症あるいは類似の疾患によるもので、これらだけでおよそ半数近くを占めています。統合失調症の発症率はおよそ人口の1%ぐらいで、これは日本に限らず、どの国で統計をとっても1%前後の数字になっています。統合失調症は生まれた国や気候などの環境が発症率にあまり関わらない疾患の1つともいえます。
 
一方、うつ病の発症率は人口の10%前後です。統合失調症と比べると桁が1つ違いますが、うつ病による入院は統合失調症によりも少ないです。うつ病の場合に入院治療が必要か否かは、基本的には症状の深刻さで決めることになります。
 
心の病気は、一般に症状の出方や深刻さの個人差が出やすいものです。しかし、それでも統合失調症に入院治療が必要になることが多い理由としては、一般に統合失調症で現れやすい幻覚や妄想などの症状が、うつ病などで出やすい症状よりも、入院環境による集中的な対処がより必要なことが多いためとも言えます。
 

入院したいという希望だけで精神科に入院できるとは限らない

入院治療を本人やご家族が強く望まれる場合もあります。ご本人が入院治療を望んだり、医療者からの提案を受けて入院する場合は「任意入院」と言い、病院側としても、ご本人やご家族の要望は、まず最優先して考慮したいところです。しかし現れている症状が、入院が必要と考えられるレベルでない場合、希望に沿えないこともあります。入院治療が必要な他の重度の症状を抱えられた患者さんの治療のためにも、入院して治療するかどうかの適切な判断はとても大切なことだからです。
 

本人の意思によらず、強制的に入院治療を開始する「医療保護入院」とは

ただ実際には、入院治療が必要ないのに当人が入院を強く望まれるケースよりも、当人が入院治療が必要なレベルになっているにもかかわらず、入院や精神科の受診自体を望まれないことの方が多いものです。その要因は幾つかありますが、まず心の病気で精神科を受診すること自体に、心理的に抵抗を感じてしまっているケースや、心の病気の発症時に、自分に治療が必要な問題だという認識ができにくくなっているケースなどが挙げられます。

そうした状況で、入院が必要なほど深刻な状態にまで症状が進行していて、当人が精神科受診を全く望まないような場合、場合によっては定められている法律に従い、「医療保護入院」による入院治療を開始する可能性もあります。これは当人が自ら入院治療を望まれて入院される「任意入院」とは異なる形の入院です。精神科病院への入院形式はこのようにタイプの違いがありますが、治療内容自体、すなわち治療薬をメインに社会精神療法をそれに組み合わせる点は同じです。
 

精神科の入院病棟の構成

入院病棟の構成は各病院により異なりますが、一般的には複数の患者さんからなる相部屋、大部屋が基本です。統合失調症の発症率は男女ほぼ同じで、入院治療を受けられる全患者さんの半数近くが統合失調症あるいはそれに類ずる疾患ということもあり、一般に精神科病院の入院病棟は男性病棟と女性病棟は数が揃っていることが多いです。
 

精神科の入院生活の決まり・スケジュール・閉鎖病棟と開放病棟の違い

入院生活と普段の生活の違いとしてまず挙げられるのは、病院生活には決まりがあることでしょう。実際に、精神科病院での毎日は1日のスケジュール、1週間のスケジュール、そして月単位のスケジュールに沿って回っていることが多いです。また、入院生活には医療的な治療を受けるだけでなく、周りの患者さんとの集団生活的な面もあります。

病院生活の決まり自体には病院ごとに違いがあるものですが、具体的な一日のスケジュールは、起床、食事時間、間食時間、毎日飲むことが決められている薬の服薬時間、消灯時間などが決められています。

こうした毎日の決まりは身体疾患で病院に入院した場合とほぼ同じと言えるでしょう。ただ、身体疾患での入院と異なり、精神科では、病棟に鍵がかかる点は大きな違いかもしれません。そして鍵がかかる時間の長さによって、入院病棟は「開放病棟」「閉鎖病棟」の2つのタイプに分けられています。具体的には1日のうち鍵がかかる時間が8時間より短ければ「開放病棟」、長ければ「閉鎖病棟」であり、入院時にどちらのタイプの病棟で入院治療を始めるかに関しては、基本的には症状の深刻さで決まります。
 
そのほか身体疾患での入院の違いとして、精神科病院では精神療法のセッションの予定もスケジュールに入って点が挙げられます。心の病気は一般に治療薬と精神療法を組み合わせて治療を進めます。精神療法は認知行動療法などいくつかタイプがあり、患者さんにマッチしたメニューが治療内容に組み入れられます。
 
統合失調症で入院した場合、治療内容に組み入れられることが多い精神療法のメニューである作業療法や集団療法などは、患者さんのグループ単位で行なわれます。具体的な内容は病院ごとに違いがありますが、イメージとしては10~20人ぐらいの患者さんのグループで、そのときの課題に即して、皆でその課題に取り組むことになります。
 
例えば課題が絵画ならば、皆で絵画に取り組む、課題が歌であれば、皆で歌の練習をするといった内容です。一般に毎週何曜日の何時から何時までと、あらかじめスケジュールが定められているものです。患者さんはそのなかから自分にあったどれかを選んで参加する、あるいは治療する側が患者さんに参加を勧めていくこともあります。
 

精神科入院時の禁止事項……タバコ・お酒・スマホなどの電子機器使用

嗜好品に関しても、一般的な身体疾患での入院生活とほぼ同じものが多いです。改正健康増進法が令和元年7月1日から1部試行されたため、喫煙者の方も、入院中は何の病気であれ病院内での喫煙は控えなくてはなりません。一般に心の病気の患者さんの喫煙率はかなり高い数字になっていて、長期的な健康という観点から見ればたいへん深刻な問題です。全人口での喫煙率は現在3割前後ですが、例えば、統合失調症の患者さんの喫煙率は9割近くになっています。1日の本数がかなりの数になっていることも少なくありません。入院中、タバコを吸えないことは、タバコを吸わなくても自身の精神症状との折り合いの付け方を覚える面もあり、禁煙を達成するきっかけに是非していただきたいです。
 
お酒が禁止であることは言うまでもないことだと思いますが、その理由としては、まずアルコールが中枢神経系に作用する薬物であり、精神症状をさらに深刻化させる可能性があること、さらに治療薬の代謝に深刻な悪影響を及ぼす可能性もある…といったことなどです。

また、携帯電話、スマホ、パソコン等のいわゆる電子機器に関しては、病院ごと、あるいは同じ病院でも症状のレベルなどに応じて、かなり違いがあります。持込OK、持込NG、あるいはナースステーションに預けて必要に応じて決められた場所でのみ使用できるなど様々ですが、感覚的には持込NGのケースが多いようにと思います。

なぜこれらの電子機器が禁止されるのかというと、まず、こうした電子機器は高額で貴重品扱いにもなるため、自分で管理しにくい問題が生じてしまうこと。まわりの患者さんとの集団生活を大切にしてもらうことを考えてのパターン。また場合によっては、あらわれている精神症状を悪化させてしまうリスクから、使用が望ましくないと判断されることもあります。
 

精神病院入院中の楽しみ……面会・外出・外泊など

どのような病気であれ、入院中は病気の治療が第一です。入院中の楽しみを考えることに、少し違和感を覚える方もいるかもしれませんが、入院生活が長くなると、何らかの楽しみを持つことはとても大切です。楽しみがあることで気持ちが軽くなったり、入院生活という日常とは違った環境で過ごすことのストレスを軽減したりできれば、より良い回復の経過にもつながります。
 
一般に患者さんがもっとも楽しみにされていることは、多くの場合、ご家族の面会や外出、外泊などです。実際、私の勤務先である精神科病院での入院患者さんとの会話でも、ご家族とどこかへ外出される予定を話される際、実に嬉しそうに話されることが少なくありません。そして外出や外泊から戻られると、どこそこに出かけた、どこそこでおいしい食事を取ったといったことを話されるなかで、随分楽しまれたことがこちらにもよく伝わってくるものです。
 
実際に、入院中にご家族の方が週に1回、あるいは2週に1回と都合がつく限り面会に来られている患者さんの方が、そうでない患者さんよりも、経過がより良好になりやすいものです、また、入院期間もより短くなる傾向があり、こうしたご家族の支えは、心の病気から順調に回復していく上で、大きな要素になると言えると思います。
 
以上、今回は精神科病院での入院生活に関する基本的なポイントを、統合失調症での入院を例に詳しく解説しました。なお、入院時そしてその後の入院治療、入院生活に要する費用に関しましては、病院ごとに違いがあり、さらに同じ病院でも健康保険証のタイプなどに応じて違いが出てきます。入院を予定されている病院にあらかじめ問い合わせてみるのが一番でしょう。精神科病院の入院の基本と特徴などを理解して、適切な治療を進めてください。
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