忘れられた「元金均等返済」という選択
住宅ローンを考える際、「元利均等返済」か「元金均等返済」かで悩む人はごく少数のはずです。金融機関や住宅メーカー等でも、無条件に「元利均等返済」で試算するはず。実際の住宅ローンの利用者の割合でも、その9割が元利均等返済を選んでいると言われています。元利均等返済とは、元金と金利の合計が毎月同額になるよう設定されています。結果、当初の返済は利息の占める割合が多く、徐々にその割合が減っていきます。対して、元金均等返済は元金部分を毎月一定とするため、返済額は一定ではなく(最初は金利分が多いため)、その額は毎月減っていくことになります。
では、どっちが得なのでしょうか。ネットなどで調べると「実は得する元金均等返済!!」といったテイストの記事が大半を占めます。その主な理由は、以下の2つ。
(1)総支払額が抑えられる。
(2)返済額がどんどん下がるので、老後にさしかかったときに家計負担が少ない。
本当にそうなのでしょうか。具体例で検証してみましょう。
「当初の支払額が大きい」というデメリット
ここに示した図は、3000万円を全期間固定、金利1.5%で借り入れた場合の、返済額の比較です。これでわかるとおり、総返済額は25年返済であれば35万円、35年返済ならば69万円、元金均等返済の方が少なく抑えられます。同じ金利であれば、借入額が大きいほど、あるいは返済期間が長いほど、この差額は大きくなります。したがって、上記(1)の理由は間違ってはいません。ですが、それでも圧倒的に元利均等返済が選ばれるのはなぜか。まず、「当初の支払額が大きい」という、元金均等返済の決定的なデメリットがあります。先の3000万円借入のケースですが、25年返済では初回は1万7520円も返済額に差がありますが、それは少しずつ縮まり、13年目(142カ月目)には逆に元金均等返済の方が低くなります。それでも、今後は教育資金もかかる30代、40代の世帯にとって、将来よりも目先の安さに惹かれるのは、当然と言えば当然です。
さらに言えば、25年間で35万円、35年で69万円の差額は、トータルでは確かにまとまった額ですが、月割りにすると1166円と1642円。おそらく、多くの人がその恩恵を感じずにローンを終えるのではないでしょうか。
(2)の理由にしても、住宅ローンの支払いによる老後の家計負担を軽減できるのは、確かにメリットです。しかし、先の3000万円の借入の場合、35年返済では一般的に定年となる60歳時(300カ月目)の支払額が月8万2232円。その1年前の59歳時は8万3304円ですから、ローン開始当初よりは2万5000円ほど下がっているものの、前年とは1000円しか変わりません。急に家計がラクになったという実感はほぼ皆無でしょう。
ちょっと前は元金均等返済が400万円近くも得だった!!
しかし、元金均等返済が魅力的だった時代もありました。ほんの10年前、旧・住宅金融公庫(住宅金融支援機構の前身)の基準金利は3.61%(※)。この金利で、先の3000万円の借入を試算してみると、総返済額は35年返済なら元金均等返済の方が388万円、25年返済でも201万円もお得となります。これなら、当初返済額も結構高いのですが、前向きに選択を検討するはずです。つまり、元金均等返済のメリットが薄れてしまったのは、一にも二にも低金利がその要因です。さらに、2016年度、実際の借入で変動金利を選択した人は全体の49.9%(住宅金融支援機構調べ)。半数の人が、金利0.5%前後で組んでいます。この金利で同様に試算すると、35年返済で総支払額の差はわずか8万円。月割りにして190円足らず。もちろん、金利が35年間推移しないという前提条件での話ではありますが、メリットとしてはかなり弱いと言わざるを得ません。
そこで結論ですが、現在のような低金利では、元金均等返済を選択するメリットを比較的無理なく享受できるのは以下の条件にすべて該当する人と考えます。
・借入額が大きい(3000万円以上)。
・完済時期が60歳を大きく超える(5年以上)。
・全期間固定もしくは長期の固定期間選択型(10年以上)を利用している。
ともあれ、大事なのはそもそも無理な住宅ローンを組まないこと。その上で、どちらの返済がいいか、じっくり検討してみましょう。最後に、フラット35では、途中で返済方法を変更することは可能ですが、各金融機関の住宅ローンではできない場合もあります。事前に確認しておきましょう。
(※)平成20年8月5日時点。一般向けの融資金利ではなく、住宅債券(つみたてくん)の積立者などを対象とした限定的な金利。