居住用財産の譲渡の特例とは?どう活用する?
居住用財産とは、いわゆる「持ち家」や「マイホーム」をイメージして下さい。ひと昔前までは、まず、小さな分譲マンションを購入し、将来はそれを売却して庭付き一戸建てを手に入れたいという、「住宅すごろく」がブームとなっていました。現在は、老後を過ごす上で、大きな一戸建てから、便利な立地の小さなマンションに移り住むケースも増えているようですね。マイホームを売却する理由はいろいろあると思いますが、マイホームを売却した際に多額の税金が課せられたらどうでしょうか。新しく購入するマイホームの購入資金が減ってしまいますよね。売ったお金にかかる税金が少なくてすむのであれば、それに越したことはありません。「居住用財産の譲渡の特例」を使って節税できる可能性がありますので、解説していきます。
そもそも譲渡所得とは?家を売却したときの所得と計算方法
そもそも、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡(売却など)することによって生ずる所得を譲渡所得といいます。譲渡所得の金額は、下記のように計算します。
収入金額-(取得費 + 譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得
このうちの、「特別控除額」の部分が特例の一つです。控除とは、税金を計算する前に差し引くことのできる金額をいいます。この金額が大きければ大きいほど、払う税額は少なくなります。
税額の計算方法(土地や建物を譲渡したとき)
土地や建物の譲渡による所得は、他の所得、例えば給与所得などと合計せず、分離して課税する分離課税制度が採用されており、所得税の額は次のように計算します。また長期で所有している家のほうが、短期で所有している家を売ったときよりも、税率が低いため、税金が安くなります。課税譲渡所得金額 × 税率※ = 譲渡所得税額
※税率(原則):
長期の所有(5年超) ・・・20%(うち住民税5%)
短期の所有(5年以下)・・・39%(うち住民税9%)
(復興特別所得税を除く)
「控除」とあわせて、「税率」の部分がもう一つの特例です。税率が低いほど、払う税金が安くなるのです。
マイホーム売却の特例は「特別控除」や「税率」などの7種類
主な特例等の種類は以下の7種類です。上記で解説した「特別控除」や「税率」などがあります。売却益がでた場合と、損が出た場合にそれぞれ特例がありますのでチェックしておきましょう。今回はおもにポイントとなる点を解説してきます。
「譲渡益がでた場合」
(1) 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽課税率)(2) 居住用財産の譲渡所得・3000万円の特別控除
(3) 被相続人の居住用財産の譲渡所得・3000万円の特別控除
(4) 買換え特例 (措法36の2)
(5) 交換特例 (措法36の5)
「譲渡損がでた場合」
(6)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(7)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
※譲渡益(利益がでる)場合と譲渡損(損失がでる)場合で異なります。
主な特例等の内容は下記のとおりです。(以下、復興特別所得税は割愛します)
(1) 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽課税率)
この特例は、マイホームの所有期間が10年を超える場合で、居住しなくなってから3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合など、他の要件も満たしていれば、6000万円までの部分の税率を20%(住民税含、以下同じ)から14%に軽減してくれるというものです。所有期間の計算は、購入してから譲渡した日までの期間ではなく、購入してから譲渡した日の属する年の1月1日時点で10年を超えているかどうか、の判定がされますので、十分に留意して下さい。
また、この後説明する「3000万円の特別控除」との併用が可能ですが、譲渡の前年、前々年にこの特例を適用している場合はこの特例を適用できません。
『効果・内容等』
課税譲渡所得金額(6,000万円以下) ・・・ 税率 14% (うち住民税4%)
課税譲渡所得金額(6,000万円超) ・・・ 税率 20% (うち住民税5%)
「主なポイント(要件等)」
・所有期間10年超(1/1時点)
・居住しなくなってから3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
・譲渡の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていない
・買換え(4)や交換(5)の特例など他の特例を受けていない
・3,000万円の特別控除(2)と重複可
・親子や夫婦などへの売却不可
(2)居住用財産の譲渡所得・3000万円の特別控除
この特例は上記の(1)とは異なり、所有期間の制限はありません。他の要件に該当さえすれば、3000万円を控除してくれるという特例です。ただし、(1)と同様に、譲渡の前年、前々年にこの特例を適用している場合はこの特例を適用できません。『効果・内容等』
3000万円の特別控除
「主なポイント(要件等)」
・所有期間制限なし
・居住しなくなってから3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
・譲渡の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていない
・買換え(4)や交換(5)、譲渡損失(6)(7)など他の特例を受けていない
・軽課税率(1)と重複可
・一時的な居住目的などではない
・売手と買手が親子や夫婦などは不可
(3)被相続人の居住用財産の譲渡所得・3000万円の特別控除
居住用財産の特例は、原則として自分が住むために所有していることがポイントなのですが、本特例は、最近話題の「空き家」対策も意識しており、相続開始の直前において、被相続人(つまり、亡くなった自分の親など)が住んでいた住居についても、3000万円の控除をすることができるというものです。相続した家屋は、マンションではなく、かつ、昭和56年5月31日以前に建築されたものであるなど、その他の要件も満たす必要があります。相続後に譲渡(本特例)して本特例を適用した方が良いのか?それとも、生前に譲渡して(2)の特例を適用した方ががよいのか?については、影響も高額になるケースもあるため、慎重に検討する必要があります。
『効果・内容等』
3000万円の特別控除
「主なポイント(要件等)」
・昭和56年5月31日以前に建築
・区分所有建物登記(マンション)でない
・相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいない
・居住しなくなってから3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
・売却代金が1億円以下
・相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例を受けていない
・同一の被相続人に対するこの特例の適用を受けていない
・建物を売却するケースと取り壊すケース
・売手と買手が親子や夫婦などは不可
(6)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
この特例は、マイホームの買い換えの場合に譲渡損が発生した際、赤字を他の所得と相殺(損益通算)することができる、または、翌年以後3年間、所得金額の計算上、控除してくれるものです。所有期間の要件は5年超ですが、住宅ローンを有しているなどの要件があります。
※1:損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除すること。
※2:損益通算を行ってもなお控除しきれない損失の金額は、 その譲渡の年の翌年以後3年間にわたり繰り越して控除することができる特例のこと。
『効果・内容等』
損益通算及び繰越控除
「主なポイント(要件等)」
・3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡(居住しなくなってから)
・所有期間5年超(1/1時点)
・前年の1月1日から翌年12月31日までに床面積50平方メートル以上を取得
・取得した年の翌年12月31日までに居住の用に供する(見込み)
・適用する年の12月31日において償還期間10年以上の住宅ローンを有する
・敷地面積500平方メートル以下
・合計所得金額が3,000万円以下
・前年以前3年以内に他の本特例(⑥)の特例を受けていない
・その年又は前年以前3年内に(⑦)特例を受けていない
・親子や夫婦などへの売却不可
※住宅借入金等特別控除制度は併用可
(7)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
この特例は、上記(6)の買い換えをしなくても、譲渡損が発生した際の赤字を他の所得と相殺(損益通算)することができる、または、翌年以後3年間、所得金額の計算上、控除してくれるものです。住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときの特例で、売却したマイホームの住宅ローンが残っているなどの要件があります。
『効果・内容等』
損益通算及び繰越控除
「主なポイント(要件等)」
・3年目を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡(居住しなくなってから)
・所有期間5年超(1/1時点)
・売買契約日の前日に償還期間10年以上の住宅ローンの残高がある
・譲渡価額が住宅ローンの残高を下回っている
・合計所得金額が3,000万円以下
・前年及び前々年に他の特例(①、②、④、⑤)などを受けていない
・前年以前3年以内に他の本特例(⑦)の特例を受けていない
・その年又は前年以前3年内に(⑥)の特例を受けていない
・親子や夫婦などへの売却不可
※住宅借入金等特別控除制度は併用可
マイホームを売って5000万円の売却益がでた場合の税額の差
例として、居住用財産の譲渡益(譲渡所得)が5000万円発生した場合の税額差額をみてみましょう。各要件にはすべて該当しているものとします。「特例を適用しないケース(所有期間10年超)」
5000万円 × 税率20%(住民税含) = 1000万円 (A)
「上記①と②の特例を適用したケース(所有期間10年超)」
(5000万円 – 3000万円) × 税率14%(住民税含) = 280万円 (B)
(A)– (B) = 720万円の差額!
いかがですか?不動産は高額なため、影響額も高額となりますね。特例等の適用には各種要件がありますので、実際の適用にあたっては、税理士等の専門家に相談の上で慎重に実施して下さい。