フィンランド人にとってのサウナ=日本人にとってのお風呂
ヘルシンキの街角に残る老舗公衆サウナ。利用客は、サウナ浴の合間になんと外に出てきて、通行人の視線お構いなしにクールダウンと談笑を楽しむ
そこまでのサウナ通でなくとも、サウナ=フィンランド発祥の入浴法、というイメージは、およそ誰しもが抱いているのではないでしょうか。実は、サウナ浴という入浴方法自体は、古代から北ユーラシア大陸の各地で行なわれてきたので、フィンランド「発祥」と言ってしまうのは詭弁です。とはいえ、サウナという言葉は、いまや世界でもっとも良く知られたフィンランド語単語。そしてサウナが、フィンランド文化を語る上で外すことのできない、国民的な日常習慣なのは確かです。
自宅にもサウナ室をもつフィンランド人
多くの家庭で、シャワー室の横に設置されている家族サイズのサウナ室。現代では洗身はシャワーで済ますので、入浴頻度は人によりけりだが、少なくとも週に何度かはサウナ室で入浴する
フィンランド・サウナと日本のお風呂との共通点は多く、何よりまずは、裸で入ること。西洋のスパや温泉では水着着用が当然という文化もありますが、日本人もフィンランド人も、入浴は、衣類に締め付けられない素肌で楽しんでなんぼ、ということを肌で知っています。それに、家族やご近所さん、ときには見知らぬ人とだって、裸のお付き合いができてしまいます。古くから、フィンランドの街角にも日本の銭湯そっくりのサウナ屋さん、いわゆる「公衆サウナ」が存在し、かつては家にサウナがなかった人たちがここに集い、身を寄せ合ってサウナ浴をしながら、ご近所づきあいを深めていたのです。
夏休みには、湖畔や海辺にあるサマーコテージのサウナへ
湖畔のコテージのそばに建てられたサウナ。サウナストーブは、昔ながらの薪ストーブを使うことが多く、シャワーがないので、ストーブの熱を利用して沸かした熱湯を、湖水でうめて、かけ湯として使用する
実はフィンランドのサウナには、日本のサウナ施設に必ずある水風呂が、まったく存在しません。フィンランド人がサウナ浴の合間にクールダウンするときは、このように「天然の水風呂」を利用するか、単に外に出てきて飲み物片手に涼むだけの、外気浴を行ないます。冬には、凍った湖に穴を開けて身を沈めたり、雪を体に擦りつけたり……という極端な方法をとることもあり、その驚愕の光景が良く日本のメディアでも取り上げられていますが、フィンランド人ならやって当然というわけではありませんので、あしからず。
フィンランド・サウナの入り方!基本は、自分で発生させた蒸気を浴びること
サウナ室には、日本の風呂桶によく似た桶と柄杓がおいてあり、利用者みずからがサウナストーブの上の焼け石に打ち水をし、蒸気を発生させる
最近の日本のサウナ施設で、「ロウリュ」という言葉を聞いたことはありませんか。ロウリュとはまさに、サウナ室で浴びる蒸気や、それをつくり出す行為のことを指すフィンランド語です。そして、ロウリュを行なうのはいつでも入浴者当人。そろそろまた蒸気の熱い刺激がほしいなと感じるたび、自身で水を打ちます。公衆サウナなど、他人とサウナを共にしているときは、蒸気を欲する頻度も人それぞれなので、「ロウリュしてもいいですか?」とひと声かけるのが、暗黙のルールです。サウナ室は、上段ベンチほど温度が高いので、熱いのが苦手な人は、あらかじめ下段ベンチに座ると良いでしょう。
ちなみに、フィンランドのサウナ室にテレビや時計はありません。それから、バスタオルやうちわであおぎながら、熱波を起こしてくれるスタッフもいません(そもそもサウナ室で一切タオルを振り回しません)。これらの光景は、日本でサウナを訪れたフィンランド人が仰天してしまう、日本独自のサウナの楽しみ方です。
その他に知っておくべき、フィンランド・サウナでのマナー
サウナ浴の合間には、バスタオル姿で、ドリンクを片手に外でくつろぐ人が多い。フィンランドの街なかでこんな姿の人を見かけても、変質者ではないので、温かい目で見てあげて
また、発汗作用の強いサウナ浴では、こまめな水分補給が必須。必ず十分な飲料を用意してから、サウナを楽しみましょう。ちなみに、フィンランド人のあいだでは、サウナ浴の合間にビールなどの低濃度のアルコール飲料を飲む人も少なくありません。ですが、当然ながらサウナの熱で普段より酔いが回りやすいので、自身で確実に節度をわきまえられない限りは、真似をすることはあまりおすすめしません。
その他、かけ湯もしくはシャワーを浴びてからサウナ室に入る。脱衣スペースは譲り合って使う。サウナ浴中におしゃべりするのは構わないけれど、ボリュームに気をつける……など、気をつけるべきことは、実は日本の入浴マナーとほとんど同じ。きっと日本人なら、すぐに場に馴染んで、地元の人と一緒に本場のサウナを楽しめることでしょう!
フィンランド旅行中、外国人観光客はどこでサウナ体験ができる?
ヘルシンキ市内の某ホテルの屋上に作られた、モダンな共同サウナ。宿泊客は、朝夕の決められた時間に自由に使える。プールが併設されていることも
ヘルシンキ観光名所である、港のマーケット広場の先にも、サウナつきのモダンなスパ施設が登場。さらに、背後の観覧車のゴンドラのひとつも、実は貸し切りサウナ・ゴンドラになっている!
ヘルシンキ市内の公衆サウナの店舗情報は、観光局のサイトからご確認ください。
入浴料は店舗によりまちまちで、8~20ユーロ。日本の銭湯のように、更衣室の手前にあるフロントで先払いします。フロントでは、有料または無料のタオルのレンタルサービスや、飲料の販売なども行なわれているので、ふらっと手ぶらで立ち寄ることも可能です。ですが、混浴サウナの場合もあるので、念のため水着とバスタオル、そしてビーチサンダルを持参するとよいでしょう。ドライヤーや石鹸類は備え付けられてあることが多いです。
2016年ヘルシンキにオープンした地元客と観光客とが一緒に汗をかく新名所、公衆サウナ・ロウリュ。詳しくは記事「ぜひ訪れたい、ヘルシンキの定番観光スポット10選」へ Photo: Marc Goodwin, Archmospheres