2018年放送された名作クィア・ドラマ(4)『おっさんずラブ』
実際に観るまでは、おじさん同士がBL(ボーイズラブ)やって笑いをとる、ゲイをネタにしてる、ふざけてる、そんなイメージだった『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。まさかこんなにみんなが熱狂し、不朽の名作的なドラマになるとは……いったい誰が予想したでしょうか?
【あらすじ】
結婚したいのに全然モテない33歳独身男・春田は通勤中、痴漢に間違われたところを、尊敬する敏腕上司・黒澤武蔵に助けられる。ところが、黒澤が落とした携帯の待受画面を見ると、そこには春田の画像が……さらに仕事中、黒澤のPCに春田の画像が大量に保存されていて……。動揺を隠せない春田だが、黒澤はさらに、川べりのムーディなスポットに春田を呼び出し、薔薇の花束を手に「はるたんが好きです!」という愛の告白! 一方、本社から異動してきたイケメンの後輩・牧は、母親がいなくなった春田の実家に住むことになり、驚異的な「女子力」を発揮して春田を感動させ、黒澤の恋敵に……。
紛れもなくこれは、大真面目な純愛です。黒澤部長は、同性だしおっさんだし、春田に気持ち悪がられたらどうしよう、男が好きだと知れたら職場で権威がなくなるんじゃないか、といった、ありがちなウジウジした感情は一切なく、すがすがしいくらい潔い告白を第1話からしてくれました。そのうえ、長年連れ添った妻と離婚までして(土下座までして)振り向いてくれないかもしれない「はるたん」に賭けるのです。これが男女の恋の話だと、よくある(不倫ぎみな)職場内恋愛ですが、同性(しかも、おっさん)だからこそおもしろいしドラマになる、そして、人を好きになる気持ちには性別なんて関係ない、ということを思い知らせてくれるのです。
同時に、これは「ゲイプライドとは何か?」を示してくれたドラマだった気がします。
黒澤部長と牧に想いを寄せられ職場で三角関係に陥りながらも、春田は牧とつきあいはじめ(これもスゴい展開です)、街でデートすることになります。春田は人目を気にして、「あまりベタベタしないように」と言うのですが、牧は「俺と一緒だと恥ずかしいですか?」と問いかけます。それにハッとした春田は反省し、なんと牧のために職場で堂々とカミングアウトするのです! ゴトウ的には涙腺が崩壊するシーンでした。さらには、翌週、牧が実家の家族に春田を紹介しています。
登場人物の誰もが決して同性愛を侮蔑しない、というだけでなく、主人公が「ゲイ」や「同性愛」という言葉を発することなく同性との恋愛に誇り(プライド)を持つようになっていく、その姿に感動させられたのでした。
前述の『隣の家族~』のゲイカップルとは異なり、リアリティよりも「ありえなさ」をねらったストーリーだったと思いますが、だからこそフィクションとして楽しめるし、笑いと感動を喚び起こされ、物語の力も活きていました。最初は「ウソでしょ?」的なリアクションだったのが、だんだん、マジ本気の恋にどよめき、ざわつき、気がつけばすっかりハマり、感情移入し……という方も多かったのではないでしょうか。
春田を演じた田中圭さんの人好きのするキャラの魅力や、黒澤部長を演じた吉田鋼太郎さんの演技力によるところも大きかった気がします。
最終回を迎えたばかりの2018年6月現在、いろんな方がネット上で「おっさんずラブ」への愛を語っていますが、ゴトウがハッとさせられたのは、「牧は圧倒的に自己肯定感が低い子で、非常に自己犠牲的なように見えて、愛することより『愛されること』に極端に飢えている」(出典:note『牧凌太に見る「自分を大切にするということ」』/横川良明さん)という指摘でした。「牧は僕だ」と感じた方もいらしたかもしれません。いたいけな牧にシンパシーを覚え、応援し、涙した方もいらしたことでしょう。全体的にぶっ飛んだ展開でしたが、牧だけはゲイのリアルを体現していて、ドラマが現実とかけ離れすぎないよう、地に足をつけるような役割を担っていた気もします。
最終回のラストシーン、春田は結局、男性を「性的に」愛するようになったのか? という点については、見方が分かれるところだと思います。でも、男が好きか女が好きかは生まれつきで、どんなに人として好きでも性的指向までは変わらないでしょ、と思っている人が多い(心にある種の「壁」を作ってしまっている)なかで、軽やかに爽やかに「壁」を飛び越えて行ったのは確かだと思うのです。実は、古代ギリシアの市民も戦国武将もそうであるように、古今東西、男たちはたいがい男とも女とも愛し合っていたという史実もありますので、春田だってそうなっても不思議じゃないんですよね。
このドラマを観るうちに、今までゲイをバカにしがちだったストレートの人も、いつの間にかホモフォビアが払拭され、自分事として捉えられるようになった、ということがあったはずです。マジョリティの俗情に媚びていると見せかけて、彼らのほうを巧みに変えてしまう……ウルトラ超難度の離れ技だと思います。いろんな意味でスゴい、素晴らしい作品でした。拍手!です。