物忘れは普通のこと? 無視してはいけない認知機能の問題

物忘れ

物忘れは誰にでもあること。しかしIQテストが正常範囲で、もしくは平均より高いような場合でも、病気が原因で認知機能に問題が出る可能性もあります

物覚えが少し悪くなったような気がする、難しいことが以前ほどすんなり頭に入らない、あるいは映画を1本、始めから終わりまで見続けるのが辛い……。こうした問題には、その時々の認知機能が関わっています。もしこうした問題が一時的でなく、ある程度の期間続く場合、認知機能に何か対処すべき問題が現れている可能性も考えた方が良いです。

うつ病、統合失調症など心の病気においても、物覚えや集中力などに影響が出てくることがあります。うつ病での場合は気持ちが大きく落ちこんだり、統合失調症の場合は現実と非現実の違いが曖昧になったりと、それぞれに特徴的な症状がありますが、この他に起こりうる問題として挙げられるのが、「認知機能の問題」です。

今回は、心の病気の療養中の方にも、ご自身や家族には無関係のことと思われている方にも知っておいていただきたい、心の病気と認知機能の問題について解説したいと思います。
 

自覚はもちろん家族も気づきにくい認知機能の問題

認知機能に何か問題が現われ始めても、自分も家族などの周りの人もそれになかなか気付かけず、初期症状や進行を見逃してしまうことは少なくありません。なぜなら、誰でも時には物忘れがあり、注意力が少し散漫になることはあり、一つ一つの症状自体が日常的にも珍しくないことだからです。そのため、実際には認知機能に何か問題が現れ始めて起こっている症状でも、日常的に誰にでもある軽い問題だと流してしまいやすい傾向があります。そしてまた、心の病気になった場合に必ずしも認知機能の問題が起こるわけではなく、心の病気の症状として知られていないことも、多くの人が見逃がしやすい原因の一つでしょう。

たとえば統合失調症の症状は個々人で微妙に違いますし、場合によっては全く違う病気のように見えることもあります。認知機能の低下の問題も統合失調症で現れることのある問題症状の一つですが、皆に皆、必ず現れるわけでもありません。一部の方には確かにある症状で、内容や深刻さにもかなりの個人差がありますが、こうした症状は一般的に見逃しやすいものです。

統合失調症の初発は通常16~30歳ごろまでが大半です。この年代は通常、認知機能に問題が現れる年代でないことも、症状を病気と結びつけにくい要因になっているかもしれません。認知機能の問題は、あらかじめ病気の可能性があるのではないかという前提知識がなければ見逃しやすいものですし、若い人が何か物忘れをしたとしても、病気を連想する方は少ないでしょう。

これと対照的に、年齢が進んで60歳以降の方の場合は、注意力や物覚えなどにこれまでにない問題が現れた場合、周りの方は認知症などを疑われるかもしれません。実際に認知症であれば、認知症の早期発見につながったことになりますが、もし統合失調症やうつ病などの他の疾患だった場合、認知症と誤解することで本来の病気の発見が遅れてしまう可能性もあります。

具体的には、うつ病の一歩手前、あるいはうつ病と診断できるような場合です。そうした際は、抑うつ症状の内容として、頭の回転は普段よりかなりスローになりやすく、注意力や集中力、そして記憶力などにもはっきり問題が現れやすいです。こうした問題は一般に必要な治療が始まり、その抑うつ状態から回復すれば、認知機能も通常のレベルに戻っていきます。でも必要な治療が始まらないと、その状態が続いてしまう可能性には注意したいです。
 

認知機能の問題が原因で人間関係が悪くなってしまうことも

認知機能に何か問題が現われている場合、それが原因で日常生活にも何かしらの問題が起きることが多いです。

たとえば、相手に何か話しかけても、答えの返りが以前よりかなり遅かったとします。話しかけた側はどう感じるでしょう? こちらの話にまるで興味を示さないと感じたり、場合によっては自分のことはどうでもよいのだといった誤解をしてしまうかもしれません。

また、認知機能に生じた問題によって、集中力や注意力に明らかな問題が現れることもあります。例えば、話題のテレビ番組を見ようと家族でリビングに集まっても、ほんの数分見ただけで疲れてしまうほど、一つのことに気持ちを向けて集中することが難しくなってしまう場合もあります。その原因は当人の性格的なものや落ち度ではなく、認知機能に生じた問題のためですが、ご家族は当人の性格や気持ちに何か問題があるような誤解をしてしまうかもしれません。

こうした誤解により、家庭内の空気が悪くなったり、ご家族同士の関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。精神症状の中には、こうした認知機能の問題のように誤解の原因になりやすい症状がいくつかあることを、特に自宅で療養される患者さんを持つご家庭の方にはよく理解いただきたいと思います。病気からの回復により適した家庭環境を作っていくためにも、非常に重要なことだからです。
 

IQ検査が正常でも認知機能に問題があるケース

認知機能に何か問題がある場合、一般に認知機能を検査し、タイプや深刻さを評価します。IQ検査もその一つです。ここで少し注意したいのは、IQ検査の結果がたとえ正常範囲でも、場合によってはある特定の認知機能に何かしらの問題が現れている場合もあることです。例えばですが、試験の総合点は平均をしっかりクリアしているものの、ある科目の点数だけ他の科目と比べて明らかに低い状況と類似しています。

たとえば心の病気でも、統合失調症のような精神病性障害の疾患では一般にIQ検査の結果は正常範囲です。また、一部の方は平均よりかなり高い数字を示すこともあります。しかし、IQ検査は知能に関する総合的な指標です。認知機能自体は、複数の領域から構成されます。具体的には注意力、集中力、抽象的な思考能力や理解力の他に、記憶力や言語能力、さらには知覚を通じた外界からの情報処理や、物事を決められた通りあるいは自分があらかじめ決めた通りに行なう力なども含まれます。

精神病性障害の経過でも、タイプや深刻さには個人差がありますが、一部の方にこうした問題がはっきり現われることがあります。たとえば、他のことは問題なくできていても、注意力や集中力といった認知機能の領域のみに問題が現れれば、上記の例のようにテレビの前に数分も座っていられなくなってしまう可能性もあります。抽象的な思考能力や理解力に問題が現われれば、単に難しいことが分かりにくくなるだけでなく、日常の、いわゆる"いまふう"の気のきいた言い回しや言い方が難しくなることもあります。また、言語能力に問題が現われれば、その話し言葉や書き言葉の問題が他人とのコミュニケーションをかなり難しくしてしまう可能性もあります。

以上、今回はうつ病や統合失調症など心の病気において、時に起こりうる問題のなかから誤解されがちな問題として、認知機能の問題を詳しく解説しました。もし仮に疾患が生み出している問題を当人の落ち度のように誤解してしまえば、当人の気持ちを傷付けるだけでなく、ご家族全員のストレスレベルも上がります。心の病気からよく回復していくためには、ご家庭の環境がそれにマッチすることはたいへん重要です。そのためにも今回のような、精神医学の基礎知識はぜひ大切にしたいものだと思います。
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