マンション管理

管理組合必読!修繕積立金不足の解消方法5選

日本経済新聞社の調査によると、8割弱のタワーマンションで修繕積立金が不足していることが分かりました。適時・適切な計画修繕の不履行は、建物の劣化を進行させ、マンションの資産価値を毀損させます。そこで、貧乏マンションにならないための対策方法を5つ紹介します。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド

8割弱のタワーマンションで修繕積立金が不足していた

まるで雨後のタケノコのように、近年、タワーマンション建設が次々と進行しています。

不動産経済研究所が4月に公表した「全国超高層マンション市場動向2018」によると、2018年以降に完成を予定している高層マンションは全国で294棟、戸数にすると10万8757戸(2018年3月末時点)に達することが分かりました。

すでに供給過剰感のある住宅市場で、なぜ、タワーマンションが建設され続けるのか気になるところですが、その理由の1つとして興味深い調査が日本経済新聞社から公表されています。同社が自治体への取材や全国市街地再開発協会の資料をもとに、1991~2020年(予定含む完工ベース)の約700件の市街地再開発事業を分析したところ、複合再開発では商業施設やオフィス建設と並行してタワーマンションが同時に新築される傾向が顕著になっています。

2016年~20年の5年間では再開発の5割近くで高層マンション建設が同時並行して実施される計画です。東京都心部や湾岸エリアを中心に、数多く控える超高層大規模開発や複合再開発プロジェクトが、さらなるタワーマンション建設を後押ししているのです。

タワーマンションのイメージ写真

驚いたことに、8割弱のタワーマンションで修繕積立金が不足しているのが判明。今後、完成予定の294棟が“予備軍”にならないことを祈るばかりだ。


しかし、タワーマンションが“乱立”の様相を呈するのは危険極まりません。日本経済新聞社では分譲マンションの修繕積立金の不足状況についても独自調査しており、それによると竣工済みのタワーマンション約900棟のうち、8割弱が国の定める修繕積立金の目安を下回っていることが分かりました。国の目安の半分に達していない物件も1割ありました。

国が定める修繕積立金の目安とは、国土交通省が2011年に策定した修繕積立金の水準を定めた指針を指します。新築時から30年間(築30年までの間)に必要な修繕工事費の総額を、30年均等で積み立てた場合に必要となる毎月の積立金額を試算したのが国の目安です。タワーマンション(20階建て以上)では1平方メートルあたり月額206円を目安としています。

修繕積立金不足は計画修繕の実施を妨げ、建物の劣化の進行とともに資産価値をも毀損させます。「金持ちマンション」と「貧乏マンション」を分けるのが修繕積立金の残額の多寡なのです。後者の仲間入りをしないためにも、積立金不足に陥らないための対策立案が欠かせません。


余裕があるのか不足しているのか、現状把握から始めよう

そこで、まず初めに行ってほしいのが長期修繕計画の見直しと、毎月徴収している修繕積立金の金額の検証です。修繕積立金の適正額は、建物の経年劣化に応じて適時・適切な修繕工事が実施されるように作成された長期修繕計画に基づいて設定されなければなりません。設定金額が低いのは論外ですが、高すぎても居住者の負担を増すだけです。必要(低すぎず)かつ十分(高すぎず)な金額設定が管理組合には求められます。

ただ、「長期修繕計画に基づいて…」と言うのは簡単ですが、その“解”(適正値)を求めるのは容易ではありません。修繕にかかる工事費は建物の形状や規模・立地・築年数、仕上げ材や設備の仕様に加え、工事単価や区分所有者の機能向上に対するニーズなど、様々な要因で変動するからです。新製品の開発や新たな修繕技術の誕生によっても必要コストは変わってきます。

そのため、すべてのマンションで共通利用できる長期修繕計画(フォーマット)は存在しません。各マンションそれぞれの事情や要望に応じて丹念に修繕計画を組み立てていくしかありません。

そして、組み立てられた修繕計画を実現するに当たり、工事費用に過不足がないよう設定された金額が、そのマンションにおける最適な修繕積立金額となります。上述したタワーマンションの修繕積立金1平方メートルあたり月額206円という国の目安は、目安であって目安でしかありません。積立金の残高に余裕があるのか不足しているのか、現状の把握が初めの一歩となります。


修繕積立金を値上げするには総会決議が必要。管理会社には決定権なし

総会風景のイメージ写真

マンションの管理組合運営は「多数決の原則」を基本としている。そのため、重要事項の決定には総会決議が必要となる。


続いて、調査の結果、修繕積立金が足りないと判明した場合、管理組合は対策を立てなければなりません。では、どうすればいいのか?―― 具体的な解決方法を考えてみましょう。

大規模修繕工事まで時間的な余裕があれば、【方法その1】毎月の修繕積立金を値上げするのが現実的です。たとえば工事の実施が3年先で、1部屋あたりの不足額が30万円とすると、30万円÷36カ月=約8330円を毎月の積立金に上乗せします。他方、【方法その2】時間的な余裕がない場合は一時金を徴収するしかありません。上記の例では30万円を一括前納してもらいます。

その際、修繕積立金の値上げを行うには総会の決議が必要になります。総会を開催して区分所有者全員に賛否を問い、過半数の賛成が得られて初めて値上げできます。一時金の徴収も手続きは同様です。

注意してほしいのが、理事会だけの決議では不十分ということです。管理会社が値上げを提案してくることも珍しくありませんが、管理会社に値上げの有無を決定する権利はありません。マンション管理の主体は管理組合です。反対者の意見も聞きつつ、意見集約していくプロセスが重要になります。


積立金だけでは工事費用を賄えない場合、借りるという選択肢も有効

とはいえ総会決議の結果、値上げが否決されることもあるでしょう。その場合、次に検討するのが【方法その3】工事費用を借りるという方法です。

専有部分のリフォーム工事であれば、銀行や信販会社から融資が受けられますが、マンション共用部分の大規模修繕工事となると、借入先は限られます。そこで、頼りになるのが住宅金融支援機構です。個人向け住宅ローンの他に、管理組合向けの「マンション共用部分リフォーム融資」も取り扱っています。融資内容はフラット35同様、全期間固定金利で最長10年間、修繕にかかる工事費用の80%まで借りられます。2018年5月の借入金利は年率0.57%です。

ただし、この方法も総会決議による賛成が必須であり、かつ、管理組合に返済能力がなければ当該機構は融資しません。返済原資は各区分所有者から徴収する毎月の修繕積立金です。返済計画に無理がないか十分な検討が欠かせません。


最後の手段は修繕工事の実施時期を遅らせる方法。運用も一考あり

資産運用のイメージ写真

低金利時代とはいえ、億単位の資金を運用すれば、それなりの利息は期待できる。修繕積立金を運用するという発想が管理組合にも必要となる。


最悪のシナリオとして、総会決議ですべて反対される、あるいは共用部分のリフォーム融資も否認されるなど、どうしても修繕費用を準備できない場合は【方法その4】工事の実施時期を遅らせるしかありません。ない袖は振れないわけです。長期修繕計画を見直さざるを得ません。

工事を先延ばしする目的は、その間に修繕積立金の残高を増やすことにあります。ただ、これまで通りに積み立てていても増える金額は一定です。そこで、一考に値するのが【方法その5】修繕積立金を運用するという発想です。

住宅金融支援機構では2000年から「マンションすまい・る債」の募集を開始しています。マンションすまい・る債とは、管理組合が修繕積立金を計画的に積み立てられるよう設計された10年満期の利付き債券です。2018年度の募集利率は0.143%(10年満期まで預けた場合の年平均利率)で、毎年1回2月に利息を受け取れます。

修繕積立金は元本割れが許されないため、運用先として元本が保証された国債を購入するケースはありますが、10年満期の新発国債の利回りは0.05%(2018年4月募集分)です。たとえ1億円分の国債を購入しても、受け取れる利息は1年でわずか5万円(税引き前)です。マンションすまい・る債だと14万3000円(同)となり、約3倍になります。個人的には一考に値すると考えています。

繰り返しになりますが、「金持ちマンション」と「貧乏マンション」を分けるのが修繕積立金の残額の多寡です。大切なマンションの資産価値を下げないためにも、積立金不足に陥らないようにしてください。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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