歌舞伎を見るなら千秋楽と初日、どっちがいいの?
歌舞伎の千秋楽と初日の違いは?
今回は、初日と千穐楽の違い、それぞれのメリットについてお話しします。一般的な演劇と同じ部分もありますが、歌舞伎ならではのこともありますよ。まずは初日のメリットからご紹介します。
<目次>
- 初日のメリットその1いち早くみて、情報発信
- 初日のメリットその2面白ければ、何度でも見られる
- 千秋楽のメリットその1役者は千秋楽に向かって進化する
- 千秋楽のメリットその2パンフレットが20日頃には舞台写真入りに!
- 千秋楽のメリットその3一世一代の千秋楽は見逃せない
初日のメリットその1いち早くみて、情報発信
今月も行くぞ! 初日にGO!
そのお芝居を真っ先に観られるというのは大変なメリット。話題の演目であればなおさらです。世の中の人たちは、「今度の演目は、新作らしいじゃないか。おもしろいのかな?」「あの役者がやるこの演目は、どんなもんだろう?」と興味津々。
「見てきました~」「今月の昼の部、最高です!」とSNSで発信すれば、反応も上々。なかなかの快感です。
初日のメリットその2面白ければ、何度でも見られる
初日に観て「とてもよかった!」となれば、自分のスケジュールとお財布さえOKであればまた観ることができます。幕見でお気に入りの演目だけを観るもよし。違う席で、違う角度から見るもまたよし。千穐楽で初めて観た場合は、「もう一度観たい」と思っても、時すでに遅し。その演目、そのお役をその役者で観ることができるのは、いつのことになるやら神様しかご存じありません。
役者も、芝居を観る私たち自身も、明日何が起こるかわかりません。観られるならば、なるべく早く観に行きたい!と思うのが、人情かもしれませんね。
では、何が何でも初日のほうが良いのでしょうか? いえいえ、そんなことはありません。
千秋楽のメリットその1役者は千秋楽に向かって進化する
歌舞伎は前月の演目が終わって、数日の練習でまた新しい月が始まります。何ヶ月も練習して本番を迎える通常の演劇と違います。それだけ古典が体にしみこんでいることに、いつも敬服の念を感じずにはおられません。とはいえ、初日から2,3日までは、役者さんがまだ慣れずにセリフがおぼつかないことも。
しかし、日を追うにつれ、芝居そのものがはどんどん進化していくのです。時として、「あれ?これ、別の役者?」と思うほど進化することがあります。ガイドの経験で言えば、2017年の8月歌舞伎座「刺青奇偶」での染五郎(現 幸四郎)での変化です。
筆者は初日近くと中旬に2回この演目を見ました。染五郎丈は、やくざの親分役。主人公の事情を汲んでサイコロで大勝負を演じる肝の据わった親分でした。染五郎丈は線が細く、初回見たときには親分の風格が出ておらず「うーん?」という印象でした。しかし10日ほど後に見たときには、声を低く落とし、着物の中に詰め物も増やしたのかぐっと貫禄が出ており、同じ役者とは思えないほど、進化していたのです。
初日に観劇したか千穐楽で観劇したかでは、当然印象は大きく変わるでしょう。これほど顕著な例は珍しいですが、役者は毎日毎日「昨日より今日、今日より明日」と努力を重ねています。ですから芝居そのものの質は、千穐楽に近い方が上がっていると言えるでしょう。
ちょっぴり寂しい千穐楽
千秋楽のメリットその2パンフレットが20日頃には舞台写真入りに!
さらに、歌舞伎ならではの驚きが、パンフレット(歌舞伎では筋書といいます。以下筋書)が、初日と千穐楽では全く違うのです。一見同じに見えるが似て非なる2冊の筋書
歌舞伎は、舞台が始まってから舞台写真を撮影し、それを20日過ぎたころの筋書にぎりぎり間に合わせて入れるのです。
今月の舞台写真が入っている筋書かそうではないか。これはもう月とすっぽんほど、価値が違いますよね。筋書に関する限り、断然千穐楽のほうがお得です。
写真が入る前の筋書には挿絵がはいる
写真入り筋書を手に入れるには?
東京近辺に住んでいる人であれば、後から歌舞伎座(地下木挽町広場チケット売り場で買える)に筋書を買いに行くこともできますが、地方から出てきて前半に観た人は、絶対に写真入り筋書は手に入れられないのでしょうか?
実は奥の手があります。筋書を買うときに郵送を頼むことができるのです。やり方は簡単。筋書を買うときに「郵送をお願いします」といって、郵送先を指定の書面に書くだけ。料金は筋書代に82円プラスされるだけです。
当日筋書を読めないつらさはありますが、忘れたころに自宅のポストにドスンと届く「歌舞伎座」と大書された重々しい郵便物。これはなかなかうれしいものがありますよ。
「歌舞伎座」からの郵送はこんな感じで届きます!
千秋楽のメリットその3一世一代の千秋楽は見逃せない
千穐楽は初日と違って、『これで今月の歌舞伎見物もおしまいか』というちょっぴり寂しさが漂う雰囲気があります。また、千穐楽といえばカーテンコールが気になるところですが、通常歌舞伎ではカーテンコールはありません。長いストーリーの最後に全員でご挨拶というのと、見取りの多い歌舞伎はちょっと違うし、もともと歌舞伎って、ばたばたと悪党が倒れて終わっても、ひょいと起き上がって正座して「本日はこれぎりー」(「今日はここまで、また明日ね」という意味)と挨拶をするもの。千穐楽では「今月はこれぎりー」という挨拶になります。(必ずやるものではありません)
昨今「スーパー歌舞伎II ワンピース」や「歌舞伎NEXT 阿弖流為」などの新作歌舞伎ではカーテンコールを行っています。歌舞伎座では、カーテンコールはめったにありませんが、2017年11月「吉例顔見世大歌舞伎」では、最後となる松本幸四郎・染五郎・金太郎の親子3代が、千穐楽でカーテンコールに応えました。
また、2018年4月には、歌舞伎役者でも特にカーテンコールはしないことで有名な片岡仁左衛門丈が「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」の一世一代の千穐楽で、大方の予想を裏切ってカーテンコールに応え、大変な反響・感動を呼びました。
一世一代というのは「もうこれきり、この演目は一生やらないよ」という宣言。その千穐楽といえば、やはり盛り上がり方がまったく違います。こういう特別な千穐楽はぜひ見てみたいものですね。
さて、初日と千穐楽、みなさんはどちらに行きますか?「どっちに行こうか悩む~!」と考えている時間が、実は一番幸せな時間かもしれませんね。
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