法の観点で性の多様性を論じた初の研究書

最後に、今年10月に発売されたばかりの研究書『セクシュアリティと法』を紹介します。

これまでこういったタイトルで発表されてきた文献は、主に女性のセクシュアリティを扱うもので、「性の多様性」に注目して「セクシュアリティと法」をきちんと論じた本はなく、これが初めての基礎的な研究書となるそうです。

大きく第I部から第III部まで分かれています。それぞれどういうことが書かれているかをざっとお伝えします。

第I部「人間身体と法」では、主に性分化疾患/インターセックスや性別違和/性同一性障害を通して、性別が特定される基準や法律上の性別変更の条件、性刑法(保護法益としての性別)について論じられています。性分化疾患/インターセックスやトランスジェンダーの方などはいったん枠外に置かれ、法の解釈や裁判または法改正の過程を経て、法律や社会制度の境界を右往左往するという現実があります。

第II部「社会関係と法」では、法的な親子関係、婚姻制度、DV、企業活動、学校教育という5つの場面や空間について論じられます。法律や社会制度の趣旨や目的に立ち返れば、ほとんどの方が性の多様性を包含しうる条件を備えていることがわかります。 

第III部「言説空間と法」では、人権・ノルム(事実判断と価値判断が結びついている基準)・クィアという3つを軸として、セクシュアリティと法のあり方について論じられます。既存の法律や社会制度は多数者の性のありようを無前提に引き受けていることは確かですが、性の多様性を単純にその枠内へ入れることは却って慎重な検討を要するかもしれない、と語られています。

単に現行の法制度の中でセクシュアルマイノリティに関わる部分を列挙して「こうなってますよ」と示すだけではなく、性の多様性の観点から現行の法制度を仔細に検討し、ヘテロノーマティビティ(異性愛規範)の問題を指摘するものとなっています。そういう意味で、一見法学っぽくないように見える第III部がとても重要だったりします。

法学の知識がないととっつきづらいように思えますが、ちゃんと読めます。大丈夫です。法学を学ぶ方にとって重要な参照テキストであるのはもちろん、LGBTについて深く学びたい、研究したい、書きたい、教えたいと考えているような方にとっても、手元に置いておきたい一冊になるのではないかと思います。