メリー・ポピンズの友人・バート役(wキャスト)
大貫勇輔さんインタビュー
大貫勇輔 神奈川県出身。バレエ、ジャズからアクロバットまでジャンルを超えて活躍するダンサー、俳優。今まで『ロミオ&ジュリエット』『キャバレー』『マシュー・ボーンのドリアン・グレイ』『ピーターパン』『ビリー・エリオット』等に出演。現在、謝珠栄氏オリジナルショー『Pukul』、WOWOW「バレエ☆プルミエール」に出演中(次回12月24日16:20~)。2018年3月より『メリー・ポピンズ』でバートを演じる。(C)Marino Matsushima
「3年近く前だったかな、『メリー・ポピンズ』のオーディションがあると伺ったのがはじめです。オーディションでは全力で取り組み、少し経ってコールバックがあったのですが、それが何度もありまして。あまりにずっと続いたので、そのうち“本当に上演されるのかな?”と思ったほどです(笑)。
でも、だんだんオーディションが続くにつれて、まだ上演もされてないのに演じた気にもなってきました(笑)。最後の方の審査になると、人生の岐路に立っているような感覚で、ここでこの役をつかみ取るかどうかで人生が大きく変わると思いました。ここまでやってきたからこそ、絶対手に入れたいと思ったし、それまでも真剣だったけど、絶対やってやろうという意気込みで臨みましたね。合格した時にまず思ったのが“オーディション、やっと終わった”。やっとスタートラインに立てたんだな、と思いました」
――オーディションではどのような課題があったのですか?
『メリー・ポピンズ』
――本当に作品を理解していないと出来なさそうに聞こえます……。
「(リクエストに対する)対応力と、内面にバートらしさをどれだけ持っているかを見られていたような気がします。もちろん、演じる前にバートはどういう人間かということは説明してくださるのですが、大貫勇輔の中にバートがいるかどうかが、カギだったのかなと思います」
――(バートが)いた、のですね。
「審査員の海外スタッフからはよく、“君はどの国のどのバートよりバートだ、キミはバートをやるべきだ”と言われました。“だから歌を頑張れ”、と(笑)。僕のどこがバートかというと、僕が思うに、バートは少し寂しい幼少期を過ごしたけれど、メリーによって生まれ変わったのに対して、僕もこれまでいろいろな方たちとの出会いがあって少しずつ今の僕になってきました。子供好きな点も、お洒落が大好きなところも共通しています。それと、バートは煙突掃除をするので、がっしりした体格も望ましかったのかもしれません」
――作品自体は、以前からご存じだったのですか?
製作発表では皆さんノリノリで「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」を熱唱。(C)Marino Matsushima
――バートをどういう人物だととらえていますか?
「メリーが大好きで、煙突掃除をしたり大道芸人したりしながら自由に、やりたいことを全力でやりながら生きている人物……ということは、オーディションでお話いただきました。
あと僕が感じたのが、茶目っ気があってユニークで、労働者階級であることに誇りをもっていて、メリーに対してはジェントルマン。子供たちに対しては全力で一緒に遊んだり、同じ目線で話を聞いてあげたりするし、(彼らの父である)ジョージ・バンクスに対しては、(仕事ばかりにかまける)今のままだと子供たちの成長の過程を見ることができなくなるよ、この時間は今しかないんだよ、ということを男として伝えている。すごく多面的で、しっかり軸があると同時に、自由な人間だなと感じます」
――そもそも、人間なのでしょうか?
「メリーの力を借りて、彼も魔法みたいな力で壁や天井を歩きながらタップしたりするけど、あくまで人間だと思います」
――みんなの気持ちがわかるバートはある種、妖精のような存在のようにも感じられますが、あくまでリアルな人間なのですね。
『Mary Poppins』Chim Chim Cher-eeの場面。Photo:Johan Persson
――メリーと観客の橋渡し役なのですね。
「そうだと思います」
――楽しみにしていらっしゃることはありますか?
「作品を作り上げる作業って、決して楽なものではなくて、この前出演した『ビリー・エリオット』では英国人スタッフたちとの作業で、通訳が入ることで時間はかかったけれど、みんなでいいものを作ろうとするエネルギーは日英共通していていいなあと思いましたし、今回もそれが楽しみです。その作業の中で、自分がどれだけもがき苦しむか。
また今回はカッキー(柿澤勇人さん)とのwキャストなので、彼の稽古を目の前で観られる良さ、怖さも感じながら稽古にぶつかっていけたらと思いますね」
――柿澤さんと大貫さんは一見、全く異なるタイプに見えますが、何か共通項があると感じますか?
「うーん、どこだろう(笑)。逆に皆さんに何かあるか、聞いてみたいですね。僕としてはカッキーの稽古を観て勉強になることもいっぱいあると思っています。英国人スタッフは、僕とカッキーの間に共通項を、というより僕とバート、カッキーとバートの中に共通項を見出したんじゃないかと思います」
――映画版のバート役はディック・ヴァン・ダイクさん。代表作の一つとなるほどチャーミングに演じていますが、彼の演技で参考にしようと思っている部分はありますか?
「体の動きや表情が独特でいいなあと思います。飾らない、まっすぐな感じが素敵だなと。彼のように、心から楽しんでるニュアンスは出したいですね」
――亡くなった歌舞伎役者の中村勘三郎さんのような、登場しただけでみんなが楽しくなってしまうようなショーマンシップがあるバートですね。
「勘三郎さんは皆がみんな“素晴らしい人だった”とおっしゃっていて、僕も生では観られなかったけれど、映像で観て本当に大好きな役者さんです。勘三郎さんのように、出て来ただけで場面の空気が変わるような俳優、人間になるというのが、僕にとっても一つの大きな目標ではあって、それが今回出来るかどうかは分からないけど、そこを目指して頑張りたいですね」
――読者の中には“映画版と舞台版はどう違うのかな?”と気になっている方もいらっしゃると思います。
『Mary Poppins』Jolly Holidayの場面。Photo:Johan Pesson
もう一つ、僕が感動したのが、『スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス』というナンバー。ワークショップでこのナンバーの振付を少し行ったのですが、振付が難しくて、そこにこの早口の歌が加わって歌いづらい。ヒーヒー言っていたのですが、バシッと揃えて歌い踊っている海外の資料映像を見させていただき、彼らの積み重ねた稽古が感じられて、涙が出て来ました。そういうナンバーを今回、僕らが生でお届けする時には、きっと物凄い熱量になると思いますし、他にも『Step in time』もビッグナンバーで、楽曲も本当に素晴らしい曲ばかり。きっと映画とは違う感動が味わえると思います」
――どんな舞台になったらいいなと思っていらっしゃいますか?
「カンパニーのみんなが胸をはって「日本人にしかできないメリー・ポピンズができたね」といえるような舞台が出来たら、と思います。そして大貫勇輔個人としては、「世界で一番踊れたバート」と言っていただけるように頑張りたいです」
*最近のご出演作についての大貫勇輔さんへのインタビューはこちら
*次頁で山路和弘さんインタビューを掲載しています!