ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2017年11~12月の注目!ミュージカル(2ページ目)

実りの秋が深まり、街は早くも年末モード。昭和の流行歌に彩られた『きらめく星座』から伝説のカルト・ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』、昨秋の話題作の再演『スカーレット・ピンパーネル』まで、一年を締めくくるのにふさわしい舞台が続々登場します。記事アップ後も随時、取材記事や観劇レポートを追加掲載しますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


ロッキー・ホラー・ショー

2017年11月7~12日=Zeppブルーシアター六本木、11月16日~12月3日=サンシャイン劇場、12月9~10日=北九州芸術劇場大ホール、以降仙台、松本、大阪で上演

【見どころ】
『ロッキー・ホラー・ショー』

『ロッキー・ホラー・ショー』

1973年に誕生したカルト・ロック・ミュージカルで、75年に映画版が公開、85年以降日本人キャスト版も度々上演されている人気作が、2011年以来久々の登場。嵐の夜にとある古城に迷い込んでしまった若い恋人たちは、城主フランクの人造人間創造に付き合わされるが……。

前回も主演の古田新太さんはじめ、小池徹平さん、ISSAさん、ソニンさんらの破天荒なパフォーマンス、ナレーター役のROLLYさん、エディ/スコット博士役の武田真治さんのミュージシャン兼任にも期待が集まります。今回が初となる河原雅彦さんの演出コンセプトは「グラム・ロック・パーティー」ということで、ひょっとするとこれまでで最も“観客巻き込まれ率”の高い日本版となるかも……しれません。

【観劇レポート】
『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

開演前から場内を行き交い、販売グッズをPRするファントム役(本作におけるアンサンブル)の面々が、そのまま舞台に上がって場を盛り上げる。みんなで“R”“O”“C”“K”“Y”とコールしてまずはバンドの演奏がスタート、サックス(武田真治さん)を効かせた骨太の音色に期待が高まったところで、今度は音楽監督にして90年代、長くフランク役を演じていた“ミスター・ロッキー・ホラーショー”こと(?)ROLLYさんを呼び込みます。

歓声の中登場した彼は、ひとしきりギターソロで魅せた後、冒頭のナンバー「Science Fiction」を上木彩矢さんにバトンタッチ。甘く懐かしいメロディに時折スパイスを覗かせる上木さんの歌唱がさらなる期待を掻き立てる中で、本編がスタート、観客は結婚式帰りのブラッド&ジャネットとともに、禁断の世界へといざなわれます。
『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

嵐の中で車がパンクしてしまった二人が傘代わりに新聞紙を頭に乗せると、客席では彼ら同様に新聞紙を頭に乗せる人がちらほら。今回の公演でも、映画版以来の伝統である“観客参加”は健在で、後々、立ち上がって踊りだす観客の中には登場人物のコスプレを楽しんでいる方がいることにも気づかされます。

助けを求めた古城で二人を迎えたのは、いかにも怪しい風体の執事リフラフ(ISSAさん)、使用人のマジェンタ(上木彩矢さん)、コロンビア(アヴちゃんさん)。突如「Time Warp」を歌い出した彼らに乗せられ、続いて登場した網タイツ姿の城主・フランク(古田新太さん)にも気に入られた二人は、フランクが手掛けて来た人造人間“ロッキー”(吉田メタルさん)誕生を見守ることになるのですが……。

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

理屈も性別も超越した世界で、心身を“解放”されてゆく若者たち。作者のリチャード・オブライエンは本作を「(若者の)通過儀礼の物語」として書いたそうですが、河原雅彦さんの演出は突き抜けたバカバカしさ、猥雑さを追求しながらも“解放”によって男女が本質をさらけ出し、最後には“無邪気さ”と“現実主義”の2方向に分かれてゆく皮肉を鮮やかに描写。また自身やROLLYさん、フランク役の古田新太さんら、長年の本作ファンとしての尋常でない作品愛と、振付の牧宗孝さんをはじめとする、“実は今回関わるまで本作を知らなかった派”のニュートラルな感覚を絶妙のバランスでミックスし、2017年の今にふさわしい『ロッキー・ホラー・ショー』を作り上げています。

キャストの皆さんも各役を生き生きと演じ、フランク役の古田新太さんは誰もが“唯一無二”と思っていた映画版フランク、ティム・カリーに匹敵する存在感で、何より登場時の濃密なオーラが圧倒的。以前は細川俊之さんらダンディな俳優が演じ、終盤との落差を楽しませていたナレーター役はROLLYさんが担当、大仰なナレーションで楽しませ、新鮮です。

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

『ロッキー・ホラー・ショー』撮影:引地信彦

禁断の世界に迷い込むブラッド役の小池徹平さんとジャネット役のソニンさんは『キンキー・ブーツ』に続き息のあった共演で、思い切り誇張された“良い子”っぷりがいつしか吹き飛び、変化してゆく姿が痛快。ソニンさんのソロ「Touch-a-Me」は芝居心と歌心が見事に両立して何ともキュート、映画版ではお蔵入りしていたブラッドの、ちょっとプレスリー風のソロ・ナンバー「Once in a While」を歌う小池さんは、歌終わりのちょっと意地悪な趣向(?)を余裕でこなしています。

使用人トリオのISSAさん、上木彩矢さん、アヴちゃんさんもテンポのいいセリフと文句なしの歌唱で躍動、バンド演奏とエディ&スコット博士役を掛け持ちする武田真治さんは登場の度、毒のある“華”を舞台に持ち込んでいます。ファントムたちのキレのいい動きも申し分なし。

休憩を含めて2時間強で終わってしまうショーながら、終演時にはかなりお腹がいっぱいに。にもかかわらず、帰路には「Time Warp」や「Touch-a-Me」のフレーズが自然と口をついて出、“また”観たくなってしまう。何とも中毒性の高い仕上がりのエンタテインメントです。


スカーレット・ピンパーネル

2017年11月13~15日=梅田芸術劇場メインホール、11月20日~12月5日=TBS赤坂ACTシアター

【見どころ】
『スカーレット・ピンパーネル』

『スカーレット・ピンパーネル』

97年初演のフランク・ワイルドホーンの大ヒット作に昨秋、2曲の新曲が追加。ガブリエル・バリー演出で“新バージョン”として上演された本作が、新たなキャストを加えて再登場します。原作は英国の小説『紅はこべ』。フランス革命勃発後の恐怖政治の中で、無実の人々を断頭台から救うべく立ち上がった英国貴族パーシーと“ピンパーネル団”の活躍、パーシーと妻マルグリット、その元・恋人で現在はフランス政府の要人であるショーヴランの三角関係が絡み、物語はスリリングに展開。

ワイルドホーンらしい躍動感溢れる音楽、主演の石丸幹二さん、安蘭けいさん、石井一孝さんの濃密な演技に加え、上原理生さん、泉見洋平さん、松下洸平さんら新キャストの熱演も楽しみな舞台です。

【観劇レポート】
歴史の渦の中で絡み合う男女の思惑と愛

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

前回公演から1年という異例の短期インターバルで上演された本作。演出的には大きな変更は無い中で、今回は三角関係にある主人公たちの心理的“攻防戦”がより繊細に描かれています(前回公演のレポートはこちら)。

例えば2幕、ピンパーネル団首領の正体を暴こうとするフランス政府全権大使ショーヴラン(石井一孝さん)は、かつての恋人であるマルグリット(安蘭けいさん)を利用し、ピンパーネルをおびき出させようとしますが、彼が指定場所に到着する前にピンパーネルことパーシー(石丸幹二さん)は顔を隠してその場に現れ、マルグリットの話を聞く中で、自分が彼女を誤解していたことを知り、彼女への愛を再確認します。時刻通りに来たショーヴランを、パーシーはとことん愚弄。愛する人の本心に安堵し、勇気百倍(?)となる男心を、石丸さんがお茶目に演じます。

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

またマルグリット役の安蘭けいさんは常に主体的に生き、そのために窮地に陥るも最終的に自分の選択は間違っていなかったことに気づき、同様に勇気を得て剣を取るというアップダウンの激しい役柄をリアルに表現、ショーヴラン役の石井一孝さんは黒づくめの服装が象徴するように、ひたすら政府=正義のためと盲目的に行動してきたのが、いつしかマルグリットへの歪んだ愛のためなのか判然としなくなってゆく様に哀しさを滲ませます。

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

『スカーレット・ピンパーネル』撮影:岸隆子(Studio Elenish)

いっぽう今回、初参加となった上原理生さんは、ロベスピエールが2幕冒頭で歌う「新たな時代は今」を情熱的に歌い、貧困の中で革命に立ち上がらざるをえなかった人々の背景に思いを馳せさせ、その直後、プリンス・オブ・ウェールズ役に早変わり。思いつめたロベスピエールとは対極的な鷹揚なオーラを纏う姿に、表現者としての幅の広さを感じさせます。

パーシーの片腕であるデュハーストを、頼れる存在感で演じる泉見洋平さん(石丸さんとは異なる声質がピンパーネル団のコーラスで活きています)、正義感に溢れるマルグリットの弟サン=ジュスト役・松下洸平さん、紅一点ながら危険な任務に飛び込むマリー役・則松亜海さんら、ピンパーネル団の面々もそれぞれに熱演。本作のテーマ曲とも言われる「炎の中へ」は序盤でも歌われますが、劣勢に転じた後半での歌唱には固い友情で結ばれた彼らの決意が漲り、ショーヴラン側にシンパシーを抱いていた観客がいたとしても、このナンバーでほろりとさせられることでしょう。冒険活劇と男女の愛の駆け引きを重ね合わせた重層的なミュージカルとして、さらなる深化を実現した公演となっています。

*次頁で『メンフィス』以降の作品をご紹介します!
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