セクシュアルマイノリティ・同性愛/LGBT

フジ「保毛尾田保毛男」クレームや謝罪の流れと考察(4ページ目)

9月28日夜、フジテレビが「とんねるずのみなさんのおかげでした 30周年記念スペシャル」でゲイを侮蔑するような「保毛尾田保毛男」というキャラクターを復活させ、非難や抗議が相次ぎ、社長が謝罪。その後もいろんな声が上がりました。この件についての経緯をまとめつつ、ゴトウなりの意見も少しお伝えします。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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フジテレビはLGBTに差別的?

今回の件で、「フジテレビってゲイを笑い者にするような差別的なテレビ局なんでしょ」という偏見が広まることを危惧し、フォローしておきたいと思います。

90年代初め、日本で初めてゲイブームが起こった頃、伝説の「Johnny」という(日本初の)ゲイの番組を放送したのがフジテレビでした。リアルなゲイの方が出演するドラマや「今週のカミングアウト」コーナー、ゲイナイトレポートなど、当時としては本当に画期的な内容でした。

1997年には「daibaba」という番組にドラァグクィーンが登場し、MAXとダンス対決するという素敵な企画もありました(実はゴトウも出演しました)。

2011年にはマツコさん&ミッツさんが監修したドラァグクイーン大集合な番組「JOSO-TV」を放送したほか、トランスジェンダーの子たちの「心の旅」を繊細に描いた名作アニメ『放浪息子』を放送したり、韓国のトランスジェンダー・タレント、ハリスを特集したりしています。

翌年には「FNNスピーク」で「セクシャルマイノリティの自殺予防の取り組み」を特集、「スーパーニュース」では同性婚を特集。とてもいい内容でした。

そして、フジテレビ元アナウンサー阿部知代さんのような方がアライとして活躍するようになり、今年ついに、東京レインボープライドを祝してお台場のフジテレビ社屋をレインボーカラーにライトアップさせました。実は、こうして見ると、民放キー局の中で最もLGBTフレンドリーな局だと言えるんじゃないでしょうか。

ゴトウ自身は実は、昔放送されていた保毛尾田保毛男のことはあまり記憶にありません。なぜなら、当時の青森では民放が2局(日テレ系とTBS系)しかなく、基本的にフジ系の番組は放送されなかったのです(「夕やけニャンニャン」を見たいがために東京の大学に進学した人もいたほど……)。また、ちょうど受験勉強生活→進学で関西に引っ越しという時期に当たっているからです。おかげでとんねるずってそんなに印象がなくて(関西では主に「パペポ」と「探偵ナイトスクープ」を観ていました)、2008年の矢島美容室の時に、素敵!と思ったくらいです。


新宿二丁目でお笑い系ドラァグクィーンをやってきた者として思うこと

ドラァグクィーンやヴォーギングがまさにそうですが、アメリカのゲイの間では、世の中のいろんな物事や人を大げさに、わざとらしく、パロディ的に見せる「キャンプ」と呼ばれる表現・テイストが広まり、ゲイカルチャーの一角を形成してきました。日本でも同様だったと思いますが、差別を受けて打ちひしがれるだけじゃなく、それを笑いに変えてきたのです。

テレビや水商売じゃなく、一般の職場等においても、「オネエ」であることをむしろ強みにして周囲に面白がられ、かわいがられ、うまくやっていけてるような方もいらっしゃいます。適応能力やコミュケーション能力に長けていて、いつも楽しそうで、あまり深く悩んでいないようにも見えます。そういう人は、もしかしたら「ホモ」とイジられてオイシイわ、くらいに感じているかもしれません。

ジュヌヴィエーヴというお笑い系ドラァグクィーン

私が昔やっていたお笑い系ドラァグクィーンの写真。できるだけブスにして笑いをとっていました。

そして、実は、ゴトウは、若かりし頃(20年近く前)、新宿二丁目でお笑い系ドラァグクィーンをやっていました。毎月毎月、手を替え品を替え、新しいネタを作ってお客さんを笑わせるなかで、基本的には自分を落として(できるだけブスに見せて)笑いを取っていたのですが、よく考えると、歌手の(結構な悪意を含んだ、ファンが見たら怒りそうな、あるいは不謹慎な)モノマネをしたり、もしかしたら誰かを傷つけるようなネタもやっていたかもしれません。

ですから、今回の件についてゴトウが批判や抗議をすると、どの口が言う?という話になりますし(いわゆる「ブーメラン」です)、「そんなに目くじら立てて怒らなくていいんじゃない?」「あまり怖い顔で抗議すると、逆によくないよ」と言う側に立ってもおかしくないくらいです(むしろそう言ったほうが立場が一貫します)。

それはそうなのですが、でも、それでも、今回は、そういうことを言う気になりませんでした(「ブーメラン」は覚悟の上です)。周りの友人たちが、どれだけ傷ついたり、学校でからかわれたり、恐怖を覚えたり、深刻な目に遭ってきたかを(今回の件のおかげで)知りました。

その子ども時代の彼らは、僕の子ども時代と同じです。「男が好きな男」って異常なんじゃないか、みんなに嘲笑され、後ろ指さされ、普通に生きていけない存在なんじゃないかと思い(思い込まされ)、誰にも相談できず、孤立無援状態に陥って……。

たくさんの方が書いているように、30年前は(インターネットがなかったので)そういう声が届きにくかったけど(なかったわけではないのです。馬場英行さんのように地道に声を上げ続けていた方もいらっしゃいました)、今は違います。ここでダメだよと言わないと、同じようなことが繰り返されるだろうなと思うからです。何より、セクシュアルマイノリティの子どもたちのことを考えると、ということです。みんなが強く生きていけるわけじゃありません。孤立しがちな(二丁目に出たりできない、周囲に相談できる人がない)弱い立場の子どもたちを守らなければ。

芸人さんって、日々、いかに人を笑わせるかってことばかり考えてると思います(よくわかります)。その中で、ちょいちょい、やらかしてしまう(怒られる)こともあるんだと思います(よくわかります)。みなさんもそれをよくわかっていて、だからこそ、石橋さんやたけしさん(今回の放送ではたけしさんの発言もひどかったと思います)ではなく、チェック機能が働くことなく(スルーして)放送してしまった局の体制のほうを問題視し、会社に働きかけ、抗議だけでなく平和的・建設的な話し合いの場を設けたわけです。

昔は自分自身もピンときていませんでしたが、今ならこう言えます。深刻な差別に遭っている人たちを嘲笑することを控えながらお笑いをやっていくことってそんなに難しいことじゃなくて、十分可能で、いくらでもやり方があると思います(お笑いってそんなに貧しいものじゃありません)。

どんな職業の方も、それをやっちゃいけない、ということがあります。政治家は汚職をやっちゃいけないし、トレーダーはインサイダー取引をやっちゃいけないし、お相撲さんは八百長をやっちゃいけない。今回の件は、芸人さんや番組プロデューサーの方や、その他の局員・スタッフの方に、今まで「アリ」の範疇だと思われていた「ゲイへの侮辱」が本来は「ナシ」だったんだよ、やっちゃいけないリストに入ってるんだよ、今後はそういうふうに認識を改めてください、お願いします、という話なんだと思います。


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