抗議は笑いを窮屈にする?

さて、話を放送後のことに戻すと、非難や抗議が相次ぎ、9月29日に社長さんが謝罪しましたが、この件はそれだけでは終わりませんでした。

声高に抗議することによってゲイが扱いづらい「腫れ物」になるのではないか、といった批判や、お笑いタレントの方たちの中から「今後、女装ネタはできなくなる」「ハゲやデブもいじれなくなる」といった声が上がり、またそれに対して反発する声なども上がりました。

ナインティナインの岡村隆史さんは「『今はもう時代がそうじゃない』って言われたら、そうなんでしょうけど。このあと、もう数年でしょうね。キャラクターとか演じられるのも。あと数年じゃないですか。おそらくこの先いったら、もう女装もしたらアカン、カツラもかぶったらアカン。そういう時代がくるんじゃないですか」と語っています
出典:「岡村隆史「キャラクター演じられるのはあと数年。女装もカツラもアカンと」 テレビの見方の変化に疑問呈す

また、トランスジェンダーの杉山文野さんが「『知らない』は社会の責任だ -保毛尾田保毛男 の一件に関して-」で、「「悪気のない」笑いの裏でどれだけ多くの人が傷つき、時には自殺にまで追い込まれているという現実を知ってほしい。笑いを生み出す想像力を、ほんのすこし、僕らのところまで広げてもらえたら、どれだけ多くの人が救われるだろう」と書いたことに対し、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが「お前だけが被害者面すんな、おれも学歴や職業や考えで差別されてると思うことはたくさんある。でも生きる。」とツイートし、これをきっかけに議論が起こりました。

あんまりだと思ったNPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんが、「たとえ自分が差別され痛いからと言って、現に痛がっている人たちに『痛がるな』と言う権利はない」と書いたところ、村本さんは「ゲイを笑い者に? バカか? あれはみんなゲイを笑ってるんじゃなく石橋貴明って人を笑ってる」と反論。これに対し、駒崎さんは「LGBTの人々は「被害者面」してるのか?」で、村本さんに代表されるスタンスこそが社会的な抑圧を生み出して来た典型であり、「保毛尾田保毛男を嗤うということは、彼がカリカチュアしている『ホモ』キャラの『気持ち悪さ』『滑稽さ』を嗤う」ことにほかならないと、改めて異議を唱えました。

この駒崎さんの異議に対して、あの乙武さんが、自身のブログの「なぜLGBTをネタにしてはいけないのか」という投稿で、村本さんの人となりをよく知ってるとしたうえで、彼の発言の真意は「チビ」「デブ」「ハゲ」などが笑いのネタとして容認されているなか、「LGBTだけはNG」とすると、かえって差別になりかねないぞ、という警鐘だったのではないか」。ただ、「だからLGBTもネタにしていこうぜ」というのは反対で、「やっぱり、『まだ早い』のではないかと思うんです」と語りました。「LGBTだって、早くネタにできる時代が来てほしい。早く『ちょっとした違い』だと捉えてもらえる社会になってほしい」と語っています。

10月11日(偶然ですが、世界カミングアウトデーにあたります)に放送されたEテレのテレビ番組『ハートネットTV B面談義LIVE』では、ゲイの方や障害をお持ちの方などが登場し、この問題について語りました。全盲の弁護士・大胡田さんは「差別をなくすには摩擦と対話が必要だ」、また、「ゲイとか障害者と言われてステレオタイプなイメージしか思いつかないのは、周囲にそういう友達がいないからだと思う」と語りました。ゲイの弁護士・南和行さんは、友人のトランスジェンダーの方が、テレビでオネエの人が笑われてるのを見るたびに自分も傷つくと話していた、と語りました。「みんなが強い人ばかりではない」とも。ブルボンヌさんは、昔の放送では、岸田今日子さん演じるお姉さん役が保毛尾田保毛男がいじめられるのを守ってくれたりする場面もあって、そのやりとりも含めて観ていたと、また、「笑いはポジティブなもので、人と人との距離を縮めてくれる」「自分で自分を差別し、卑下していては、いい笑いは生まれない」ということもおっしゃっていました。

本当にたくさんの方が様々な意見(とてもいいこと)をおっしゃっていて、もうほとんど何も言うことが残っていないのではないかとすら思います。それでも、この間に起こった出来事や出された意見を整理するまとめ的な役割と、あと、ほんの少しだけ、何か自分なりに付け加えられることがあるかもしれないという気持ちで、この原稿を書いています。