IoT・AIという言葉に振り回されていませんか?
”コールセンターにAIを導入して顧客対応”、”タクシーの需要予測をAIで行って売上アップ”、”トイレの空き状況をIotでスマホに知らせる”など、連日のように新聞・テレビでIoTや人工知能(AI)といった言葉を見るようになりました。”人工知能(AI)で人事評価”といった記事を見ると、いよいよコンピュータに一次査定される時代になったのかと、少し暗澹とした気分になります。
実際、就活では「エントリーシートを人口知能(AI)で合否判断する」ことが行われはじめています。ビジネスチャンスと思った企業が「人工知能(AI)でエントリシート作成」という対策サービスもはじまるかもしれません。こうなると、何がなんだか分からないですね。
週刊誌では「人工知能で消える職業一覧」という特集が組まれ、「自分の仕事も早晩人工知能に置き換わり、失職するのでは」と不安をもった人が読み、「自分の仕事は入っていなかった」と確認して胸をなでおろしています。
多くの報道がされていますが、情報に踊らされないよう、「大局観」をもつ必要があります。IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)という言葉はそれぞれ関連しています。まずはざっくりと全体像を理解し、自分なりの視点をつくってから、ニュースを判断するようにしましょう。
データの基本形、形のあるデータ「構造化データ」とは?
ここでは、「小売店におけるデータ管理」を例にして考えてみましょう。創業したてでお客さんの数が少ない場合、顧客管理はエクセルを立ち上げて顧客名・住所・電話番号・誕生日などを入力すればOKです。これで顧客の誕生日の2週間前にダイレクトメールを送れます。
リピーターが増えてくると、売れ筋商品や顧客別の売上動向を把握する必要が出てきます。取引履歴に一人の顧客に複数の取引情報を紐づけなければならず、エクセルでは無理なのでアクセスなどのデータベースや顧客・販売管理ソフトが必要になります。
商売が軌道にのり、事業が大きくなると人を雇う必要が出てきて、人事・給与管理などが必要となります。自前でシステムを構築するか、パッケージソフトを導入することになります。
ここで中心になるのがデータベースです。顧客名・住所などの項目が決まっており、追加も可能ですが手間がかかります。形が決まっているので構造化データと呼ばれています。これが商売の中心となるデータです。
SNSなどの形の決まっていないデータ「非構造化データ」とは?
一方で、スマホやソーシャルネットワークの進展とともに増えてきたのが非構造化データです。Twitterでの発言・Youtube動画・メールなど、形が決まっていない情報がどんどん増えています。顧客がFacebookでお店やサービスに対する肯定的・否定的な意見を書くようになり、お店にとっては不満を的確にとらえることで改善のヒントになります。
これらの新しいデータは顧客管理や販売管理のように形が決まっていないところから非構造化データと呼ばれます。
モノの情報「IoTデータ」とは?
IoTとは、Internet of Things の略で、日本語では「モノのインターネット」と言われ、身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組みのことです。モノに付随する情報を収集したデータがIoTデータと呼ばれます。小売店が大きくなり大型スーパーのような広い店舗になると、IoTの活用例として以下のようなものが考えられます。
・駐車場をライブカメラで撮影し、その映像情報データをもとに、誘導係の配置時間を決める。
・ショッピングカートに位置センサーを付け、収集した位置情報データをもとに買い物客の店内の回遊状況を把握する。
・商品にICタグをつけ、顧客がどの商品を手に取り、迷ったかをつかむ。
このようにIoTデータを分析・活用することで、人員配置計画や店舗のレイアウト、また棚に置く商品の改善の検討ができるようになります。
ビッグデータのキーワードは「3V」
今までは形のある構造化データが中心でしたが、これにSNSなどの形が決まっていない非構造化データが加わりました。さらにIoTデータが加わり、企業が抱えるデータはますます膨大になっています。これがビッグデータです。Iot、ビッグデータ、人工知能(AI)との関係
ビッグデータのキーワードは3Vです。
まずはボリューム(Volume)、つまり量です。
次がバラエティ(Variety)で”バラエティに富む”と言いますが、構造化データだけでなく非構造化データやセンサーのIotデータなど多彩な種類を扱います。
最後がベロシティ(Velocity)で発生頻度をいいます。データが変化する頻度が多い特徴があります。
データ収集の目的は分析
データを集める目的は分析です。昔から企業はいろいろなデータ分析をして経営にいかしてきました。例えば何かを買った時についでに買う商品を分析する併売分析(バスケット分析)があります。
あるスーパーでは「紙オムツとビールに相関性がある」という結果が出ました。観察すると奥さんに「赤ちゃんの紙オムツを買ってきて」と頼まれたお父さんが、紙オムツを買った後にビール売場でビールを買っていました。
そこで紙オムツ売場のすぐ横にビール売り場を作ると売上が伸びます。この事例は都市伝説のようですが、分かりやすいのでマーケティングの教科書によく掲載されています。
Amazonで本を買おうとすると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と下に一覧が出てきます。これも併売分析から表示しています。
ビッグデータを分析するために人工知能(AI)が必要となった
IoTデータが加わりますます肥大化したビッグデータを分析するために、人工知能を応用できるようになってきました。人工知能にはいろいろレベルがありますが、現在の中心は機械学習です。アルファ碁が人間のプロ棋士に勝利しましたが、こちらはさらに進んだ深層学習(ディープラーニング)を使っています。
機械学習とは膨大な情報を与えることで、ルールや知識を人工知能(AI)自らが学習するということです。人工知能型の迷惑メール判定では多くのサンプルメールを読み込ませ、迷惑メールの判断精度を上げています。
これまでの人工知能はエキスパートシステム(専門家システム)に代表されるようにエキスパート(専門家)がどう判断して、どう考えているか人間がルール化しました。このルールをコンピュータに教え込ませ、エキスパートのように人間を補助してくれるシステムが人工知能でしたが、機械学習で一歩進んだことになります。
ニコラス・ケイジが映画に出るとプールで人が死ぬのか?
先ほどの併売分析は小売店のPOSデータから紙オムツとビールの関連性を見つけましたが、ビッグデータを使い人間では気がつかない関連を人工知能が見つけ出すかもしれません。ただ、そこには注意も必要です。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますが、これは「一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶ」ことの喩えで使われます。
ビッグデータを解析すると全くの偶然による相関関係にたどりつくかもしれません。「原因と結果の経済学」(※)に”ニコラス・ケイジが映画に出るとプールで人が死ぬ”という事例が掲載されています。ニコラス・ケイジの年間映画出演本数とプールでの溺死者数がいかにも相関しているように見えるグラフとなっています。
人工知能に与えるビッグデータの質が重要
コンピュータ黎明期からGIGO(ギゴ)という言葉があります。”Garbage In, Garbage Out”の略語で、意味としては「ゴミを入れたらゴミしか出ない」となります。入力するデータを信頼できる綺麗なものにしないと、ゴミが出るだけです。
これは人工知能時代でも同じです。実際にマイクロソフトが会話理解研究のために公開した人工知能ボットに、ユーザーがいろいろと汚い言葉を教えたら人種差別的発言をするようになって公開中止となった、という例もありました。
あるとき、知人が本を出版することになり、Amazonに知り合い限定のメールが回っていました。メールには「本を買うのと同時にこの本も買うように」というメッセージがあり、その対象にアダルト本が指定されていました。
Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という推奨データにこのアダルト本を出そう、というという悪ふざけのプロジェクトで、さすがに賛同者が少なかったようですが、人工知能ではこういった人間が行うヤラセも排除しなければなりません。
”ニコラス・ケイジが映画に出るとプールで人が死ぬ”というのは、常識的に考えると、どう考えても相関関係はないのですが、この「常識的という判断」や「人間が意図的に行うヤラセを見抜く」といったことは、人工知能ではまだまだ難しいため、人間が判断しなければなりません。
単にビッグデータの量を求めるのではなく質も必要なのです。
質の良いビッグデータを人工知能に分析させ、それでもなお”ニコラス・ケイジが映画に出るとプールで人が死ぬ”という結果が出たら、人間の叡智が及ぼないところで本当に相関があるのかもしれません。
このように、IoT、ビッグデータ、AIはデータを収集する方法として、収集された大量のデータとして、またデータを分析するためのツールとして、密接に絡み合いながら私たちの日常に浸透しつつあります。
データ収集時には何の目的で使うかを明確にし、また収集後は分析して活用することで企業経営に役立てることが重要です。
※「『原因と結果』の経済学―データから真実を見抜く思考法」(中室牧子・津川友介、ダイヤモンド社)
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