ねこはしる

10月14~22日=川崎市アートセンター アルテリオ小劇場。*完売につき追加公演決定!*10月15日18時開演。一般発売10月2日9時より。
『ねこはしる』

『ねこはしる』

【見どころ】

落ちこぼれの猫と池の魚が出会い、友情をはぐくむ。しかし他の猫たちが池の魚に気づき、魚とり競争をすると言い出す。どうしたら友達を助けることができるかと悩む猫に、魚は思いがけない言葉をかける……。種を超えた動物たちの友情ドラマを通して、命や自然の摂理について考えさせる工藤直子さんの詩的物語『ねこはしる』。これまでも様々に舞台化されている人気作ですが、今回上演されるのは2003年初演の、ふじたあさやさん脚本によるミュージカル版です。猫役を笠松はるさん、魚役を神田恭兵さんが演じ、ふたりを見守る大自然の生き物たちを他の出演者たちがコロス的に表現。優しく切なく、心がじわりとあたたまる物語世界を、美しいコーラスときめ細やかなステージングで見せてくれることでしょう。

【笠松はるさん、神田恭兵さんインタビュー
深遠なテーマの物語に
想像力と肉体と声を駆使して
挑んでいます】

笠松はる(右)大阪府出身。劇団四季在籍中に『オペラ座の怪人』『ウェストサイド物語』等でヒロインを演じる。14年退団後、『李香蘭』『ボクが死んだ日はハレ』等に出演。神田恭兵(左)神奈川県出身。『ミス・サイゴン』『Beautiful』等で活躍。年末には『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演。ライブ活動も展開している。(C)Marino Matsushima

笠松はる(右)大阪府出身。劇団四季在籍中に『オペラ座の怪人』『ウェストサイド物語』等でヒロインを演じる。14年退団後、『李香蘭』『ボクが死んだ日はハレ』等に出演。神田恭兵(左)神奈川県出身。『ミス・サイゴン』『Beautiful』等で活躍。年末には『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演。ライブ活動も展開している。(C)Marino Matsushima

――原作を最初に読まれた時、どんな印象を持たれましたか?

笠松「童話のつもりで読んでみたら、童話というより“詩”なんですね。言葉からイメージがものすごく湧いて出てくるのですが、私とお客様の間で抱くイメージにずれが生じないか、シンプルな作品だからこそ、そこが難しいんじゃないかなと感じました。ストーリーとしては、じーんと来るお話ですね。結末が明言されていなくて、想像させてくれるところがいいなと思いました」

神田「僕も童話と思って読んだので、テーマが深すぎて驚きました。“魚”役を演じるとわかった上で読んだのですが、(自分が“魚捕り競争”の獲物になる運命であることを知って)友達の猫のランに魚が告げる言葉が、どういう心境で言っているのか(掴み切れず)、今も悩んでいます。でもそれは“いい悩み”だと感じるんですよ。こういう感覚になれる作品ってなかなかありません。おそらく“命を繋ぐ”というようなことだと思うんですが、今の人間社会ではとらえづらいことが、心の奥底にしっかりと残る作品ですよね」

――本作については、タイトルをどう読むか、終盤の行動をそのままタイトル化した“ネコ、ハシル(猫走る)”なのか、それとも主人公がこの世の真理を理解するという“ネコハ、シル(猫は知る)”なのかという論議がありますが、お二人はどう読まれますか?

笠松「私の場合、最初に“『ネコ、ハシル』っていう作品があるんだけど……”と言われたので(笑)、最初から“猫走る”のつもりで読んでしまいました」

神田「カンパニーでもみんなそう呼んでいたからね。でも、そういう論議があると聞いて、確かにそうだよなと思います。工藤さんがダブルミーニングとしてこのタイトルをつけられたのか、逆に知りたいと思いますね」

――従来の公演では、ランと魚はどちらも女性が演じていますが、今回は男女バージョンなのですね。そこにどんな意味があるのでしょう?
『ねこはしる』稽古より。お母さん猫が一生懸命教えても、のろまな子猫のランは宙返りができず、ドッタバッタの日々。(C)Marino Matsushima

『ねこはしる』稽古より。お母さん猫が熱心にコツを教えても、のろまで宙返りがうまくできない子猫のラン。笠松はるさん演じるランが懸命に練習する姿がなんとも愛おしい。(C)Marino Matsushima

笠松
「演出のふじたあさや先生が稽古の最初に、これまで10回以上この作品を演出してきて、今回全く新しいものにしたいとおっしゃったんです。そういったところで、今までとはタイプの違う私たちを入れることで、新しい風を吹き込むという意図だったのかなと思います」

神田「男女ではキーが違うので、楽譜を調整する必要があるのですが、稽古場に作曲家の西村勝行先生が来てその作業をされていると、先生自身が想定していなかった音楽性が見えてくるそうです。そこでまた新たな演出が浮かんだり、作品の新たな切り口が見えてくる、それが新しい風ということなのかな。ただ、男女が演じているからといってカップルに見えないか、というのは気になりますね」

笠松「そうですね。二人が仲良く遊ぶシーンがたくさんあるので、二人が並んでニコニコしてるときにどう見えるか。ランはオス猫だけど、演じる私は女性なので、ランと魚の間にあるものはあくまで“友情”に見えないといけない、と思っています」

――原作と同じく、この作品では動物や植物、大地が二人の様子を物語る部分が多く、コロスの存在がとても重要ですね。

神田「本当にそうですね。今回は素舞台に近いステージになるかと思うので、僕らが魚とランを演じているときも、コロスがどこかで演じている感じがないと、二人だけでは成り立ちません。例えばランと魚が遊ぶ様子を表現するとき、僕自身、猫と魚が遊ぶ姿って正直見たことがないんだけど、お客様にそういうふうに見えるためには、僕ら二人だけでなく、周りのみんなのイマジネーションと視線、そして動きを重ね合わせて初めてそのシーンが成り立ってくるんです。その微妙なバランスを今、みんなで作りあげているところです」

笠松「私たち二人もランと魚ではない瞬間もあるので、むしろ“全員がコロス”であって、その中でランや魚を担当して演じている。“コロスが語る『ねこはしる』というお話”として観ていただくのがいいかもしれません」

神田「今回、観に来た子供たちが、舞台って形にとらわれない、無限の可能性を秘めたものなんだと感じてくれたらいいなと思うんです。例えば目の前で人間が魚のふりをしたら“何それ?”と思うかもしれないけど、舞台でならそれが成り立つ。よくわからないけど面白い、と思ってもらえるものを作りたいよね、とみんなでよく話をしています」

笠松「私自身、子供の頃に舞台が大好きだったので、そういう心境に子供たちを引っ張っていけたらというのが願いですね」

神田「そのためには柔軟な頭脳が必要なんだよね」
『ねこはしる』稽古より。喉が渇いて池に水を飲みに来たランに、一匹の魚が「おまえたちはけしからん」と声をかけるのですが……。(C)Marino Matsushima

『ねこはしる』稽古より。喉が渇いて池に水を飲みに来たランに、一匹の魚(神田恭兵さん)が「おまえたちはけしからん」と声をかけ、ランは思わず謝ってしまう。水藻や水の揺らぎもコロスたちが身体的に表現し、観る者のイマジネーションを刺激。(C)Marino Matsushima

笠松
「カンちゃんはスケジュールの都合でワークショップの最初の1週間に参加できなかったのだけど、合流した初日に、他の皆が本読みなのに立ってお芝居を始めたんですよ。それに乗っかって、カンちゃんも即興で動き始めて。初めての稽古でこんなことが出来るなんて、この人凄い!と思いました」

神田「必死だったから、やるしかなかった(笑)。でも、このカンパニーはいいよね。合流したとき、“みんなはワークショップの間に、モノづくりをするための大切なことを積み重ねてきたんだな”とすごく感じました。(演出の)あさや先生も、みんなが作品を良くしようとして相談を始めると、必ず時間をとって、待ってくださる」

笠松「こんなに任せてもらえる現場ってなかなかないよね。誰が一番キャリアが長くて、誰が短いというのが分からないくらい、なんでも言い合える空気なんです。激しくクリエイティブな稽古場よね(笑)」

神田「小劇場の実験的なストレートプレイをやっているみたいな感覚なんだけど、作品自体は完成されていてるので、実験では終わりに出来ないという緊張感もあります。あさや先生は今回を『ねこはしる』の決定版にしたい、とおっしゃっていたね」

笠松「ハードルの高さにドキドキしますね(笑)」

――さきほど子供の観客の話が出ましたが、私の7歳の子は観劇後、いつも“このお芝居はこういうお話だったね”と自分なりに咀嚼して、確認してきます。でもテーマの深い今回は、そこでどう答えたらいいだろうと迷います。

神田「簡単に一つの答が出せるんだったら、この作品をやる意味はないと思うんですよね。作者の工藤さん自身、そういうことを描きたかったんじゃないかなと思うし、究極的にその問いに人類はまだ答えを出せていない。答えは何万通りもあるだろうから、きっとその時感じたものが正解だと思うし、それまでの生き方や環境によっても、感じることは違うと思います。大人からしてみたら、自分の子供がどう感じるのか、“そういう見方もあったのね”と思う事もあるだろうし、彼らの答えに“外れ”はない。逆に面白い体験になると思いますね」

笠松「何を感じたとしても大正解。“その後”を聞かれても、大人からは“答え”を言う必要はないと思います。“あの後いったいランはどうしたの?”と聞かれたら、“……ね(とニッコリ)”。それでいいんじゃないかな」

――ご自身にとって、本作をどんな作品にしたいと思っていらっしゃいますか?

笠松「私は本作が今年、6本目の舞台で、ずっと数珠繋ぎだったんです。本作に取り掛かる頃には摩耗して何も出て来なくなるかなと思っていたけど、実際に稽古が始まると私、すごく元気なんですよ(笑)。若いメンバーたちの情熱や発想に感動したり、ゲスト出演されている横山由和さんが演出家としてあれだけキャリアがおありなのに、私たちと一緒にワークショップで汗を流したり、いろんなことにトライされている姿を目の当たりにして、自分が舞台にどう関わっていくべきか、もう一回立ち返って考えることができているし、同世代のカンちゃんが相手役としていつでも相談に乗ってくれる。今日はこれをクリアしなくちゃ、明日はこれができてないと、と慌てることなく、今日はどんなものが生まれてどんな気持ちになれるのかな、とわくわくしながら通っています。どんな成果が生まれるか楽しみだし、今回は、私個人としては久々にかなり動く(踊る)作品ですので(笑)、ぜひ皆さんに御覧いただきたいです」

神田「僕はプリンシパルもやればアンサンブルをやることも多いのですが、どちらにしても、この仕事って課題が山積みで、それが一つ終わると、いつも一つパワーアップした気持ちになれるんです。だからこそ、いつもその時できる“ベスト”のものをやりたいと思う。今回も、最新アップデート版の自分をお見せしたいという気持ちで臨んでいます。今回は皆の舞台への向き合い方が見ていてものすごく勉強になるし、絶対負けたくないという気持ちになれる。それを自分にとって全部プラスに変えていきたいですね」

【観劇レポート
“命の摂理”と“究極の愛(友情)”を
優しくも厳しく描く『ねこはしる』】

*やや“ネタバレ”を含みます。未見の方はご注意下さい。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

ピアノにヴァイオリン等、5人編成のバンドが音合わせを始めると一人、二人とキャストが登場。発声練習をしたりストレッチをしていた彼らは、和やかな空気の中で“命とは何か”を問いかける「はじまりのうた」を歌い始めます。そして語られる、黒猫ラン(笠松はるさん)の誕生と成長。笠松さんは宙返りがうまくできないランの“落ちこぼれ”ぶりを、絶妙な“不器用感”でフィジカルに演じて見せ、その懸命さをまっすぐに歌いあげます。次々にその様子を“目撃証言”する大地や蝶、野兎たちの歌声もあたたか。

世界の片隅の小さな命と、それをとりまく無数の生き物との“繋がり”を示しながら、舞台はランがふとしたことから池の中の小さな魚(神田恭兵さん)と“ともだち”となり、春・夏・秋にかけてたくさんの幸せな思い出を紡ぐ様を描きます。原作では子猫であるランと魚が“遊んだ”としか記述がない部分を、舞台では側転をしたり、バランスボール使うなどして表現。現実的には想像しにくい“ネコと魚の幸福な日々”を、イマジネーション豊かに描いてゆきます。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

しかしある日、ランのきょうだいが池の魚の存在に気づき、猫一家は次の満月の夜に“魚とり競争”をすることになってしまう。おそらく、小さな池の小さな魚は助かるまい。ランは悩む。そして答えが見つからないまま、池のほとりを訪れる。すると魚はランを見つめ、「それでもいいという気がしている」と運命を受け入れ、さらに思いがけない言葉を告げる。「ただね、お願いがある たべられるなら……」。

背後で彼らの会話を聞いていたすすき役のコロスたちが衝撃を受け、ざわざわと揺れるなかで、一点を見つめながらその決意をまっすぐに語る魚。神田さんの無心な歌声に、観る者の胸は締め付けられ、ランならずとも究極の問いにはっとさせられます。そして長い沈黙の後、ランも自分の覚悟を告げ、やがて舞台はクライマックスへ。息詰まるような“魚とり”の場面を、本作はラップとタップダンスを使い、独特の昂揚感の中、描きます。コロスの歌唱とシンクロしてラン=笠松さんが見せる、鬼の形相、そしてそこからの“限りない優しさ”への変化。演者の表現を観客が100パーセントキャッチできる小劇場公演ならではの、圧倒的な瞬間です。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

結末が詳述されない原作に比べると、行間を読み込み、俳優たちが肉体で表現する舞台版はより輪郭が明確ですが、それでも結びの部分は紗幕の向こうで表現され、観る者の想像力に訴えかけます。“命の摂理”と“究極の愛(友情)”を優しくも厳しく問いかける舞台。劇場のレパートリーとして、毎年上演されてもいいのでは、と思える公演です。


[NEWS]ミュージカル映画『とってもゴースト』製作
クラウドファンディングが進行中

ミュージカル映画『とってもゴースト』

ミュージカル映画『とってもゴースト』

事故で亡くなり、ゴーストとなった美人デザイナーと、デザイナー志望の青年の交流を描いた『とってもゴースト』。音楽座の代表作の一つであるこのミュージカルが、安蘭けいさん(『スカーレット・ピンパーネル』)、古館佑太郎さん(NHK連続テレビ小説『ひよっこ』)、永山たかしさんらの出演で映画化、2018年夏の公開を目指しています。

この企画は『エリザベート』等で俳優として活躍する傍ら、映画監督でもあり、日本のミュージカル振興に尽力している角川裕明さんが「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ」のサポートを得て、音楽座に本作の映画化を提案して実現。以前から角川さんの熱い思いに共鳴していたという安蘭さんの出演が決定。映画用に脚本を書き直し、この冬の撮影が予定されています。

撮影を前に、現在、製作資金の一部を募るクラウドファンディングが進行中(2017年10月20日まで)。1500円から20万円までの中から選んだ金額を寄付すると、角川監督からの御礼メールから出演者のサイン入りグッズまで、様々なリターン(御礼)が後日届くそうです。

舞台公演ではなかなか無い“製作支援”のチャンス。作品作りに“参加”する気分が味わえる、見逃せない企画です。

*前作『蝶~ラスト・レッスン~』での角川裕明監督、上口耕平さん、染谷洸太さんへのインタビュー記事はこちら








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