ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2017年9~10月の注目!ミュージカル(3ページ目)

2017年の秋はバラエティに富んだ演目がずらり。感涙の物語『ファインディング・ネバーランド』に始まり、新演出で魅せる名作『パジャマゲーム』に愛媛発のご当地ミュージカル『52days』など、幅広い選択肢が芸術の季節を豊かにしてくれそうです。出演者へのインタビューや開幕後の観劇レポートも随時追記してゆきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


レディ・べス

10月8日~11月18日=帝国劇場
『レディ・べス』Photo by Leslie Kee

『レディ・べス』Photo by Leslie Kee

【見どころ】
大英帝国の礎を築いたエリザベス1世の波乱の青春を描いて14年に初演、センセーションを巻き起こした歴史大作。待望の再演に、花總まりさん・平野綾さんら強力キャストが再び集結します。(前回公演時の花總まりさんへのインタビュー、観劇レポートはこちら。)激しい権力争いの中で命を脅かされながら育ってきた王女が、恋と運命の間で揺れ動きながら自分の生き方を見つけてゆく物語が、『エリザベート』のシルヴェスター・リーヴァイによる中世音楽風~ロック調まで多彩な音楽、演者の魅力を引き出す小池修一郎さんの演出、重厚感の中に現代の感性が光る二村周作さんの美術、生澤美子さんの衣裳に彩られながら展開。ヒロインが恋する吟遊詩人の醸し出す情感に、後見役の懐の深さ、べスを窮地に陥れる“悪役”たちの憎々しさと、カラフルなキャラクターたちもそれぞれに魅力的。豪華キャストが生き生きと演じてくれそうです。

【メアリー・チューダー(ベスの腹違いの姉)役
吉沢梨絵さんインタビュー
“新しい『レディ・べス』の創作に
加われた気がします”】

吉沢梨絵undefined東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』など。(C)Marino Matsushima

吉沢梨絵 東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』など。(C)Marino Matsushima

――吉沢さんは劇団四季時代、“陽”のヒロインを次々と演じて来られたので、『ルドルフ ザ・ラスト・キス』といい本作といい、退団後のダークなお役へのキャスティングは意外でした。

「どちらの作品も、私の歌声が決め手だったようです。特に本作はゴスペル調であったりハードロック調であったり、地声でバーッと歌う曲が多くて、そこに私の声がドンピシャだったのかな。実際に演じてみると、出ずっぱりではないのにも関わらず消耗が激しくて、特に最後のベスとメアリーが和解する曲は、力強さと同時に繊細さが必要。一筋縄ではいかない役です(笑)」

――初演から3年、待望の再演ですが、開幕を数日後に控えた今(取材時)の手ごたえはいかがでしょうか?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「再演ということで楽なのかな、と思っていたら、とんでもなかったです(笑)。小池(修一郎)先生はまるで新作のように、24時間営業?!というほどずっと頭をひねらせていたし、私も(未来優希さんと)ダブルキャストということで自分の役の稽古を(客観的に)観ながら、率直な感想をお話してそれが演出に反映されたりもして、新しい『レディ・べス』の創作に加われた気がしました。初演を御覧になった方も“おおー”となるところがあると思いますので、皆さんのリアクションが楽しみですね」

より濃縮され、分かりやすくなったベスと彼女を巡る人々の物語
――今回、最も変わった部分は?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「上演時間が短くなりました。でも“省略”ではなく“濃縮”にしようということで、より(物語を)分かりやすくするための話し合いをたくさんしました。私の部分で言えば歌だった部分が台詞に替わって、時間は短縮はされたけどその分、ガーディナーやルナールに翻弄されている様子がより伝わりやすくなった気がしますね。あと今回、プロローグで(ベスの師であり、物語の水先案内役でもある)アスカムが物語の背景を歌う中で、言及される人たちが(寸劇風に)舞台に現れるのですが、そこには私も登場します」

――ヘンリー八世が妻のキャサリンと娘のメアリーを捨て、アン・ブーリンに走ってベスという娘をもうけるが……というあらましですね。

「現れるのはちょっとの間ですが、それによって私も自分の芯が繋がったというか、メアリーとして(舞台に)居やすくなりました。それと、クライマックスではベスのナンバーが増えています。彼女が運命に導かれるだけでなく自覚を持って女王になってゆくということが、すごく伝わるのではないでしょうか」

――メアリーのキャラクターに変化はありますか?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「以前は、真面目さゆえにお客様からは滑稽に見えてしまうところがあったと思いますが、今回はそういうところが少しそぎ落とされて、位の高い人たちの間では一方が生きればあちらは殺されてという一瞬先も見えない状況のなかで、(命への執着が)燃え滾る。そんな中でメアリーも致し方なく、べスを憎む運命になってしまった。

けれども終盤、振りかえってみればべスもある種鏡のように自分と同じような経験をしていることに気づき、彼女に自分の地位を渡してゆく。べスが光ならメアリーは影というわけで、どちらにも感情移入できる部分が増えた気がします。

初演の時から、(単純な)悪い人として演じるのはやめようと思っていましたが、今回はさらに“人間は多面的なものだ”ということを大事に、厳かに(カトリックを)信仰する心があったり、政治に苦手意識があったり、若くてイケてる男の子の前では弱くなってしまったり(笑)しながら、生き生きと演じ抜き、お客様に何かを残せたらと思っています。
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

『エリザベート』を観ていた時にも感じたのですが、(作者の)クンツェさんの作品には言葉にはしつくせない、なるほどなという発見がいっぱいあるんですよね。お客様の前で演じることで感触がつかめて来る部分もあると思うので、今は開幕がとても楽しみです」

自分の常識をいい意味で壊してくれた、あの作品での“無茶ぶり”
――吉沢さんの“これまで”についても少しうかがいたいのですが、劇団四季時代の思い出の演目を一つ挙げるとしたら?

「私のことをミュージカルの世界で知っていただけるきっかけになったのは『マンマ・ミーア!』(ソフィ役)ですが、自分の中で人生を変えてくれたのは『コーラスライン』だと思っています。

(ミュージカルのアンサンブルを選ぶオーディションという設定の作品で)オーディションに残る役(ディアナ)を振られたのですが、私、それまでダンスなんてやったことなかったんですよ(笑)。こんな下手な人間が出られるわけないと思ったけど稽古キャストに入れられるとやらざるをえなくて、ダンスも特訓コースに入れていただきました。

劇団四季は出来なければ(役を)降ろされるシステムなので、とりあえず出来る限りやってみようと思ってやっていたら、踊りの技術は本当に未熟だったと思いますが、ドラマを運ぶ部分で面白いと思っていただけたのか、出られることになったんですね。自分の常識がいい意味で壊れた瞬間でした。最終的に『赤毛のアン』ではダブルピルエットを廻ってファンキックなんていうことも出来るようになって、今できないこと、無理と思っていることもやればできるかもしれない、と思えるようになったんです。

その後、(地声でなく)頭声で歌う役もやってみようと前向きになったし、四季でのダンス経験があるから、今回も(高貴な役で)お辞儀をするコツがわかります。そういう意味で、可能性をバーンと広げてくれた劇団四季さんにはものすごく感謝しているんです」

“覚悟を決めた”出産を経て今、目指すもの
――昨年、出産を経験されましたが、ミュージカル界でも育児とお仕事を両立される女性が増えて来られました。女性読者の中には、真面目であればあるほど、「仕事と育児は両立できないのなら、一択しかできないのでは?」と迷われている方もいらっしゃるかと思います。

「こればかりは人それぞれですよね。私の場合は覚悟を決めて出産しました。実際“ああ、やりたかった”という仕事が二、三度、目の前を通り過ぎていきましたが、それでも結果的に妊娠、出産でき、子供も元気で過ごせていて良かったと感じますし、毎日が大変だけど、育児と仕事という2チャンネルが自分の中では楽しめています。多くの女性が40歳の頃に悩むことだと思いますが、両立もあり得るんだと、皆さんにとって選択肢が増えるような存在になれたらと思っています」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「私は“ひょうきんさ”を大切にしていて、悲劇でも喜劇でも、ユーモア・センスを持ち続けたいと思っています。あとは可愛げのある役者でいたい。これからは自分より若い演出家とのお仕事の機会も出て来ると思うので、声をかけやすい存在でありたいですね。

先日、村井國夫さんが、彼ほどのベテランになられると気軽には声をかけてくれないから、いい演出家だと思ったら自分から声をかけに行くんだよとうかがって、素敵だなぁと感動しました。一緒に作品を作りたいと思っていただけるよう、可愛げをもって生きていきたいですね」

【観劇レポート
無数の人々の“生”を乗り越え、
ひとりの王女が暗黒から
眩さへと歩み出しゆく絢爛絵巻】

『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

世界に英国の名を轟かせ、栄光の時代をもたらした女王、エリザベス一世。彼女が一生夫を持たず、その身を国に捧げた背景には何があったのか。史上最も有名な女王をモチーフとした本作は、腹違いの姉、メアリー・チューダーとの対立という史実と、名もなき吟遊詩人との恋というフィクションを織り交ぜ、王女べスの生き方を決定づけた青春の日々を、重厚かつ絢爛たるビジュアル、音楽とともに描いています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

世界初演から3年、今回の舞台ではディテールのあちこちをカット、上演時間を3時間に短縮しつつも、冒頭のアスカムのナンバーで言及される人物たちが舞台上に登場、これまでのあらましを明示したり、終盤にべスの決意のナンバーを新たに加えることで、彼女の置かれた劇的状況と変化をよりわかりやすく表現(演出・小池修一郎さん)。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

いっぽう、前回はいかにもヒール(敵役)然とした押し出しだったメアリー・チューダーやガーディナー司教、スペイン宰相ルナールがぐっとシリアス味を増し、彼らなりの正義、必死の“生”への執着が浮き彫りとなっています。彼らに加え、死してなおこの世に彷徨うアン・ブーリン、よりよき世の象徴としてべスの即位を待望したことで処刑されてゆく民衆ら、多くの人々の屍を乗り越えて生き延びてゆく中で、べスは否応なしに彼らの凄まじい情念に影響を受け、それが後の、自分自身を厳しく律する生き方へと繋がってゆく。一人の人間の“生”が形作られてゆくまでには、無数の人々の“生”が関わっていることを痛感させる舞台となっています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

初演からほぼ続投のメインキャストはそれぞれに表現を深め、べス役(wキャスト)の花總まりさんは台詞から佇まいに至るまで、驚異的なフィット感で高貴なヒロインを体現。日陰の身で育ちつつも滲み出る“特別な存在感”をもって自然に観る者の心を寄り添わせます。もう一人のべス役、平野綾さんは“体当たり”のフレッシュさに満ちていた前回よりも風格を増し、逆境の中で育まれた強い信念をうかがわせるヒロイン像。その様を見守り、時に“行くべき道”を進言するアスカム役・山口祐一郎さんは風格に加えて飄々たる学者の空気も漂わせ、場面に柔軟さを加味しています。同じく彼女を見守る教育係のキャット役・涼風真世さんも品格に溢れ、場面をきゅっと引き締める歌唱が流石。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

ひょんなことからべスと出会い、彼女に心惹かれてゆく吟遊詩人ロビン役(wキャスト)では、山崎育三郎さんが軽やかな身のこなしとのびやかな歌声で自由な生き方を体現、あまりにも境遇の異なるべスとの恋の行く末を予感させるのに対して、加藤和樹さんのロビンは野性味を帯び、思うがままにならない運命へのもどかしさを印象付けます。同じ父を持ちながらも“政敵”として対立せざるをえなかったメアリー・チューダー役(wキャスト)の未来優希さんは、堂々たる存在感の中に弱さや女性的な可愛らしさを覗かせ、吉沢梨絵さんは施政者としての張り詰めた“気”をびんと伸びる高音で表現。お二人とも初演より感情移入しやすいキャラクターとなっています。

また不義の罪を着せられ死刑に処せられたベスの母アン・ブーリン役・和音美桜さんは、“自分が生きた意味”であるからこそベスの側を離れられないという狂おしい愛を情味豊かに歌い、前回より役の輪郭をくっきりとしたものに。再演にあたりあちこちに手が入った中で、1幕終盤、謀反の疑いでベスが囚われたのを受けて歌うアン・ブーリンのナンバーはストーリー上必須には見えませんが、敢えてこれを残している点で、今回のバージョンにおけるアン・ブーリンの重要性がうかがえます。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

メアリーの母キャサリンの出身国で、当時英国と微妙な緊張関係にあったスペインの王子フェリペ役(wキャスト)は、出番は短いながらも周囲を翻弄する“美味しい”役どころですが、平方元基さんはメアリーとの望まぬ結婚式では率直にため息をつき、状況への反感からベスの味方に転じることをうかがわせるまっすぐな青年であるのに対して、古川雄大さんのフェリペは同じ場面で一瞬「やれやれ」という表情を見せつつもポーカーフェイスでメアリーに接しており、一筋縄ではいかない人物像を表現。彼に賢明さと狡猾さが紙一重であることを身をもって教える宰相ルナール役・吉野圭吾さんは端正な身のこなしと歌唱に磨きがかかり、“悪役”の一つの完成型を見せています。ルナールとともにベスを陥れようとするガーディナー司教は“強敵”としての存在感はそのままに、心臓疾患の表現で彼が日常的に抱えるストレスを見せ、前回より哀れさを漂わせるキャラクターとなっています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

wキャストによってカラーの違いはあれど、激動の日々を経てベスが自分の生き方を定めるラストでは初演時、眩いばかりの装束に身を包んだベスとイモーテルの花を手にしたロビン、彼女を見守るアスカムが舞台に残り、哀切な余韻を残しましたが、今回の余韻はむしろ爽やか。それぞれのキャラクターが存分に生ききり、一人の少女が決意をもって大人の世界へと歩み出すさまが、ポジティブに目に焼き付けられる幕切れです。

*初演時のベス役・花總まりさんへのインタビューはこちら

*次頁で『ねこはしる』をご紹介します!
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