子供の教育/アクティブラーニング・PISA型学力

「非認知能力・自制心」を育む方法!子どもの教育のヒント

学力テストの点数やIQなどに表れる「認知能力」よりも、子どもの性格や性質に関わる「非認知能力」こそ、将来子どもが社会的・経済的に成功するための「鍵」と多くの研究が示しています。この記事では「非認知能力」の重要な要素「自制心」について、その育みのヒントを紹介します。

長岡 真意子

執筆者:長岡 真意子

子育てガイド

成功の鍵を握るのは「認知能力」よりも「非認知能力」

「非認知能力・自制心」を育む方法!子どもの教育のヒント

子供の人生に大きな影響を与える「非認知能力」とは何を指すのでしょう?

昨今、社会的・経済的な成功に欠かせないのは、読み書きや算数などの学力テストやIQ値に表れる「認知能力」よりも、その子の性格や特徴に関わる「非認知能力」と分かっています。

もし、学業成績やIQのみで「将来の成功を予測できる」ならば、同じような学歴の人は皆、同じように成功するはずです。ですが現実はそんなシンプルではありません。学校の勉強が同じくらいできても、社会的に活躍する人としない人が、必ずいるもの。それは、社会的成功には、より数値化しにくい「非認知能力」が大きく関わっているためというわけです。
   

非認知能力を教わった子供の方が、充実した人生を送る

「非認知能力」がいかに子供の人生に影響を与えるかについては、ノーベル賞を受賞した経済学者ジェームス・ヘックマン氏が、興味深い研究報告をしています。(*1)ヘックマン氏率いる研究チームが、アメリカのミシガン州にある『ペリー幼稚園』の子供たちを追跡調査したところ、IQ値では、ペリー幼稚園に通った子と通わなかった子たちとの間にそれほど違いがみられなかったものの、40年後には、ペリー幼稚園に通った子たちの方が、社会面、経済面、健康面全てにおいて、より充実した人生を送っていたというのです。

このペリー幼稚園で教えられていたのが、「非認知能力」です。ペリー幼稚園に通った子と通わなかった子の間では、「認知能力」の差はつかなかったものの、「非認知能力」に大きな差がみられたことが、子供たちの人生に、大きな違いとなって表れたというわけです。

こうした研究から、ヘックマン氏は、幼年期から「非認知能力」を培うことが、子供にとっていかに大切かを説いています。読み書きや算数やIQといった「認知能力」を向上させる教育よりも、その子が感じ、考え、行動するパターンの土台となる「非認知能力」を育むことにこそに、力が注がれるべきだとしています。
 

「非認知能力」の重要な要素「自制心」

では、非認知能力とは具体的にどういった力を指すのでしょうか?ペリー幼稚園で強調されていた重要な非認知能力とは、「やり抜く力」と「自制心」です。確かに、算数や読み書きができIQが高いとしても、すぐに諦めたり気まぐれだったりと「やり抜く力」が足りなかったり、目先の楽しみより広い視野での喜びを優先するといった「自制心」がないのならば、社会に出て成果をあげることは難しいでしょう。

では、非認知能力の重要な要素、「やり抜く力」と「自制心」とは、どのように伸ばすことができるのでしょうか?

「やり抜く力(グリット)」については、以前紹介しましたこちらを参照ください:
やり抜く力(グリッド)を育む6つの子育て方法
 

「自制心」の育みサポートする4つのヒント

自制心2

子供の自制心は、小さな頃から喜びや悲しみなどの感情を受け止めてもらうことで少しずつ育まれていきます。

子供は、小さな頃ほど、欲求や好奇心の赴くままに行動し、「自制心」が弱いのが当たり前です。感情をコントロールし、衝動を抑制し、満足を先のばしにして未来の計画をたてるといった「自制心」は、3歳頃から少しずつ培われていくものです。また、自制心については個人の発達の差も大きいですから、その子のペースでその子に合った接し方をしてあげたいです。

1.感情を受け止める
「自制心」と聞くと、とにかく「自らの感情を抑えて我慢する」というイメージが浮かぶ方もいるかもしれません。それでも実は、子供は、ポジティブな感情もネガティブな感情も、大好きなママやパパに受け止めてもらうことで、自らの感情への向き合い方を学び、感情的に落ち着く術を身につけていきます。

例えば「そんなことでいちいち泣かないの!」「そんなの全然悲しくないじゃない」と、子供の感情を抑えたり否定するよりも、まずは、「泣きたくなるね」「悲しいね」と子供の気持ちを受け止め、スキンシップなどで落ち着けてやりましょう。

また普段から、絵本を読みながら「この時この子はどんな気持ちだっただろう?」と登場人物の感情について話し合ったり、親や子供やお友達の感情について言葉にすることで、子供は感情についてより理解し、自らの感情とよりうまく付き合っていけるようになります。


2.信頼関係を築く
「自制心」といえば、有名な「マシュマロテスト」を思い出す方もいるのではないでしょうか。コロンビア大学のウォルター・ミチェル教授率いる研究チームが、4歳児にマシュマロを渡し、「食べてもいいけれど、私が部屋に戻ってくるまで我慢できたら2つあげますよ」と伝え、部屋を後にします。すると、目の前の1つのマシュマロを食べることを我慢し、2つ手に入れた子の方が、その後、学力に秀で、大人になってからも収入や健康面で優れていたというのです。つまり自制心のある子の方が、後に成功するというわけです。(*2)

この研究についてローチェスター大学の認知科学者セレステ・キド氏は、「子供がマシュマロを食べてしまうのは、本人の自制心以外にも原因があるのではないか?」と考えたといいます。そして、「マシュマロ実験」に新しい実験を付け加えたのです。(*3)

セレステ氏の研究チームは、子供達にマシュマロを与える前に、まずはアートプロジェクトをします。蓋をされたビンに使い古されたクレヨンを渡される子供達。そして、「そのクレヨン使ってもいいけれど、少し待つなら、スタッフが新品のクレヨンを持ってきてくれるよ」と伝えます。

待っていた子供達の1つのグループには、スタッフから新品のクレヨンセットが渡され、もう1つのグループには、「ごめんごめん、クレヨン無かったわ」とスタッフが手ぶらで現れます。そして2回目の「シール」も、待っていた子供達の1つのグループには、「ごめんごめん、あると思ったけどなかった」と手ぶらでスタッフが戻りと、同じように繰り返されます。

その後に「マシュマロ実験」をしてみたところ、クレヨンとシールを約束どおりに渡されたグループの中で、マシュマロを食べてしまったのは、14人中5人だけだったにも関わらず、クレヨンとシールを渡されなかった子のグループでは、14人中13人が、すぐにマシュマロを食べてしまったというのです。

つまり、目の前の楽しみを先のばしにできる「自制心」を培うには、周りの大人との信頼関係が大切ということです。周りの大人が、約束や予定を大人の都合でころころと変えてしまうことが続くのならば、子供は「我慢したのに何も報われなかった」という体験を重ねてしまい、自制心は育まれません。子供との約束を守り、めりはりのある生活リズムを整えてやりたいです。


2. 自制心を促す遊びやゲームをする
「だるまさんが転んだ」のように、オニに見られそうになったら動きを止めたり、「自由に動き回り、『止まれ!』と言われたらすぐに静止する」といった遊びも、楽しく自制心が育まれます。


3.子育てのバランスを調整する
子供のしたい放題にさせ放任し過ぎでも、子供は目先の楽しみに目移りを繰り返し、自らを制する力を育むことができません。

逆に、過干渉で子供のやることなすこと口を出し過ぎても、その子は周りから言われるままに振る舞うのみで、自発的に「自らを制する心」を育てることができません。子供との関わり方のバランスを省み、調整していきましょう。


非認知能力の重要な要素「自制心」を培い、子供達がこれからの社会をたくましく生き抜き人生を謳歌できるようサポートしていきたいですね。


参考資料:
(*1 )James J. Heckman, Seong Hyeok Moon, Rodrigo Pinto, Peter A. Savelyev, Adam Yavitz 'The Rate of Return to the High/Scope Perry Preschool Program' 2009

(*2)Mischel W1, Shoda Y, Rodriguez MI. 'Delay of gratification in children.' 1989

(*3)Celeste Kidd,a, Holly Palmeri,a and Richard N. Aslina,b 'Rational snacking: Young children’s decision-making on the marshmallow task is moderated by beliefs about environmental reliability' 2012
 

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