攻撃的な叱責で生じる3つの反応とは?
強すぎる叱責を繰り返し、部下に無駄な恐怖感を与えていませんか?
しかし、強すぎる叱責を受けると、受け手の心にはある反応が生じてしまいます。それが、「逃げる・闘う・固まる」という3つの反応です。
言い逃れ、反抗は「逃走―闘争反応」によるもの?
これらの反応のうち「逃げる・闘う」は、心理学では「逃走―闘争反応」と呼ばれています。人間を含む動物には、身の危険を感じるような恐怖を感じると、その瞬間、とっさに対象から「逃げるか戦うか」の態勢をとるしくみが備わっています。これが「逃走―闘争反応」です。その証拠に、上司が「ミスをしたのは誰だ!」と激しい口調で叱責した時に、ニコニコと元気に名乗り出る部下はまずいないでしょう。上司の攻撃的な口調に恐れおののき、黙り込んだり、うつむいたりする人が多いのではないでしょうか。あるいは上司の口調に苛立ち、一切聞く耳をもたなくなってしまったりします。これらの行動は、逃走―闘争反応が作動することによって起こります。
さらに、「やったのはお前かぁ?」などと個人攻撃されると、部下にはことさらに逃走-逃走反応が強く出ます。「よく覚えていません……」と言い逃れをしたり、とっさに「多分、〇〇さんだと思います」などとうそをついたり、相手の攻撃に応戦し、逆ギレする人もいるでしょう。
逃走―闘争反応を起こす本人に悪気はありません。動物的な本能によって、自然に反応が出てしまうのです。
逃げる・闘うが不可能なら、「固まる」しかない
とはいえ、上のような逃走―闘争反応がはっきり出る人は、まだまだましかもしれません。逃げることも闘うこともできない場合、その場で「固まる」しかありません。感情をオフにして、棒のように立ちつくしてしまうのです。この固まる反応は、絶対的な権力者から一方的に怒られ続けた子どもによく見られます。怒った大人は、大したことだとは感じてしないかもしれません。しかし、子どもにとっては究極の恐怖です。子どもには権力者の元から逃げだす知恵も手段もなく、圧倒的な力の差を前にして自己主張できる強さももてません。じっと黙ってその場で固まり、感情をオフにして何も感じないようにするしかないのです。
「固まる」反応を身につけた人は、脅威を感じる場面に遭遇するたびに、その反応を繰り返してしまいます。たとえば、教師や上司に強い口調で責められるたびに、頭が真っ白になって何も考えられなくなってしまう。友人や交際相手から嫌がらせや罵声を受けた時、「されるがまま」になってしまう。これらは、「固まる」反応を繰り返してきた人によく見られる例です。
「伝わる叱り方」を実践できていますか?
叱る際には相手に目線を合わせ、要点を端的に伝えること
もちろん、相手を命の危険から守るためには、大声を出して行動を制止することも必要になるでしょう。その際には、とっさに「やめろ!」「あぶない、どけ!」などの通常であれば荒々しい言葉で怒鳴りつける必要もあるかもしれません。逆に危険な場面では、激しい口調で伝えることで「逃走-闘争反応」を意図的に作動させ、命を守る必要があるのです。
しかし、命の危険もないのに大声で叱ったり、長時間の説教を繰り返したりしていると、不必要に「逃げる・闘う・固まる」の反応を引き起こし、叱る側も叱られる側もお互いに無駄なエネルギーと時間ばかりを費やすことになります。
したがって叱る際には、相手に目線を合わせ、注意すべき内容を端的に短く伝えることが重要です。
叱った後には「確認」と「質問」の時間を設ける
また、叱った後には「今言ったこと、わかった?」と質問し、相手がどの程度理解できているかを確認しましょう。「あなたはどう思う?」というように、質問や反論の機会を設けることも大切です。こうして確認や質問の時間を設けると、受け手は叱った内容について考える時間をもつことができ、叱られた言葉の意味を咀嚼しやすくなります。指導・育成する側にとっては、適正に叱ることも大切な役目です。しかし、やり方を間違えると気持ちのすれ違いを生み、信頼関係を失ってしまいます。それだけでなく、相手の心に深いトラウマを負わせてしまうこともあるのです。
したがって、自分が普段からどのような叱り方をしているのかをよく考えること、叱った後には相手の気持ちや理解度を確認し、質問や反論の機会を設けること。こうして、自分自身の叱り方の振り返りをしていくことがとても大切です。