病気かもしれない…強い不安感が続く病気不安症とは
自分は病気なのではないか……。日常生活に支障が出るほど不安が強まる病気不安症。具体的な身体症状がなくても、不安が強まることがこの疾患の問題です
何か特定の病気が気になることは、意外と多くの方に当てはまるかもしれません。たとえば、著名人の病気の報道を見たとき、自分の身近な人にも以前その病気になったことがあったりすると、「自分は大丈夫だろうか……?」と不安になるかもしれません。こうした不安がふと生まれても、通常ならば自分にその病気の徴候や症状が出ていない限り、すぐに忘れてしまうものです。
しかし場合によってはそういった病気に関する不安や懸念がいつまでも頭につきまとい、いてもたってもいられない不安感に囚われ続けることもあります。今回は「病気不安症」を詳しく解説します。
<目次>
- 病気不安症とは……「心気症」の新しい診断名の1つ
- 病気不安症の発症原因は? 心理的要因が関わっている可能性も
- 病気不安症の治し方・克服法……病院受診・検査では解決困難
- 病気不安症の正しい治療法は、精神科での社会精神療法が基本
病気不安症とは……「心気症」の新しい診断名の1つ
まず、病気不安症という病名自体は、国際的な診断マニュアルになっている、通称「DSM-V」に新しい診断名として加わったものです。この「DSM-V」は、米国精神医学会が発行している、その最新版ですが、この新しい版では、これまで「心気症」と呼んでいたものと、それに関連する病態が2つに再編成され、そのうちの一方がこの「病気不安症」で、もう一方は何らかの身体症状をはっきり伴う「身体症状症」です。病気不安症のかつての呼び名であった心気症は、「hypochondriasis」という病名の日本語名です。この「hypochondriasis」と言う言葉は「季肋部痛(きろくぶつう)=みぞおちのあたりの痛み」を指すギリシア語に由来していて、実際、古代ギリシアの医聖ヒポクラテス(紀元前460年ごろ~紀元前370年ごろ)の時代からこの病気は認識されていました。それは、その頃も、その患者さんの多くが肋骨の下の辺りに違和感を訴えて、自分は何か悪い病気にかかったのではないかと心配していたことが、この病気の語源です。
病気不安症は簡単に言えば、自分は何か悪い病気になったのではないか……という不安が日常生活に支障が出るほど強まった状態です。これは、かつての心気症でも、その特徴的な問題ですが、病気不安症の特徴としては、心気症の語源になった季肋部痛のような、悪く解釈してしまう身体症状には悩まされていません。あるいはたとえ何かしらの症状があったとしても不安のレベルに全く相応しないレベルです。
病気不安症の発症原因は? 心理的要因が関わっている可能性も
病気不安症の原因自体は不明ですが、病気への不安が通常のレベルを超えて高まっていく背景には、「その病気になることが、本人には何を意味しているか」といった、心理的な要素も、その個人の状況によっては、かなり影響している可能性があります。たとえばですが、実際に病気になれば、周りは当人に何かと気遣いするもの。もし周りからの、この反応を本人が内心欲していた場合、その病気になりたい願望を自覚なく持っていたことにもなり、そうした「疾病利得」は病気不安症の発症要因の1つとして、よく言われます。
また、病気になることに対して、それは何かの罰だ…と考えてしまう方もおられます。たとえば、自分は罰を受けるような何かをしたという罪悪感を持っていた場合(それには、かなり不合理性を伴いやすいですが)、自分は罰を受けるべきだ、あるいは自分を罰したいといった心理があらわれ、それがある特定の病気になる予感や不安を生み出す可能性も、この疾患の心理的要因として、その当人の状況によっては、かなり説得力のある説明になります。
病気不安症への対処法……不安に思う病気のための病院受診・検査では、なかなか解決困難
病気かもしれないという不安から解放されるためには、通常ならば、その病気でないことが証明されれば、それが一番です。それゆえ病気不安症の方が、不安に思う、その病気のために、病院受診と検査を繰り返すことは少なくありません。しかし、その一方で、病院受診を全く希望されない方もいらっしゃいます。その理由として、病院で本当にその病気であると診断されるのが怖い…といった気持ちが強く働く場合もあります。また、今の時代は、多くの人が日常的にインターネットを使用する時代です。それゆえ、病気に対する不安が過度に強まれば、その病気に関するウェブサイトの閲覧に、過剰に時間をかけてしまい、日常生活に何か支障をきたす可能性もあります。
病気不安症のこうした問題に対しては、実は精神科的な対処や治療が一番効果的です。
病気不安症の治療は、精神科での社会精神療法が基本的
病気不安症は、病気への強い不安、それに関連する精神症状、そして日常生活に現われている問題にも充分対処する必要があります。病気不安症の可能性が明らかな場合、精神科(神経科)を受診されて、必要な治療を始めることが、問題を解決する第1の道になるでしょう。しかしここで難しい点があります。病気不安症の方は、場合によっては、自分が抱える、その不安が精神科的なものだという事実をなかなか受け入れません。そうした場合、ご本人にとって、その病気の不安をなくすためには、その病気のための検査を受けて、その心配がないことが分かれば、それが1番でしょう。しかし実際は、そうした検査で身体に問題がないことをはっきり示されても、不安から解放されるのは通常一時的です。しばらくするとまた不安が戻って検査を受ける……という繰り返しになりがちです。つまり、何度検査を受けても、病気不安症の根本的な解決にはつながらない、ということです。
そうした事態を好転させるためには、まずこの問題が精神科領域の問題だという、認識が必要です。そして、病気不安症の治療に関しては、認知行動療法などの、いわゆる社会精神療法のセッションが基本的な治療スタイルです。
その具体的な内容は個々人の病状によりますが、その大まかなイメージとしては、その病気に対する不安を増幅させる、当人の思考や行動の問題に認知行動療法などで対処していくといった形です。この認知行動療法は広義には社会精神療法と呼ばれる治療カテゴリーの1タイプです。そして、社会精神療法は、必ずしも1対1のセッションだけとは限らず、類似の病態の患者さんが構成するグループセッションになる場合もあります。
以上、今回は病気不安症を詳しく解説しました。この疾患は「ある特定の病気に対する不安が非常に強まるもの」ですが、程度の差を除けば、誰にでも病気の不安を感じることは時にあるものです。もしそのような気持ちがわいた場合は、それが場合によっては、必ずしも身体の不調を反映するのではなく、実は心の不調を反映している可能性があることにも、どうかご注意ください。
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