子どもへの接し方のヒントになる「アドラー心理学」
「なぜあの子は言うことを聞かないのだろう」…そんな思いに気付いたら、アドラー心理学にヒントを求めてみませんか?
アドラー心理学とは、オーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーが創設した心理学です。彼の弟子たちがアドラー心理学の理論をさらに発展させ、現在では教育やビジネスを始めとするさまざまな分野に取り入れられています。日本では、2013年に出版されベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)により、世の中に広く知られるようになりました。
反抗・非行にも必ず「目的」がある
アドラー心理学の中核ともいえる理論の一つに、「目的論」があります。人間の行動には、必ず「目的」があるという考え方です。一見無意味で非合理的に見える子どもの行動にも、必ず「目的」があると考えられています。たとえば、注意をしても遅刻を繰り返す、叱っても一向に言うことを聞かない……。こうした子どもの不適切な行動にも、やはり何らかの目的があるものと考えます。そうした不適切な行動の「目的」を読み解き、その子が自ら適切な行動に向かえるようにかかわることが、アドラー心理学の中心的なテーマの一つでもあります。
では、子どもが見せる不適切な行動には、どのような「目的」があるのでしょう。アドラー心理学では、次の5つが挙げられています。
1. 「ほめられる」ために行動する
まず1つ目の目的は、「ほめられよう」とすること。子どもは大人にほめてもらえることが嬉しくて、賞賛を求めて、勉強や運動、大人の言いつけに従うことをさらに頑張るものです。これは一見好ましいことに思えるかもしれません。しかし、子どもにとっては「ほめられるために頑張ること」だけが行動の目的になってしまい、自発的な興味や関心にもとづく行動が増えているわけではない場合があります。したがって、ほめられることを意識する子は、ほめられない行動には無関心になったり、ほめられることだけを求めて行動する可能性があります。
2. 「注目される」ために行動する
頑張ってもたいしてほめられなくなったり、自分よりも良い成果を出してほめられる子がいると、ほめられることに期待を持てなくなってしまいます。すると、他の目立つ行動で大人の気を引こうとします。これが2つ目の目的である「注目を集めよう」とすることです。たとえば、静かにするべき場所で騒いだり、いたずらを繰り返す……。こうすると大人に注目され、叱られるでしょう。たとえ叱られても、自分に目を向けてもらえていると実感できる方が、無視されるより安心できるのです。したがって、叱られても不適切な行動を続けてしまいます。
3. 「権力」で張り合うために行動する
しかし、こうした行動が続くと大人は手を焼き、繰り返し怒るようになるでしょう。怒鳴ったり、何時間も説教をしたり、欠点を何度も指摘したり、場合によっては暴力を使う人もいるかもしれません。このように「権力」で子どもを抑えつけると、子どもはその権力に対抗しようとします。注意を素直に聞かず、反抗して大人に張り合おうとします。これが3つ目の目的である「権力闘争」です。
4. 「復讐」のために行動する
子どもが反抗を繰り返すと、大人はさらに権力を使ってねじ伏せようとするかもしれません。すると、子どもは「権力」では大人にはかなわないことを実感し、4つ目の「復讐」という目的を選びます。陰で悪いことをして親に恥をかかせたり、教師の手を煩わせたりします。非行や犯罪に手を染める子どもは、こうして権力を誇示する大人に仕返しをしていることが多いものと考えられます。5. 「無気力・無能力を示す」ために行動する
そして、これらの行動に対してもさらに権力でねじふせようすると、子どもは最終的には「無気力・無能力を示す」という目的を選びます。部屋の中に閉じこもる、学校に行っても学校活動には参加しない、進路も選ばない。こうした行動によって、大人を失望させます。このようにアドラー心理学では、子どもの不適切な行動には5つの目的があるとされています。
大人の対応一つで、子どもは適切な行動に向かう
子どもの行動に対して大人がどんな行動を返すと、子どもはよりよく変わるの?
まず、1つ目の「ほめられたい子」に対しては、結果だけを見て賞賛や評価をするのではなく、その子自身が興味をもって行っていることに関心を持ち、頑張っている過程に目を向けてあげましょう。また、自己のためだけではなく、周囲のために頑張っている姿に対して感謝を伝えることも大切です。
2つ目の「注目を集めたい子」に対しては、いたずらや悪ふざけなどの目立った不適切な行動にばかり注目して叱るのではなく、周囲のために頑張ったり、ルールを守るなどの適切な行動をしたときに「よくやっているね」「助かるよ」といったポジティブな言葉がけを行っていくとよいでしょう。
3つ目の「権力闘争」の目的で大人に対して反抗を繰り返す子どもに対しては、その反抗に対して大人がムキになったり、強引に従わせようとするのではなく、一歩引いてみることです。そして、反抗せずにはいられない子どもの思いを認め、冷静になってから話し合っていきましょう。
こじれ始めたら、第三者の協力が必要になることも
4つ目の「復讐」や5つ目の「無気力・無能力を示す」の目的で不適切な行動を繰り返す子どもに対しては、もはや大人と子どもの一対一の関係の中だけでは、解決できないかもしれません。子どもの心の問題の専門家に相談し、第三者に入ってもらいながら解決を考えていくことも必要であるかと思われます。いずれにしても、これらの段階に入ると子どもの行動が適切なものに変わるまでには、時間がかかることが少なくありません。また、子どもに対する対応の基本として、アドラー心理学で非常に重視されていることが「勇気づけ」です。人間が自分の人生を築き、社会の中で生きていくということは、とても勇気がいることです。人はみな、それらの課題に取り組むために、毎日勇気を振り絞って頑張っています。その「勇気」に注目し、本人の勇気を支えるようなかかわり方をしていくことが必要になるものと考えられます。
適切な勇気づけについては、「ほめすぎは逆効果?アドラー流・よりよい声かけのコツ」で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。