凰稀かなめさんの相手役に
トップ・コンビお披露目公演は『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』。ショートの鬘もよく似合い、ラインハルトの秘書官、ヒルダを堂々と好演。フィナーレのデュエットダンスも可愛らしく、可憐なトップ娘役の誕生となりました。『モンテ・クリスト伯』のメルセデスで、我が子を守る母の強さを熱演。『うたかたの恋』では、純真無垢な少女マリーの一途な愛で、観客を泣かせました。
優しく気品あふれる『風と共に去りぬ』のメラニーは実咲さんにぴったり。たおやかな存在が印象的でした。『ロバート・キャパ 魂の記録』では、戦場カメラマン、ロバート・キャパを支える知的で勇敢な女性、ゲルタ・タローを好演し、演技の幅を広げました。
宝塚歌劇団100周年の2014年には、宝塚の代表作、『ベルサイユのばら』に続けて二度出演し、革命家ベルナールの妻・ロザリーと、フランス王妃マリー・アントワネットを演じました。清楚なロザリーに対し、気高いアントワネット。王妃としての、母としての想いを涙ながらに吐露する場面、続く断頭台へと向かう凛とした姿は絶品でした。
凰稀かなめさんの退団公演『白夜の誓い―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―』では、ソフィア・マグダレーナ・ア・ダンマルクを。グスタフIII世との絡みが少ない中、王妃としての苦悩や愛情を表現しました。
朝夏まなとさんの相手役に
(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ
実咲さんにとって朝夏さんは、花組時代を共に過ごし、バウホール公演初ヒロインの相手役であり、花組から共に宙組にやってきた朋友。
その二人のお披露目は、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの代表作『TOP HAT』。粋でお洒落なロマンティックコメディーは、お互いを誰よりも知っている二人にぴったり。「Cheek to Cheek」のエレガントなデュエットダンスをはじめ、息の合った舞台は、客席を大いに沸かせました。
朝夏&実咲コンビの本公演お披露目は『王家に捧ぐ歌』。実咲さんは、敵国の将軍ラダメスを愛してしまったアイーダを熱演しました。初演では男役(安蘭けいさん)が務めた、出ずっぱりで歌い続ける役ですが、力強い歌で精悍な王女を作り上げました。黒塗りもエキゾチックで魅力的でした。
時代に翻弄されるヒロインが多い中、等身大の女の子が可愛かった『メランコリック・ジゴロ』のフェリシア。自然体で、生き生きとした演技力が光りました。
シェイクスピアの妻、アンを演じた『Shakespeare ~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~』では、妻になってからの揺れ動く心を繊細に表現しました。
そして、自身が「演じてみたい」と願っていた『エリザベート―愛と死の輪舞―』のエリザベート。溌剌とした少女の頃から、孤独に覆われた最期の時まで、エリザベートの生涯を巧みに描きました。名曲「私だけに」のラストの高音の安定感は、歴代エリザベートの中でも断トツ。圧倒的な歌唱力が「歌える娘役ってやっぱりいい!」と改めて思わせてくれました。
宝塚のトップ・オブ・トップ、専科の轟 悠さんの胸を借り、上質な芝居を見せてくれたジャン・コクトー原作の『双頭の鷲』。エリザベートとはまた違う、耽美で狂気な世界に生きる孤高の王妃を、見事に演じました。
退団公演は、浅田次郎氏原作『王妃の館』。色々な悲劇の王妃を演じてきた実咲凜音さんの最後の役は、なんと日本人、ツアーコンダクターの桜井玲子。『カナリア』や『メランコリック・ジゴロ』を思い出させる、実咲さんの丁寧で誠実な芝居が、コメディーの美味しさを引き立てました。最高の笑顔で幕を閉じる、こんなサヨナラ公演もいい…。そう思える出色の出来でした。