2009年4月26日——星組トップスター・安蘭けいさん、娘役トップスター・遠野あすかさんが、『My dear New Orleans』-愛する我が街-/レビューファンタスティーク『ア ビヤント』の千秋楽(東京宝塚劇場)にて宝塚歌劇団を退団しました。

また同時に、朝峰ひかりさん(1990年入団)、紫蘭ますみさん(1992年入団)、立樹 遥さん(1993年入団)、涼乃かつきさん(1996年入団)、星風エレナさん(1996年入団)、和 涼華さん(2000年入団)、一輝 慎さん(2000年入団)、麻尋しゅんさん(2002年入団)も退団しました。

星組を支えるベテラン陣と、これからを期待していた新進スターらの退団も残念でたまりません。次の公演の幕が開いた時、そこに居て当然の存在のないことに、私たちは淋しさや違和感を感じることでしょう。
中でも、愛称・しいちゃん…こと立樹 遥さん。新人公演、バウホール公演でも数々の主演をし、『ベルサイユのばら』のアンドレ役をはじめ、星組三番手として活躍しました。
陽だまりのような温かさを感じさせてくれる、存在感と包容力のある大きな男役でした。


安蘭けい

安蘭けいメモリアルブック
(C)阪急コミュニケーションズ

愛称・とうこ。
安蘭けいさんは、1991年、月組『ベルサイユのばら』で初舞台を踏みました。

同期生には、元花組トップスター・春野寿美礼さん、元雪組トップスター・朝海ひかるさん、元宙組トップ娘役・花總まりさん、元新専科・成瀬こうきさんらが。77期生

1992年、雪組に配属され、2000年星組に組替え。2006年『ヘイズコード』より、湖月わたるさんの後任として星組トップスターとなりました。

主な舞台歴

雪組時代(1992年~2000年)

1992年 『忠臣蔵』新公/堀部安兵衛(本役・轟 悠)
1995年 『JFK』新公/ジョン・F・ケネディ(本役・一路真輝)*新公初主役
1996年 『エリザベート』ルドルフ少年  新公/トート(本役・一路真輝)
1998年 『ICARUS』イカロス *バウ初主演
  『凍てついた明日』ジェレミー・メスヴィン
1999年 『ノバ・ボサ・ノバ』マール、ブリーザ

星組時代(2000年~2006年)

2000年 『花吹雪恋吹雪』石川五右衛門
2001年 『ベルサイユのばら2001~オスカルとアンドレ編~』フェルゼン
  『風と共に去りぬ』アシュレ
2002年 『プラハの春』ヤン・パラフ
  第2回中国ツアー公演
  『ガラスの風景』フランコ・ミラー
2003年 『雨に唄えば』ドン・ロックウッド
  『王家に捧ぐ歌』アイーダ
  『厳流』佐々木小次郎
2004年 『ファントム』フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵
2005年 『龍星』龍星
2006年 韓国公演
  『ベルサイユのばら』アンドレ、オスカル
  『コパカバーナ』リコ・カステッリ
  『愛するには短すぎる』アンソニー・ランドルフ

星組トップ時代(2006年~2009年)

2006年 『ヘイズコード』レイモンド *トップお披露目
2007年 『さくら』『シークレットハンター』 *本公演トップお披露目
  『エル・アルコン—鷹—』ティリアン・パーシモン
2008年 『赤と黒』ジュリアン・ソレル
  『THE SCARLET PIMPERNEL』パーシー・ブレイクニー
  『ベルサイユのばら』ベルナール
2009年 『My dear New Orleans』ジョイ・ビー


宝塚音楽学校を首席で卒業し、研5で堂々の新人公演初主演。
切れ長の大きな瞳と美しいルックス。華やかさ。そして実力。誰もが未来のトップスターを想像したに違いありません。

中でも歌唱力は抜群。声量や美声に頼ることなく、歌でドラマを作ることをこの時期から見せていました。
『エリザベート』新公のトート役、『レ・シェルバン』(1997年)の「EL CUMBANCHERO」、『ICARUS』の「失くした翼」、『凍てついた明日』の「Blues Requiem」等、語り草となっています。

やがて、成瀬こうきさん、朝海ひかるさんが雪組に組替えとなり『ノバ・ボサ・ノバ』の役替りをはじめ同期3名トリオで使われていきますが、今度は安蘭さん自身が星組へと組替え。

安蘭さんを大きく変えたのは、組替えと、組替え後初の主演作品『花吹雪恋吹雪』の石川五右衛門でしょうか。爽やかな青年が“男”に成長しました。

『雨に唄えば』
(C)宝塚クリエイティブアーツ

その後の安蘭けいは、野性的で情熱的な大人の男役。渋さと色気のある男役。黒い役、悪役、ヒゲも似合うスター。
それでいて、貴公子や白も似合う、女役も魅力的という変化自在な人。
サービス精神旺盛。ユーモア・センスは抜群でコメディーはお得意。

時には「二枚目スターなのにそこまでやるの?」と思うほどの徹底した役作り。舞台上では「安蘭けい」ではなく、その役を生きてきたからなのでしょう。観るたびに全く違う「安蘭けい」に出会える楽しみがありました。


安蘭けいの名をさらに大きく飛躍させた3役は、やはり歌の比重の多い役でした。
まずは『雨に唄えば』のドン。
“本人が何より楽しんで演じている”と感じられたステージに、痛快無比なる舞台観劇の醍醐味を味わいました。円熟した演技と堂々とした貫禄に“彼女はまだトップではないのだった…”と気づき驚いたものでした。


次に男役でありながらヒロインを演じた『王家に捧ぐ歌』のアイーダ。
表現をしていると言うより、想ったままがすべて音となり流れ出てきたかのような素直で強く深い歌に心が震えました。
美しくて瑞々しくてチャーミング。上品な生っぽさ。たまらなく魅力的で可愛い女性、アイーダでした。
『THE SCARLET PIMPERNEL』
(C)宝塚クリエイティブアーツ

そして『THE SCARLET PIMPERNEL』パーシー・ブレイクニー 。
どれだけの拍手を返せば、この感動に値するのか……? 豪快で大胆で圧巻で、観る者を爽快な気分にさせてくれた至上のエンターテインメント。このパーシーが、安蘭けいの1番の当り役でしょう。

また宝塚歌劇の十八番『ベルサイユのばら』では、男役の主要キャストであるオスカル、アンドレ、フェルゼンをすべて演じました。この三役を本公演で演じたのは今のところ安蘭さんだけです。


安蘭けいならでは…の作品に恵まれ、安蘭けいだからこそ…の評価を受けてきた安蘭さんは、数々の賞も受賞しています。

2004年『雨に唄えば』と『王家に捧ぐ歌』の対照的な二役での優れた演技が評価され、第25回松尾芸能賞新人賞を受賞。なお現役生徒がこの賞を受賞したのは安蘭けいさんが初めてです。

団体としては、2003年、ヒロインを演じた『王家に捧ぐ歌』が「芸術祭優秀賞」を受賞。2004年、二番手として出演した『ロマンチカ宝塚’04』が同じく「芸術祭優秀賞」を受賞。2009年、主演した『THE SCARLET PIMPERNEL』が菊田一夫演劇賞を受賞。

また、ミュージカル専門誌「ミュージカル」における2008年ミュージカルBEST10の第一位に『THE SCARLET PIMPERNEL』が選ばれ、ミュージカル女優BEST10の第一位に安蘭けいが選ばれました。


「いつでもトップスターになれる…」そう思われるだけの実力もスター性も持っていた人なのに、その時期が来るのは意外にも遅かった安蘭さん。
しかし、一本道ではなく回り道をしたからこそ、男役としての道も太くなり、そこまでの軌跡が長かったからこそ、感動の奇跡も生まれました。

安蘭けい。絶世の男役、最上のトップスターでした。


遠野あすか

『ヘイズコード』
(C)宝塚クリエイティブアーツ
愛称・あすか。
遠野あすかさんは、1998年『エクスカリバー』『シトラスの風』で初舞台を踏みました。

同期生には、雪組トップ娘役・白羽ゆりさん、花組・未涼亜希さん、雪組・音月 桂さん、宙組・北翔海莉さんらが。84期生

1999年、宙組に配属され、2006年専科に異動、2006年星組に組替え。『ヘイズコード』より、雪組に組替えとなった白羽ゆりさんの後任として星組娘役トップスターとなりました。

主な舞台歴

宙組時代(1999年~2001年)

1999年 1999年『Crossroad』ヘレナ
2000年 『砂漠の黒薔薇』新公/マリヤーナ姫(本役・花總まり)*新公初ヒロイン
  『FREEDOM』ジョーシー *バウ初ヒロイン
2001年 『ベルサイユのばら2001~フェルゼンとマリー・アントワネット編~』小公女 新公/ロザリー(本役・陵あきの)

花組時代(2001年~2006年)

2002年 『琥珀色の雨にぬれて』フランソワーズ 新公/シャロン(本役・大鳥れい)
  『Cinderella』シンデレラ 新宿コマ劇場外部出演
  『エリザベート』ヴィンディッシュ嬢 新公/エリザベート(本役・大鳥れい)
2003年 『不滅の棘』クリスティーナ
2004年 『NAKED CITY』デイジー・ミラー
  『La Esperanza』フラスキータ 新公/ミルバ(本役・ふづき美世)
2005年 『マラケシュ・紅の墓標』イヴェット
  『Ernest in Love』グウェンドレン
  『落陽のパレルモ』ジュディッタ・フェリ

専科時代(2006年)

2006年 『コパカバーナ』コンチータ(星組・宙組)

星組時代(2006年~2009年)

2006年 『ヘイズコード』リビィ *トップお披露目
2007年 『さくら』『シークレットハンター』 *本公演トップお披露目
  『エル・アルコン—鷹—』ギルダ・ラバンヌ
2008年 『赤と黒』レナール夫人
  『THE SCARLET PIMPERNEL』マルグリット・サン・ジュスト
  『ベルサイユのばら』ロザリー
2009年 『My dear New Orleans』ルイーズ・デュアン(ルル)


三拍子揃った娘役。可憐でキュート。何とも可愛い笑顔。どんな衣装も似合うきれいなプロポーション。
研2でシアター・ドラマシティ公演『Crossroad』で主演・和央ようかさんの相手役を、研3で新公ヒロインを与えられました。

組替えで花組に移ってからも、本公演では二番手の役を、そして新公ではヒロインを。
2002年、2003年には、元トップスターたちが多数出演した『Cinderella』に外部出演し、ヒロインのシンデレラを演じました。

1番の武器は歌。特に高音の美しさは格別で『エリザベート』のエリザベートは、新公や代役とは思えないほどの出来栄えでした。
『THE SCARLET PIMPERNEL』の「あなたを見つめると」や最後のショー『ア ビヤント』でのエトワールは、劇場中が揺れるような響きに溢れていました。


遠野あすかスペシャルブック LA DONNA
(C)阪急コミュニケーションズ

遠野さんも安蘭さんと同じく、早くからトップになる日を期待されていたにもかかわらず、二番手時代の長かった人でした。
でもこの二番手時代の様々な役は娘役としては比重の大きな役ばかりで、舞台を支えると共に、それが彼女のその後につながったのでしょう。

令嬢。王女様。女海賊。人妻。女優。
その度に声も化粧も全く違い、同じ人とは思えない引き出しの多さに驚きます。
特に“宝塚の娘役”っぽくない役……『マラケシュ・紅の墓標』のイヴェットや『コパカバーナ』のコンチータは、助演女優賞モノでした。

大人のようで少女のような。繊細なようで大胆。強いようで儚い。何ともいい表情をする、とても不思議な魅力を持った舞台人——女優——でした。


安蘭けい&遠野あすか

抜群の歌唱力の二人です。聴いていてまず気持ちがいい。そして感動。『THE SCARLET PIMPERNEL』など、この二人でなければ誕生しなかったのでは? 

そして熟成された豊かな香りと“酸いも甘いも噛み分けた”風の二人ならではの大人の雰囲気。二人の間に流れる適度な緊張感と距離感と信頼感。
素晴らしい舞台を創り上げ、後進を育てました。

こんな二人だからこそ、この二人で観てみたい作品はまだまだたくさんありました。それが残念です。

尚、次期星組トップコンビは、星組の柚希礼音さんと夢咲ねねさんです。


安蘭さんと遠野さんのこの先は……これほど力のある二人です。きっとまた、女優として私たちの前に現れてくれることでしょう。なので「またね!」。

宝塚歌劇の宝と道を作った偉大な二人、安蘭けいと遠野あすかを、私たちは決して忘れません。

とうこ、あすか……
お疲れ様。そしてありがとう。


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