『エルコスの祈り』
3月18日~4月4日=自由劇場『エルコスの祈り』
今から50年後の世界、徹底的な管理教育で子供の個性を奪う“ユートピア学園”に、経費削減のためロボットが送り込まれる。生徒一人一人の個性を理解し、深い愛情を注ごうとするロボットに、子供たちは心を開き始めるが、人間の教師たちはロボットに仕事を奪われると思い、悪だくみを始める……。
近未来の設定とは言っても、たぶんに現代の画一的な教育を思い起こさせ、劇団四季のファミリー・ミュージカルの中でも大人たちに“考えさせる”テーマを持つ『エルコスの祈り』。管理教育の徹底ぶりが、加藤敬二さんのスピーディーな振付を一糸乱れず踊って見せる俳優たちのダンスによって十二分に表現され、後半はエルコスを巡る人間たちの葛藤ドラマとして観る者を引き込みます。15~16年の年末年始に自由劇場で上演、全国公演を経て東京に戻ってきたカンパニーの、さらに練り上げられたパフォーマンスが期待できそうです。
【観劇ミニ・レポート】
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季
物語は非人間的ともいえる徹底した管理教育のもとにある子供たちが、人間ではないロボット=エルコスによって人間性を取り戻す、という皮肉に満ちたものですが、このエルコスに動機を与えるのが、開発者であるストーン博士の“祈り”。この日演じた深水彰彦さんの歌唱には慈愛が滲み、鈴木邦彦さん作曲の憂いに満ちたメロディも手伝って心に響きます。そしてそんな博士の思いを一身に受けて生まれたエルコス役、古田しおりさんは“感情を持たない”ロボットでありながら、その行動は優しさに溢れているという難しい役どころを、安定の歌声ときれいな所作で好演。エルコスが悪者たちの悪だくみによって……という終盤、思わず目頭をおさえる観客もあちこちにお見受けしました。
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季
ミュージカル・スペシャルトークショー『大劇場/小劇場ミュージカル それぞれの魅力』
3月26日18時~19時半=GOOD DESIGN Marunouchi
『第二回東京ミュージカルフェス』
日本におけるミュージカル文化の普及を目指し、俳優(『エリザベート』等)・ミュージカル映画監督の角川裕明さんらMusical Of Japanが昨年、立ち上げた「東京ミュージカルフェス」。“ミュージカル”にちなんで3月26日に行われた昨年に続き、第二回の今年は5日間にわたり、都内各地でイベントを開催します。
そのラスト・イベントとして行われるのが、ミュージカル俳優と作曲家によるトークショー。観客を別次元に誘う大劇場ミュージカルと、日本で少しずつ増えてきている小劇場ミュージカルそれぞれの魅力を、双方で活躍する木村花代さん・上野聖太さん(お二人ともこの日は『キューティ・ブロンド』に出演中)と若手作曲家・音楽監督の小澤時史さんのトークで解き明かします。小ぶりの会場ですが最後には歌唱の披露も予定され、ミュージカルの楽しさ奥深さ、そして出演者たちの魅力をたっぷり味わえる、文字通り“スペシャル”なトークショーとなりそうです。(司会進行は松島まり乃が担当)
【イベント・レポート】
「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan
まずは『キューティ~』こぼれ話コーナーということで、ワークアウトの女王役・木村花代さんの壮絶な役作りから、今回の回り舞台(業界用語で“盆”)はハイテクの時代にも関わらずスタッフが手動で行っており、日々、小澤さん率いるバンドの演奏に“完璧に”合わせて動かされているという秘話まで、貴重なエピソードが続々。続いての木村花代さん・上野聖太さんコーナーでは、ミュージカル界に入ったきっかけから今に至るまでを『スタジオパークからこんにちは』風にインタビュー。駆け足のトークながら、舞台に立つという夢のために地道な努力を続けた木村さんの強い意志、映像志望から『レ・ミゼラブル』に衝撃を受けてミュージカルを志した上野さんの純粋な舞台愛が伺えました。
「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。左は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』プロデューサーの土屋友紀子さん。写真提供:Musical Of Japan
「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan
「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan
予定時間を大幅に超過して終了したイベント。作り手から俳優までが一堂に会し、思いを語るトークショーは非常に希少であり、最後にはスペシャル・ライブも堪能できたことで、来場者の皆さんは一様に笑顔で帰って行かれました。これを弾みに、ミュージカル文化がさらに興隆してゆくよう、企画進行を担当した筆者としても願ってやみません。
*次頁で『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』をご紹介します!