ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2017年3~4月の注目!ミュージカル(2ページ目)

うららかな気候にふさわしい、ハッピーなミュージカルが続々登場するこの季節。今回は『キューティ・ブロンド』『王家の紋章』をはじめ、春の話題作をご紹介します。随時追加掲載する観劇レポートもお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


エルコスの祈り

3月18日~4月4日=自由劇場
『エルコスの祈り』

『エルコスの祈り』

【見どころ】
今から50年後の世界、徹底的な管理教育で子供の個性を奪う“ユートピア学園”に、経費削減のためロボットが送り込まれる。生徒一人一人の個性を理解し、深い愛情を注ごうとするロボットに、子供たちは心を開き始めるが、人間の教師たちはロボットに仕事を奪われると思い、悪だくみを始める……。

近未来の設定とは言っても、たぶんに現代の画一的な教育を思い起こさせ、劇団四季のファミリー・ミュージカルの中でも大人たちに“考えさせる”テーマを持つ『エルコスの祈り』。管理教育の徹底ぶりが、加藤敬二さんのスピーディーな振付を一糸乱れず踊って見せる俳優たちのダンスによって十二分に表現され、後半はエルコスを巡る人間たちの葛藤ドラマとして観る者を引き込みます。15~16年の年末年始に自由劇場で上演、全国公演を経て東京に戻ってきたカンパニーの、さらに練り上げられたパフォーマンスが期待できそうです。

【観劇ミニ・レポート】
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

15年の暮れに自由劇場で開幕以来、全国で巡演を続け、また自由劇場に帰ってきた“エルコス”。1年あまりの旅を経て、シリアスな中にもコミカルな要素を多くまぶした舞台はさらにメリハリを強め、生徒たちが珍妙な“国民体操”をさせられるシーンなどでは、客席からリラックスした笑いが起こっています。

物語は非人間的ともいえる徹底した管理教育のもとにある子供たちが、人間ではないロボット=エルコスによって人間性を取り戻す、という皮肉に満ちたものですが、このエルコスに動機を与えるのが、開発者であるストーン博士の“祈り”。この日演じた深水彰彦さんの歌唱には慈愛が滲み、鈴木邦彦さん作曲の憂いに満ちたメロディも手伝って心に響きます。そしてそんな博士の思いを一身に受けて生まれたエルコス役、古田しおりさんは“感情を持たない”ロボットでありながら、その行動は優しさに溢れているという難しい役どころを、安定の歌声ときれいな所作で好演。エルコスが悪者たちの悪だくみによって……という終盤、思わず目頭をおさえる観客もあちこちにお見受けしました。
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

なお、筆者は今回、6歳の子供と鑑賞。小学校入学直前のタイミングに本作を観て「自分が行く学校もユートピア学園みたいなところ?!」と怖がるかな、と親の側はちょっぴり心配でしたが、鑑賞後、子供にはポジティブな印象が残ったらしく、「エルコスは私の心の中にいるんだよね」と頷いていました。ただ、白塗りの悪役先生たちは最後まで怖かったらしく、終演後ロビーでの“お見送り”では、彼らがいるゾーンを避けて通行……。なお、公演プログラムには現在、日本で活躍中の様々なロボットや、ロボットに関する児童文学を紹介した読み物ページも。子供は「これ、科学博物館で触ったことある!」などと写真を指差し、帰路にも“エルコス”の世界を楽しんでいました。

ミュージカル・スペシャルトークショー『大劇場/小劇場ミュージカル それぞれの魅力

3月26日18時~19時半=GOOD DESIGN Marunouchi 

『第二回東京ミュージカルフェス』

『第二回東京ミュージカルフェス』

【見どころ】
日本におけるミュージカル文化の普及を目指し、俳優(『エリザベート』等)・ミュージカル映画監督の角川裕明さんらMusical Of Japanが昨年、立ち上げた「東京ミュージカルフェス」。“ミュージカル”にちなんで3月26日に行われた昨年に続き、第二回の今年は5日間にわたり、都内各地でイベントを開催します。

そのラスト・イベントとして行われるのが、ミュージカル俳優と作曲家によるトークショー。観客を別次元に誘う大劇場ミュージカルと、日本で少しずつ増えてきている小劇場ミュージカルそれぞれの魅力を、双方で活躍する木村花代さん・上野聖太さん(お二人ともこの日は『キューティ・ブロンド』に出演中)と若手作曲家・音楽監督の小澤時史さんのトークで解き明かします。小ぶりの会場ですが最後には歌唱の披露も予定され、ミュージカルの楽しさ奥深さ、そして出演者たちの魅力をたっぷり味わえる、文字通り“スペシャル”なトークショーとなりそうです。(司会進行は松島まり乃が担当)

【イベント・レポート】
「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

生憎の雨天にも関わらず、立ち見の出る盛況となった当日。当初、登壇者は俳優の木村花代さん、上野聖太さんと作曲家・小澤時史さんの3名の予定でしたが、直前に小劇場ミュージカルの代表格である劇団Tip Tapプロデューサー柴田麻衣子さん、その座付き作家・演出家で『キューティ・ブロンド』演出家でもある上田一豪さんの参加も決まり、さらに充実のトークに、と期待が高まります。

まずは『キューティ~』こぼれ話コーナーということで、ワークアウトの女王役・木村花代さんの壮絶な役作りから、今回の回り舞台(業界用語で“盆”)はハイテクの時代にも関わらずスタッフが手動で行っており、日々、小澤さん率いるバンドの演奏に“完璧に”合わせて動かされているという秘話まで、貴重なエピソードが続々。続いての木村花代さん・上野聖太さんコーナーでは、ミュージカル界に入ったきっかけから今に至るまでを『スタジオパークからこんにちは』風にインタビュー。駆け足のトークながら、舞台に立つという夢のために地道な努力を続けた木村さんの強い意志、映像志望から『レ・ミゼラブル』に衝撃を受けてミュージカルを志した上野さんの純粋な舞台愛が伺えました。

「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。左は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』プロデューサーの土屋友紀子さん。写真提供:Musical Of Japan

次に登壇した小澤時史さんは、もともと作曲家を目指していたわけではなく、ミュージカルもそれほど好きではなかった、との衝撃発言で笑わせた後、影響を受けた作曲家としてトム・キットやジェイソン・ロバート・ブラウンを挙げ、作曲を手掛けた5月の新作『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に話題が移ると、コーラスに定評のある劇団イッツフォーリーズだが今回は敢えてソロの魅力を引き出す楽曲を工夫した、と話した後、実際にそのテーマ曲を生演奏。しっとりとした曲調に、場内はしばし聴き入りました。

「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

そしてお待ちかねの座談会では木村花代さん、上野聖太さん、上田一豪さん、柴田麻衣子さん、小澤時史さんがずらりと並び、まずは柴田さんが劇団Tip Tapの沿革を説明(大学のミュージカルサークルとして生まれ、現在は主に上田一豪さん作・演出のミュージカルをプロデュース)。上田さんが書く台本にわかりにくい部分があっても、小劇場作品ならではの強みとして、(誰が見てもわかるよう作らなければならない大劇場公演のように)修正をお願いするわけではなく、敢えてその部分を生かそうとしている、キャスティングに関しても単に優れた人を配するのではなく、その俳優さんのキャリアにとってプラスになるかどうか鑑みてお願いしている、とのこだわりも語られると、上田さんが「(大劇場で失敗すると大勢に影響が出るけど)小劇場なら僕らが(赤字で)困るだけで済みますから。実際そういう時期もあったけど」と赤裸々トークで笑わせます。
「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

いっぽう小澤さんは作曲において敢えてつらい(歌いにくい)メロディを試みているそう。帝劇のような大劇場だけでなく、Tip Tapのような小劇場公演にも積極的に出演している木村さん、上野さんからは、華やかさが魅力の大劇場に対して、小劇場では繊細な表現を突き詰められるという醍醐味があり、「(小劇場での演技が)きちんとこなせないと本物の俳優じゃない」という思いで参加している、との力強い言葉があり、小劇場ミュージカルの可能性が予感されたところで、残念ながら時間終了。最後に昨年Tip Tapが上演したソンドハイムのミュージカル『Marry Me A Little』より、小澤さんの生伴奏にて、木村さん&上野さんが3曲をメドレーで披露。恋の楽しさから切なさへと、曲の移り変わりに応じて一瞬で場の空気を変えてゆくお二人の表現力に、場内はたちまち引き込まれて行きました。

予定時間を大幅に超過して終了したイベント。作り手から俳優までが一堂に会し、思いを語るトークショーは非常に希少であり、最後にはスペシャル・ライブも堪能できたことで、来場者の皆さんは一様に笑顔で帰って行かれました。これを弾みに、ミュージカル文化がさらに興隆してゆくよう、企画進行を担当した筆者としても願ってやみません。

*次頁で『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』をご紹介します!
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