イギリス史の象徴・ロンドン塔と文豪・夏目漱石
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上の橋がタワー・ブリッジ、中央がロンドン塔、右下がタワー・ヒル。ロンドン塔が二重の城壁に囲まれているのがわかる
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ジュエル・ハウスに収められた至宝、インペリアル・ステート・クラウン(英国王冠)
そして主人公は反逆者の門(トレイターズ・ゲート)から連行されるさまざまな囚人を見て、処刑されたジェーン・グレイやエドワード5世らを目撃する。
ロンドン塔はイギリス王室の栄光と血塗られた歴史の象徴だ。それは漱石が書くように、イギリスの歴史をまさに煎じ詰めたものなのである。
女王陛下の王宮にして城塞・ロンドン塔の歴史
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ロンドン塔の中央部にそびえる天守塔、ホワイト・タワー。11世紀、ノルマン建築の最高傑作といわれる (C) Bernard Gagnon
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夜景も美しいロンドン塔(左)とタワー・ブリッジ(右)。大陸との貿易の要であるテムズ川をおさえるために要衝に築かれた
エドワードの跡を継ぐウィリアム1世はかなり複雑な家系の生まれ。もともとノルマン人が建てたフランス北部のノルマン公国の領主。つまりノルマン人でフランス人なのだが、エドワードに子供がおらず遠い親戚だったことから1066年にイングランドの王位に就いた(ノルマン人の支配=ノルマン・コンクェスト)。
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衛兵ヨーマン・ウォーダー。給金の一部が牛肉だったことから「ビーフィーター "beef-eater"」の異名を持つ (C) Kenneth Allen
そのひとつがロンドン塔だ。特にホワイト・タワーは当時ロンドン最大最新の建物で、テムズ川の海運をおさえ、イングランド全域に睨みをきかせた。これ以後、イギリス各地の王や貴族たちはロンドン塔を手本に数々の城や宮殿を建設することになる。
世界でもっとも有名なホーンテッド・マンション(幽霊屋敷)
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「この門をくぐった者は二度と出ることができない」と言われた囚人用のエントランス、反逆者の門 (C) FASTILY
■ヘンリー6世
わずか1歳でイングランド王とフランス王に就任。フランスとの百年戦争、イングランドの内戦であるバラ戦争に破れてエドワード4世に王位を奪われ、ロンドン塔に幽閉されて1471年に亡くなった。暗殺でめった刺しにされたとも、息子の死を聞いて衰弱死したとも伝えられるが、真相は不明。彼の幽霊は幽閉されたウェイクフィールド・タワーに現れるという。
■エドワード5世とヨーク公リチャード
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「血まみれの塔」というおどろおどろしい名前を持つブラディ・タワー (C) Richard Nevell
■アン・ブーリン
ヘンリー8世の2番目の王妃。もともと王の侍女だったが、ヘンリー8世の寵愛を受けると王妃の座を要求し、最初の王妃キャサリンをおとしめてその座に就く。ところがヘンリー8世はやがて3番目の王妃となるジェーン・シーモアに心変わりしてしまい、アンは姦通の嫌疑をかけられてロンドン塔に幽閉され、1536年に斬首刑に処せられた。首なしの状態で城内を歩き回る姿が目撃されるという。
なお、ヘンリー8世の5番目の王妃でアンの従妹であるキャサリン・ハワードも姦通の疑いで首をはねられている。
■ジェーン・グレイ
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ポール・ドラローシュ『レディー・ジェーン・グレイの処刑』1833年、ナショナル・ギャラリー
ロンドン塔の見所 1. 数々の塔
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バイワード・タワー。かつて手前の外堀はテムズ川から引いた水で満たされており、ブラディ・タワーなどから船で出入りすることができた (C) dynamosquito
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ホワイト・タワーのセント・ジョン礼拝堂。ウィリアム1世が建設し、2世の時代に完成した (C) Mkooiman
■ホワイト・タワー
高さ27m、36×32mを誇る天守塔。ウィリアム1世が20年をかけて1080年代に完成させ、ヘンリー3世が白漆喰の装飾を施してからこの名が付いた。博物館では王たちの武具や甲冑・マスクなどを見学できる。
■ブラディ・タワー
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道の先、左がウェイクフィールド・タワー、右がブラディ・タワー (C) DIrk Ingo Franke
■ウェイクフィールド・タワー
ヘンリー3世が宮殿として建設した建物で、ヘンリー6世が幽閉されていたことで知られる。拷問博物館として公開されており、拷問用の器具が使い方とともに生々しく展示されている。
■ビーチャム・タワー
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堅牢な城壁を見せるビーチャム・タワー (C) Dirk Ingo Franke
■ミドル・タワー、バイワード・タワー
ロンドン塔のエントランス。いずれも13世紀にヘンリー3世が建設し、14世紀にリチャード2世によって改築されたもので、堀を挟んでふたつの橋が接続されている。
ロンドン塔の見所 2. その他の施設
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ハーフ・ティンバー様式(柱や梁などの木材を装飾的に見せる半木造の建築様式)が美しいクイーンズ・ハウス (C) Cnyborg
■ジュエル・ハウス
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ウォータールー・ブロックに位置するジュエル・ハウス。王家の宝物は必見 (C) DIrk Ingo Franke
■反逆者の門、セント・トーマス・タワー
13世紀にエドワード1世によってセント・トーマス・タワーに設置された門。テムズ川から乗り入れるために建設された水門だが、囚人がここから運び込まれるようになったことからこの名が付いた。セント・トーマス・タワーの中世の宮殿にはエドワード1世の居室が再現されている。
■タワー・グリーン
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処刑場を示すタワー・グリーンのモニュメント。アン・ブーリンやキャサリン・ハワード、ジェーン・グレイらはここで斬首された
■クイーンズ・ハウス
16世紀にヘンリー8世がアン・ブーリンのために建設した宮殿。アン・ブーリンが処刑直前に幽閉され、エリザベス1世が幼少期を過ごした場所でもある。
■ヨーマン・ウォーダー(ビーフィーター)
黒に赤ライン、あるいは赤に黒ラインの衣装をまとった衛兵・看守。ヨーマンは独立自営農民のことで、農民出身の義勇兵が衛兵を務めたことに由来する。現在は退役軍人が務めており、ツアーガイドなども行っている。
■ワタリガラス
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カラスの中ではかなり大ぶりなワタリガラス
ロンドン塔への道
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ロンドン塔の外堀とタワー・ブリッジ。タワー・ブリッジはロンドン塔の景観と調和するように同型式の石造りで築かれた
イギリスの玄関口は首都ロンドン。ANAやJAL、ブリティッシュ・エアウェイズなどが直行便を出しているほか、さまざまな経由便がある。直行便は格安航空券で10万円前後から、ツアーは6日間12万円前後から。
■周辺の世界遺産
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動物園だった頃の面影を残す国王の獣たち (C) Marco Verch
いずれもイギリス王家と関係が深く、ウェストミンスター寺院はウィリアム1世をはじめ代々のイギリス国王が戴冠式を行った場所で、宮殿は16世紀、ヘンリー8世の時代までの王宮。キュー王立植物園はその名の通り王家の植物園で、グリニッジにはロンドン塔の天体観測施設を移転した旧王立天文台がある。
日帰り圏内に多数の世界遺産があり、直線距離で150km圏内に絞っても「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」「ブレナム宮殿 」「バース市街」「カンタベリー大聖堂、聖オーガスティン大修道院及び聖マーティン教会」がある。
ロンドン塔のベストシーズン
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テムズ川越しに見たロンドン塔のホワイト・タワー
雨は1年を通じて降るが、年間降水量は東京の2/5程度と少ない。もっとも雨が多いのは10~1月の冬だが、東京の冬と同程度。夏はカラッとしていて過ごしやすい。
1年を通じて楽しめるが、一般的にベストシーズンとされるのは寒い冬を避けた春~秋。
世界遺産基本データ&リンク
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ホワイト・タワー内の博物館に展示された銃や剣といった武器の数々
登録名称:ロンドン塔
Tower of London
国名:イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
登録年と登録基準:1988年、文化遺産(ii)(iv)
【関連サイト】
- Tower of London(公式サイト。英語/フランス語他)
- All About ロンドン
- ウェストミンスターとビッグベン/イギリス
- ストーンヘンジ/イギリス
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旧フュージル王立連隊の武器博物館 (C) Richard Nevell