メンタルヘルス

職場で強いストレスを感じるときの対処法

一億総活躍が唱えられる昨今、対処すべきストレスとして真っ先に挙げられるのは職場ストレスかもしれません。特に、他の人は平気そうなのに、自分だけつらい…と感じる場合、ストレスへの対策法を一度見直してみた方がよいかもしれません。あわせて、精神医学的な観点からは選んではいけないストレス解消法についても詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

うつ病を引き起こすこともある職場ストレス

仕事風景

諸々の案件の調整、時として起こるトラブル・謝罪、職場での人間関係…。働く人の多くが何らかのストレスを感じています。上手な対処法を知り、またお互いに異変に気づけるよう心配りをしたいものです。

働く人の多くが感じている職場ストレス。日々、複数の案件を処理し、時に発生するトラブルに対処するだけでも大変なものですが、これに職場の人間関係などで問題があるとまた深刻さが増してしまいます。

もちろんストレスが全くない仕事というものはほぼないでしょうから、同僚や家族に愚痴をこぼしたり、ちょっとしたリフレッシュをしたりすることで気分転換ができるストレスであれば、気にしすぎることはありません。しかし、体に吹き付ける冬の北風のような手強いストレスは無視してはいけません。場合によっては、心の風邪とも呼ばれる「うつ病」の発症につながる可能性もあります。過度のストレスは、普通の精神状態の自分なら絶対にしないような問題行動を起こす原因になってしまうこともあるのです。

今回は職場のストレスを深刻に悪化させないためにも知っておきたい、精神医学的な基礎知識を解説します。

職場で「自分だけ余裕がない」と感じるときはどうすべき?

最初にお伝えしたいのですが、ストレスに対する抵抗力にはかなり個人差があります。こう書いてしまうと、うつ傾向が出始めている方や責任感の強い方は、「耐えられない自分が悪い」「自分のストレス耐性が低いのが悪いんだ」と自責の念につなげてしまいがちですが、そうではありません。逆に辛そうな人に「他のみんなが大丈夫だから、お前も頑張るべきだ」と無理強いしてはいけないのです。あくまでも個々人で違って、全員に同じストレス耐性を強いるべきではないことを頭に入れておかなくてはなりません。

もし、「何で自分だけこんなにつらいんだろう…」と思ってしまう場合、まずは周りを落ち着いて見てみることをオススメします。自分がつらくて仕方がないのに、同じ職場で同じくらいの業務量を抱えている人が
平気そうに見えるときは、自分とその人との違いを少しひいたところから見てみましょう。

個々人のストレス耐性に違いがあることは先述の通りですが、ひょっとしたら、その方は何かしらのストレス対策がうまく機能しているのかもしれません。例えば、食事の量や栄養バランスにしっかり気を配っていたり、睡眠時間だけは十分確保できていたり、あるいは定期的にある程度の運動習慣があってリフレッシュの術をもっていたり……。

その方が独身の場合、稼いだお金を使う目的として何かしら没頭している趣味があるのかもしれませんし、週末は友人同士で集まってストレスを効果的に発散させているかもしれません。既婚であれば、家に帰れば家族でくつろげる時間があるのかもしれませんし、子供の成長など、つらい仕事を頑張る上での励みになっていることがあるのかもしれません。また、人によっては、特にそういった趣味や家庭などの拠り所がなくても、「とにかく頑張り続けて、周りから仕事で認められたい!」といった強い目標があって仕事のモチベーションになっていることもあります。

いずれの場合も何かしらの要素があることで、同じようなストレスを受けていても、精神的な疲弊が少なく済んでいる可能性があります。それにひょっとしたら、あなたから見れば平気そうに見えている職場の方も、実際の心の内では、同じレベルのつらさを抱えていることもあるものです。

もし同じ職場の多くの人が心身に不調を現すような状況になっていれば、そのストレスの根本的な原因をいかに削減し、解決していくかが第一です。個々人が精神論で耐えるにはあまりに厳しい状況でしょうから、その職場が全体的な改善をしていくべきでしょう。

しかし、やはり周りはどう考えても辛くなさそうなのに、自分だけが高いストレスを溜めているようだ…という場合、その要因を考えてみることも有効です。

考えるべきは「自分にとって適切なストレス対処」ができているか

ストレスやその解消法に対する考え方は人それぞれ。かなり違いがあるものです。仕事への不満やつらさを相談しても、「○○なら文句など言わず、黙って我慢しろ」という考え方の人もいれば、「そんな職場はさっさとやめて、自分に合ったところを見つけるべきだ」というアドバイスをする人もいるでしょう。「うちに帰って一杯やれば、そんなことどうでもよくなるよ」という意見もあるかもしれません。

これらが適切な対処になるか否かは、本当にケースバイケースです。同じ対処でも、ある状況ではそれが正しくても、ある状況では非常に間違った対処になる可能性もあります。休日の過ごし方がみんな違うように、適切なリフレッシュの仕方、ストレス解消法は人によって違います。みんなで集まってワイワイと騒ぐことがストレス解消になる人もいれば、そういった集まりに強いストレスを感じる人もいるのです。まずは、自分が本当にリラックスできる適切なストレス解消法は何なのかを考えて、ストレスが溜まってきてつらいと感じたときに、多少無理をしてでもそのリフレッシュ法を意識的に実行していくことが大切です。

危険な誤ったストレス対処法は避けること

ストレス対処法は人それぞれ、と書きましたが、一つだけ注意すべき点があります。それは、「精神医学的に、はっきり誤った対処法」は避けるべきだということです。なぜなら一時的に気が紛れても事態が悪い方向に向かう「依存症」に移行してしまう可能性が高いためです。

例えば、上記で紹介した「うちに帰って一杯やれば、そんなことはどうでもよくなるよ」というアドバイス。人によっては少し粋な印象を受けるかもしれませんが、精神医学的には絶対に避けるべき対処法の1つです。重苦しい気持ちを軽くしたり、嫌な事を忘れて眠るために飲酒に頼る習慣がついてしまうと、結果的にアルコール依存症のリスクが高くなってしまいます。

アルコールが体に入ったあと、私たちが感じる効果は基本的にはアルコールの中枢神経系への抑制効果です。アルコールの効果で脳内の緊張が取れれば、確かに気持ちが楽になるかもしれませんが、その効果は一時的なものです。ストレスを生み出す問題自体が何も解決できていなければ、すぐに気持ちは元に戻り、アルコールを求める気持ちが再び強まってくる可能性があります。また、アルコールの長期過剰摂取の弊害として、日常、抑うつ感やイライラ感が強まりやすいことも挙げられます。睡眠に関しても睡眠構造を悪い方向に変化させやすく、睡眠障害の原因にもなりやすいのです。このように問題が増えてしまうことで、アルコールを求める気持ちはさらに強まりやすく、悪循環に陥るケースは少なくないものです。

もちろん依存症のリスクがあるものはアルコールだけではありません。買い物や薬物、セックス依存症など、依存にはさまざまな形があります。依存症についてもっと詳しく知りたい方は、「依存症に関する記事一覧」もあわせてご覧ください。これらのリスクを避けることも頭におきつつ、ぜひ自分に適したストレス解消法を見つけていってください。


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