ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2016年7~8月の注目! ミュージカル(4ページ目)

早くも日本列島に猛暑が訪れているこの頃、冷房の効いた劇場街には、様々なミュージカルが登場します。太古のロマンにどっぷり浸れる『王家の紋章』に、高速フライングやダンスも盛りだくさんで爽快な『ピーターパン』……。厳選したこのリストの中に、きっと“観たかった”作品が見つかりますよ!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


 

ガンバの大冒険

7月23日~8月21日=自由劇場、9月18日=キャナルシティ劇場 以降全国公演を予定
『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

【見どころ】
76年の初演以来全国各地で上演を繰り返してきた劇団四季のファミリーミュージカルが、4年ぶりに自由劇場に登場。秋からは全国公演も始まります。

原作者の児童文学者・斎藤惇夫さんは若者たちに対して、自分の力ではどうにもならない大きな壁にぶち当たったとき、ガンバのように乗り越えてゆく勇気を失わないでほしい、という願いをこめて執筆したのだそう。絶対にかなわない敵(イタチ)たちに対して勇気を振り絞り、力を合わせて戦うネズミ役たちを演じるのは、主に入団からそれほど経っていない、若手俳優たち。まだまだ初々しさの残る彼らが無心に、懸命に演じる姿はネズミたちの奮闘とシンクロし、胸を打つものがあります。いずみたくさんの“和ごころ”溢れる楽曲も親しみやすく、耳に残ることでしょう。

【観劇ミニ・レポート】
『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

8月に入って夏休み真っただ中のこの日は、観客の二人に一人は子ども?と思えるほど、子どもの観客が多数。ガンバ役の小林唯さん、マンプク役の小林英恵さんらこの日のキャストは、イタチの魔の手から島ネズミを救うべく海をわたり、団結して困難を乗り越えてゆくネズミたちの姿を、丁寧に表現。聞き取りやすい彼らの台詞が、ストーリーのみならずキャラクターそれぞれの個性を、子どもの観客にもしっかりと伝えてゆきます。5月の学校招待公演時にはまだまだフレッシュな空気に満ちていましたが、数か月を経た今は全体に滑らかさが増し、“劇団”の団結力が作品とよくマッチした公演となっています。
『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

『ガンバの大冒険』撮影:下坂敦俊

カーテンコールではそれまで壮絶に戦っていた者たちが仲直り?をする場面もあり、終演後のお約束、ロビーでの俳優たちによるお見送りは気持ちよく展開。(これまでの劇団四季ファミリーミュージカルでは握手をする方が多かったのですが、今回はハイタッチでさよならをするキャストが多くいらっしゃいました)。特に井上希美さん演じる、楚々としたたたずまいの中にも芯のある潮路が気に入ったらしい筆者の子は、“鳥さんとマンプクと、最後に潮路にご挨拶する!”と決意、人波に揉まれながらも目標を達成でき、大満足できた模様。帰宅後は夕ご飯を食べながら、「ボンヤリは魚になったんだね…」と、船乗りネズミのはかない最期をしみじみと思い出していました。

ピーターパン

7月24日~8月3日=東京国際フォーラムホールC
『ピーターパン』

『ピーターパン』

【見どころ】
1986年から上演され続けている定番ファミリーミュージカル、『ピーターパン』。36年目となる今回は、四回目となるピーターパン役の唯月ふうかさんをはじめ、フック船長役に「正統派曲者俳優(!?)」こと吉野圭吾さんら、実力派俳優たちが競演。演出は3年前から当代きってのエンターテイナー、玉野和紀さんが担当し、ぐっとダンサブルな舞台に。唯月さんに伺ったところによると、インディアンたちとのダンスシーンは特にハードなのだそう。またちょっとした動きにもピーターパンの“少年らしさ”が現れるよう、こまやかに指摘があったそうです。

確かな歌唱力を武器に、近年『デスノート』『スウィーニー・トッド』などで体当たりの熱演を見せてきた唯月さん、その原点のピーターパン役をどう魅せてくれるでしょうか。「飛んでいると意外に怖さを感じないんです」と言う高速フライングシーンなど、仕掛けもたっぷりの演目です。童心に帰って楽しめますよ!

【観劇ミニ・レポート】
『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

ロビーには記念撮影コーナーはもちろん、フェイスペインティングや輪投げ、スタンプラリーなど、様々なアトラクションが展開。早めに来場した子供たちは、開演時間までの時間を大いに楽しんでいます。

さて開演、舞台はジェームズ・M・バリの原作に忠実に沿いつつも、登場人物それぞれのキャラクターをさらに強調。唯月ふうかさん演じるピーターパンが置いてきてしまった影を石鹸で背中につけようとするくだりでは、思い込みで行動する姿がいかにも子供らしく、怪しいケーキに手を出しそうな年下の子供たちを「いけません」とたしなめるウェンディ(入来茉里さん・ダブルキャスト)は、いかにも“小さなママ”ごっこに慣れた女の子然。大人が観ればかわいらしいことこの上なく、子どもにとっては至極“等身大”のキャラクターたちが活躍する物語として、より親しみを持って観ることができるでしょう。唯月ピーターはフライングも至って滑らか、ちょっとしたしぐさも元気な男の子そのもので、4演目にして完璧にピーターを“生きて”います。
『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

対する大人役キャストでは、初出演の舞羽美海さんが全くキャラクターの異なるダーリング夫人・タイガー・リリー、ジェーンの3役を演じ分ける芸達者ぶり。特にタイガー・リリーは玉野和紀さん振付のかなりエネルギッシュなダンスシーンをリードしますが、端正な踊りでミュージカル・ファンの目を楽しませてくれます。そしてこれまでも個性豊かな方々が演じてきたフック船長とダーリング氏を演じるのは、やはり初参加の吉野圭吾さん。他作品でのあくの強い演技が印象に残っているだけに、どう演じるのか大いに注目されましたが、彼の背筋のぴんとしたたたずまいは英国紳士たるダーリング氏にぴったり。またフック船長にもどことなく気品があり、ピーターパンらに対して敵意むき出しの言動を繰り返しても“お話の中の悪役”としての安心感があるのは、ファミリー・ミュージカルならではの配慮もあってのことでしょう。
『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

『ピーターパン』写真提供:ホリプロ

ウェンディたちはピーターパンとわくわくするような大冒険を繰り広げますが、舞台はその後のエピソードを通して、大人の観客にちょっぴり切ない感覚を抱かせます。いっぽうまだ“大人になる”体験をしていない子供たちは、その切なさには気づかず、私もネバーランドに行ってみたい!と夢が膨らむばかりかもしれません。大人と子供で受け取るものは全く異なるものの、誰が観ても「また観たい」と思える。改めて36年連続上演が納得できる、独自の魅力を持つ作品だと言えましょう。

マンマ・ミーア!』

8月2日~10月23日=四季劇場[秋]
『マンマ・ミーア!』撮影:堀勝志古

『マンマ・ミーア!』撮影:堀勝志古

【見どころ】
99年にロンドン初演、日本でも02年以来261万人を動員している“愛されミュージカル”が、約1年半ぶりに東京にリターン。10月8日に通算3000回を迎えます。

その人気の第一の理由は、70年代に世界のポップスをけん引したグループABBA(アバ)の楽曲の魅力。誰もが耳にしたことのある“Dancing Queen”,“Chiquitita”, “Money, Money, Money”など綺羅星のようなヒット曲が、ギリシャの小島を舞台にしたシングルマザーと娘、二人のラブストーリーに見事にはめ込まれ、特定のミュージシャンの楽曲で物語を織りなす“ジュークボックス・ミュージカル”の鑑となりました。

エーゲ海の解放感たっぷりの舞台は残暑の日本にもぴったり。アンコールでは総立ちでキャストと一緒に歌い踊る趣向もあり、終演時には皆笑顔になってしまうこと間違いなし、の演目ですよ!

【観劇ミニ・レポート】
『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

すっきりと洗練された舞台美術がエーゲ海の開放感を醸し出し、残暑の季節にぴったりの『マンマ・ミーア!』。今回の東京公演ではメインキャストに初役の俳優も登場、フレッシュな舞台が展開中です。
『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

ヒロインのドナは光川愛さん(初役)。ドナの盟友で“セレブ追っかけ”症(?)のターニャ役を何度となく演じてこられた方ですが、今回はそのスレンダーな長身が“みんなに憧れられる大人の女性”像に説得力をプラス。ドナがリードする最初のナンバー「マネー、マネー、マネー」では、これまで同役を演じてきた方々より低音の地声にパンチがあり、生活者の実感が漂います。その一人娘で、結婚式を目前にして“父親候補”の3人を呼びよせ、騒動の発端となるソフィー役には谷原志音さん。『リトル・マーメイド』アリエル、『ライオンキング』ナラで培った確かな存在感と、芯のぶれない歌声で物語をしっかりとリード、若手ながら“この人が出ていれば安心”と思わせる、抜群の安定感が光ります。
『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

少し前まで清潔感溢れる“スカイ役者”だったのが、いつの間にか“結婚と離婚の現実”を語るサムを演じるようになっていらした田邊真也さん(初役)。やや生真面目な中に、最後のどんでん返しがうなずけるロマンティックな雰囲気ものぞかせます。またアンコールでの“アバ・スーツ”は本来、“オヤジたち”がジョークとして着てみせる趣向、のはずですが、彼が着ると戦隊ヒーローのように颯爽としています。また堀米聰さんはかつて劇団のホープだった時代を彷彿とさせる優しいハリー像で、長年の四季ファンとしては懐かしく、嬉しいご出演。そしてこの日のターニャ役、高倉恵美さん(初役)は「お母さんは知っているの?」で、軽い気持ちでナンパしてくる青年たちを“完璧美脚”で圧倒。露出が多いわけではないのに魅力ふんぷんの“足見せ”術、同性の観客の目も釘づけです。
『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

『マンマ・ミーア!』撮影:下坂敦俊

大騒動の後に大きな満月が登場、ある旅立ちを描くラストが何度観ても希望に満ち、爽やかな本作。先日、イギリスの田園地帯を旅行中に、とある地元の中年男性が「時々エネルギー補給に、ロンドンまで『マンマ・ミーア!』を観に行きたくなるんだよ」と語っていましたが、確かに人生の折々で観たくなる、“元気の素”ミュージカルです。

*次頁で『三銃士』『美女と野獣』をご紹介します!
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