王家の紋章

8月5~27日=帝国劇場
『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

【見どころ】

1976年から現在に至るまで連載を続け、累計発行部数4000万部を数える超・人気少女漫画がついに帝劇に登場! およそ日本に生まれた女子なら一度は読んだことがあるのでは?というこの名作の舞台化にあたっては、『エリザベート』『モーツァルト!』の作曲家シルヴェスター・リーヴァイが音楽を書きおろし、ミュージカルという形式がとられることになりました。

現代に生きるアメリカ人の娘キャロルがひょんなことからタイムスリップし、古代エジプトへ。そこで少年王メンフィスに見そめられた彼女は求愛を受け入れるも、二人の前には数々の困難が……。
『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

肉厚な音色で知られるリーヴァイは、現代と古代を行き来する壮大な歴史ロマンにどんな楽曲を提供するでしょう。メンフィス役・浦井健治さん、キャロル役・宮澤佐江さん、新妻聖子さん(wキャスト)をはじめ、キャロルに横恋慕するイズミル王子役・宮野真守さん、平方元基さん(wキャスト)、メンフィスの姉アイシス役・濱田めぐみさん、宰相イムホテップ役・山口祐一郎さんら、大作にふさわしいキャスティングで、観る者を別世界と誘ってくれそうです。

『王家の紋章』観劇レポート
人の世の眩さと“陰”とを描く絢爛絵巻

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

開演前から寄せては返す波音がかすかに流れ、紺碧やエメラルドグリーンの紋様が舞台上の紗幕に映し出されて異国情緒たっぷりの場内。弦楽器の低音が響くと、舞台中央で古代エジプトの少年王メンフィス(浦井健治さん)が凛々しく振り向き、下手からゆっくりとメンフィスの姉アイシス(濱田めぐみさん)が歩み出、ただならぬ妖気を放ちます。本編が始まると、妹思いの兄(伊礼彼方さん)に見守られながら16歳の少女キャロル(wキャスト・この日は新妻聖子さん)が夢中で遺跡発掘に取り組むさまが展開。しかし溺愛するメンフィスの墓が暴かれたことに姉アイシスが激怒、波を象徴しているかのような小道具を駆使した演出によって、キャロルが時空を超え、古代へとタイムスリップしてゆく過程が描かれます。
『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

王国に迷い込んだキャロルに出会い、その金髪碧眼という珍しい容姿に興味を抱いたメンフィスは、彼女を王宮に住まわせることに。そして次第に彼女の聡明さと優しさに惹かれ、キャロルもはじめは粗暴にしか見えなかった彼の一途さに気付きます。二人の距離が少しずつ縮まってゆく過程では、メンフィスがキャロルを「泣くな!」と言いながらぎゅっと抱きしめたり壁ドンをしたり、身を挺して守ったり……と、乙女心をくすぐる言動が満載。これまで繊細な表現で高い評価を得てきた浦井健治さんが本作では荒々しいキャラクターを力強く演じ、対する新妻聖子さんも可憐にして芯の強いキャロル役がぴたり。とりわけ「歴史を歪めるとしても大切なものを守りたい」と、メンフィスへの愛を自覚するナンバーでの熱唱に説得力があり、原作ファンもきっと“3次元版メンフィス&キャロルの恋”に引き込まれずにはいられないでしょう。
『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

いっぽうメンフィスとほぼ同時期にキャロルを見そめ、後に彼女を略奪するヒッタイトの王子イズミル役の宮野真守さん(wキャスト)も、銀髪の美しい堂々としたたたずまいと大きな芝居で存在感たっぷり。今後のミュージカルでの活躍が期待されます。またキャロルを介抱する少年セチ役の工藤広夢さんが溌剌とした演技。エジプトの宰相イムホテップ役の山口祐一郎さんは、その風格を以て若者たちの愛のドラマに重みを与えています。
『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』写真提供:東宝演劇部

作品の主題はメンフィスとキャロルの時空を超えた強い愛ですが、今回の舞台で興味深いのが、彼ら以外の人々の愛、そして愛の対極にあるダークな感情もまたクローズアップされている点。行方不明となったキャロルの身を案じる兄ライアンの家族愛は勿論、アイシスがメンフィスに向ける狂おしい愛とそれを妨げる者への憎悪、また彼女の激情の犠牲となるヒッタイトの王女ミタムン(愛加あゆさん)の怨念が、例えばイズミル、ファラオ、ライアンが同時にキャロルへの思いを歌ったり、戦争の予感が立ち込める中でミタムンの亡霊がその恨みの深さを物語るかのように踊るといった趣向で描かれます(演出・荻田浩一さん)。とりわけ、報われることのない愛に悶え、3000年を経ていまだその思いに囚われ続けるアイシスを、抑制された動きの中で体現する濱田めぐみさんが出色。人の世の眩さばかりでなく、その“陰”をも等しく描き込んだ絢爛絵巻となっています。

マイ・フェア・レディ

7月10日~8月7日=東京芸術劇場プレイハウス、8月13~14日=愛知県芸術劇場大ホール、8月20~22日=梅田芸術劇場メインホール
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

【見どころ】

1963年に日本初の翻訳ミュージカルとして上演され、2013年、翻訳・訳詞・演出にG2さんを迎えて「リボーン(新生)」上演された本作がこの夏、「リ・リボーン版」として帰ってきました。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

バーナード・ショウの戯曲『ピグマリオン』のミュージカル化である本作は、階級社会の英国で、花売り娘のイライザが言語学者ヒギンズ教授の特訓を受け、淑女の話し方を会得するサクセスストーリー。G2さんのリボーン版は、20世紀前半の時代設定はそのままに、軽やかなテンポ感や現代口語表現を取り入れた翻訳、そして21世紀の感覚では“女性蔑視”的に見えかねないヒギンズを“子供っぽく、鈍感な学問オタク”に設定するなど、“今”の観客が自然に感情移入できる工夫が満載です。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

この演出を体現するのが、イライザ役の霧矢大夢さん・真飛聖さん(wキャスト)、ヒギンズ役の寺脇康文さんをはじめとする豪華キャスト。「I could have danced all night」「On The Street Where You Live」などの名曲に彩られた“極上のエンタテインメント”は、ミュージカル・ファンを自称する方なら必見です!

【『マイ・フェア・レディ』観劇レポート
開放感とポジティブさがこの上なく心地よい
“21世紀の”シンデレラ・ストーリー】

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

流麗な序曲に続いて、ロイヤルオペラハウス前で出会った花売り娘イライザとヒギンズ教授が丁々発止の掛け合いを見せる幕開け。江戸っ子言葉に“ってか”など、今どきの若者語をブレンドしてまくしたてるイライザに、ヒギンズは“なぜイギリス人は言葉を大切にしないんだ、美しい言葉を話せれば貴婦人にだってなれるのに”と嘆きます。この嘆き、今の日本人にも当てはまるかも? 触発されたイライザは町の人々とのナンバー「Wouldn’t it be lovely? (だったらいいな)」で優雅にチョコレートを食べる暮らしを夢見ますが、ここでの男性アンサンブル(小原和彦さん、石井雅登さんら)のハーモニーが極上。ほのぼのとした曲調も手伝い、うっとりするようなひとときです。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

続く場面ではイライザの呑んべえの父、ドゥーリトル(松尾貴史さん)がふらりと登場。アドリブをあちこちで炸裂させる松尾さん、“『マイ・フェア・レディ』ってこんなに笑える作品だった?”というほど、場内を沸かせてくれます。ヒギンズに触発されて一念発起したイライザは彼の邸宅を訪ね、上品語のレッスンを依頼。居候中のピッカリング大佐との賭けで“6か月で彼女を貴婦人に育て上げる”ことになったヒギンズは、早速特訓を開始しますが……。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

この後、舞台は“あ”と“え”、“ひ”と“し”の区別が出来ないイライザが地獄の特訓を経て上品語を操るようになるいっぽうで、知らず知らずにヒギンズを愛してしまい……と、表面的にも内面的にも大きな彼女の変化を、丁寧に描写。ダブルキャストで演じる霧矢大夢さん・真飛聖さんは変身後の華麗な着こなし(霧矢さんは映画版のA・ヘプバーンを彷彿とさせるコケティッシュなオーラ、真飛さんは大使館パーティーで着るエンパイアドレスでの輝くばかりの美しさ)もさることながら、出来なかったことが出来るようになり、その喜びを噛みしめる表情(霧矢さんは“もっと練習しなさい”と言われ、テキストを抱きしめる瞬間、真飛さんは「I Could Have Danced All Night(じっとしていられない)」を歌う間)が何とも健気で素晴らしく、一気に観る者の心を掴みます。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

それだけに女心が分からず、上から目線の物言いしかできないヒギンズはともすれば“女性の敵”にしか映りませんが、ひょうひょうとして愛嬌に溢れた寺脇康文さんが子供っぽさを誇張して演じることで、彼の母(高橋惠子さん、大人の女性のエレガンスと余裕がたっぷり)よろしく“全く仕方がないわねぇ”とおおらかに見守れてしまうのが、このプロダクションの良さ。“完璧な人間”など存在せず、それぞれの立場で“より良い自分”を目指すことが大切なのだと、日本版ならではの客観的な視線がうかがえます。
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部

貴婦人となったイライザに魅了され、彼女が滞在するヒギンズ邸に押しかける青年フレディ役の水田航生さんは、「On The Street Where You Live(君が住む街)」のまっすぐな歌唱を含め、屈託のない好青年然とした演技。またピッカリング役の田山涼成さんは懐深くもノリがよく、寿ひずるさん演じるヒギンズ邸の家政婦ピアス夫人も、そんな男たちを呆れながらもどっしり受け止め、といった具合に、登場人物の誰もがチャーミングなのは、今回の“G2演出”が根底で“人間に対する肯定”を貫いているゆえでしょう。通常の公演では舞台下のピットに押し込められるオーケストラも、本作では舞台左右のセットにしつらえられたバルコニーで演奏。開放感とポジティブさがこの上なく心地よい、21世紀のシンデレラ・ストーリーとなっています。

*次頁で『End of the Rainbow』以降の作品を紹介しています!