予算、衛生、地域の連携・・・こども食堂の課題
早く来て宿題をすませるこどもも。地域の様々な大人が見守っています。
(撮影/そのっこゆ夕やけ食堂にて)
例えば自治体によってはこどもの問題よりも人口の多い老人についての政策に力を入れているなど、行政の取り組みも異なります。
『そのっこ夕やけ食堂』のケースは、緊急を要する対象者がいるということで、地域の人がしっかり向き合った結果、奇跡に近い速さで進展しました。これは、「こども食堂」が開設されるまでの「連絡会」でしっかり勉強会を重ね下準備をしてきたこと、またそれぞれが介護や給食ボランティアなどの実績があり、それぞれの得意分野をうまく活用できたことも迅速な対応につながったと言えるでしょう。
運営費用は、地域の人に呼びかけると寄付金もすぐに集まり、また地域に点在する農家や水産加工会社が食材を寄付してくれたり、地域の人がこどものおやつにと果物を買って様子を見にきてくれるなど、情に厚い土地柄もあって食材が集まるためで、余ればこどものためのイベントなどに使いたいとのことでした。
また『そのっこ夕やけ食堂』の地域では、福祉協会が 2016年の事業として取り組むことを決めて予算を配分したり、社協の事業としても予算を確保し他の学校区にも「こども食堂」を開設できることを目指しています
「こども食堂」の費用の集め方や運営方法は、様々です。西宮市のNPO法人ブレーンヒューマニティーが運営する「にしのみやこども食堂」では、賛同してくれる個人の寄付やクラウドファンディングで活動資金を集めています。当初こどもも300円の設定にしていましたが、今では100円で食事を提供しています。
もともとブレーンヒューマニティーは、こどもの学習支援活動をしていたことから、文教都市である西宮市らしいく、学生として「こども食堂」を運営。近くの大学の学生が勉強を見たり遊んだり、身近なお兄さんやお姉さんという立場でこどもと接することが特徴です。また女子大学の栄養学部の学生が毎回栄養バランスを考慮したお献立を考えて調理しています。
少しずつこどもたちの参加も増え、迎えてくる親からも感謝の声が聞かれ、口コミで広がっていますが、NPO法人なので、なかなか学校や地域と連携することが難しいという悩みもあります。
同じ西宮市で活動する「なるっこ食堂」は、市から学童保育の運営を委託された企業組合労協センター事業団西宮事業所が、地域の方々の協力を得ながら主催しています。こどもは300円、付き添いの大人500円で、管理栄養士を中心に栄養のある安全な食材を使用した一汁三菜の献立に力を入れていますが、やはり毎回の食材やボランティアの調整が課題です。
こどもたちは地域で支えるという考えのもと、大々的に体外的に寄付金を募ることはせず、自治会の協力で地域周辺のお店からお米が寄付されたり、ボランティアや地域の人から足りない食器が集められたり、回を重ねるたびに善意が寄せられるようになりました。またボランティアには、自分も「こども食堂」をしてみたいから勉強のつもりでと、遠方から通う人もいるそうです。
他にも食品ロスの問題に取り組むフードバンクや、地域社会貢献活動に取り組む大手スーパー、JAなどとの連携している「こども食堂」もありますし、「こども食堂」の認知度が高くなるにつれ、行政も共に取り組めば地域の特性を生かしつつ、社会全体で取り組む形ができていくことでしょう。
またこうした食堂で心配されるのは衛生問題です。ガイドが取材した「こども食堂」では、調理に携わる人の定期的な検便や調理機器・設備の消毒なども配慮されていました。
しかし、衛生管理を重視して、食品工場や給食センターのような白衣やゴム手袋ではなく、やはり家庭のような雰囲気で、こどもも一緒に調理を楽しむ食文化を伝えていくことも優先され、食器なども家庭的なものが使用されていました。飲食店の営業とも異なるので、保健所などと相談しながら、より良い形を検討していきたいという声が聞かれました。
人のつながりを取り戻し、みんなが生かされる居場所に
様々な世代がこどもと関わり、子育てを支えあうことができる地域に。
こどもの成長や変化を見守るボランティアスタッフはもちろんのこと、一緒に料理をしたり、折り紙をこどもに教えた老人は、自分の持っている知識が役に立つことに喜びを感じたり、1人暮らしの老人が食事を楽しみにしていたり、関わったそれぞれが自分の存在意義を感じるようになったのです。
ガイドは、これまでにフードデサートなどの問題も取り上げてきました。フードデサートの問題は、一般に買い物難民などといって、住まいの近くに買い物がしにくい高齢化した地方の問題や貧困による栄養失調の問題と思われがちですが、実は人とのつながりが失われたことが問題でもあります。
またこどもの貧困は1人親の世帯においては深刻ですが、「こども食堂」を通じて1人で頑張る人が、たまには息抜きをしたり、人生の先輩に悩みを相談したり、甘えたりできるつながりを作る場があれば、精神的な支えになったり、深刻な事態を回避したりすることにもなるのではないかと思います。
「1億総活躍社会」を掲げ女性の活躍を後押しするには、やはりこ育てのサポートが重要です。こ育てを個人ですることが難しい時代には社会で支え、様々な世代が関わることで、こどもだけでなく多様な世代がいきいきと生きるためのサポートにつながればと願います。
地域コミュニティが希薄化しているとはいえ、昔ながらの付き合いが難しい部分もあります。現代版の心地よいつながり方を模索しながら、地域みんなのが健やかに生き生きと暮らす居場所。「こども食堂」には、その可能性が開かれていると感じました。
協力
・こども食堂ネットワーク事務局
・そのっこ夕焼け食堂
・なるっこ食堂
・にしのみやこども食堂
参考/
・内閣府 平成26年度版 こども・若者白書
・日本農業新聞(2016.5.21)