消える駆け込み需要 減らない在庫と供給予定
需給の緩和で、買い手有利の状況が発生?
2016年6月1日、政権が消費税10%への引き上げを2019年10月に延期することを発表。税率アップ前の駆け込み需要を見込んでいた不動産関連業界に、大きな衝撃をもって受けとめられました。供給価格の上昇も相まって、販売ペースが鈍化している新築分譲マンション市場。消費税増税なら、価格メリットによって、竣工物件や来年3月引渡し物件が少なからず販売に拍車がかかることを期待していたディベロッパーも多かったと思います。2017年4月の実施予定が2年半の延長によって消費税増税が2019年10月まで延期。この6月に第1期の販売が始まった36階建てのタワーマンション(Brillia Tower 上野池之端)の入居予定時期が2019年6月中旬予定ですから、秋以降消費税の影響を受けるとみられた大規模マンションの多くが、現在の消費税で今後も購入ができることになります。
影響として考えられるのが、新築分譲マンションの価格設定の見直しです。もともと、今秋以降に販売をスタートするマンションは、消費税10%で事業収支を組んでいます(売価だけでなく、諸経費や工事費も)。建物価格の2%は、工事費が高止まりしている今では、大きな数字。消費税2%分を価格に転嫁する必要が無くなるので、同様の事業計画でも売出し価格が下がります。
また、コスト面の影響も考えられます。消費税前の駆け込み需要を見込んでいるのは、素材産業や建設・設備業界も同じ。見込みよりも需要が下回れば価格の下落も考えられます。高止まりが続く建築費ですが、多少の調整はあるかもしれません。
販売計画も見直しが進むでしょう。2016年9月末まで少しでも多く供給しようとしていたディベロッパーの販売計画も大きく見直される可能性があります。供給戸数の平準化が進むかもしれません。
マンション購入には、消費税延期はプラス要因
消費税がかからない中古マンションは、ややメリット薄まる
購入しやすさを考えると、消費税の先送りは購入者にとって間違いなくプラスです。既に竣工しているマンションや2017年3月末までに引渡し可能物件は、強気な価格設定はし難い状況です。また、工期の早い一戸建ては消費税引き上げ先送りの影響が大きいと思いますので、一戸建ての供給ボリュームの大きい郊外エリアは、価格設定も慎重にならざるをえないでしょう。大規模マンションやタワーマンションのような工期の長いプロジェクトも消費税の影響を受けなくなるので、じっくりと希望の住戸を選べる可能性も高いでしょう。小規模で、竣工済みのマンションの中には、家具付きモデルルーム販売といったインセンティブを伴った販売手法も増えてくるかも知れません。
新築マンションの供給や価格動向は、中古マンション市場にも影響を与えるでしょう。課税対象ではない人が売主の場合、中古マンション価格に消費税はかかりません。相対的な割安感から2016年4月度の首都圏中古マンション成約件数が、前年同月比で17.3%アップの3,293件だったように中古マンションの注目度は上がっていますが、消費税の引き上げによる新築マンション価格の更なる上昇が見込めなくなった今、在庫が増え価格調整が進む可能性もあります。
しかし、これからの新築マンション価格の先行きは不透明です。消費増税は先送りになりましたが、先日発表になった地価LOOKレポートによれば、3カ月ごとに定点観測している地価トレンドは平成28年1-3月期も上昇トレンドが続いており、原価ベースの価格上昇トレンドが続く見込みです。今年に入って円高が進む一方、原油価格に底打ちの兆しが見えるなど原価ベースでの価格下落要因は、見当たりません。
竣工済みマンションや引渡しが来春のマンションも多いので、マイナス金利導入の今の住宅ローン環境を活かせれば、「選びやすく」「買いやすく」「家賃も節約できる」の3拍子揃ったマンションが見つけられるかもしれません。
「好機なのかそれとも危機なのか」は捉え方次第ですが、少なくとも購入環境面ではプラスと考えるべきでしょう。駆け込み需要が無くなるということは、秋以降予想された駆込み需要の反動もなくなるとも考えられます。「今をどう捉えるか」は、家族によっても異なるでしょうが少なくとも「買い手が有利な状況」が出来つつあることを踏まえてマンションラインナップをチェックしてみてはいかがでしょうか。