「売り」と「買い」、どちらを先にすべき?
理想のマンションに暮らしたいとは多くの人が願うこと。しかし、初めての購入、かつ限られた予算の中だと、現実的な選択をする人が多いのではないでしょうか。そういう方にとって、買い替えは暮らしをステップアップする大きな手段のひとつです。「もっと交通アクセスの良いところに住みたい」、「子育てに良いマンションに住みたい」、「もっと広いリビングが欲しい」など買い替えは多くの人の「したい」を実現します。しかし、中古流通件数が欧米と比べて少ないように、日本における買い替え件数は決して多いとは言えません。平成25年の住宅・土地統計調査(総務省)と住宅着工統計(国土交通省)によれば、既存住宅の流通比率は14.7%。一方、アメリカの既存住宅流通比率は90.4%(Statistical Abstract of the U.S. 2007)です。中古流通比率の低さは、ある意味日本の買い替えマインドの低さを表していると言えるでしょう。
買い替えのハードルが高いように思えるのは、「売却」と「購入」というイベントがそれぞれ発生するためです。住まいの売却、いわゆる「売り」を先に行うのか、それとも住まいの購入である「買い」を先に進めるのか悩ましいところでしょう。
新居を見つける「買い」を先に行うのが理想的だが……
住まいのステップアップで、買い替えを行うなら新居を見つける「買い」を先に行うのが理想ですが、ここでポイントとなるのが資金面です。例えば、住宅ローンを組むのが難しい高齢者の方の場合、新居の購入にはまとまった資金が必要です。資金的な余裕がある方を除き、自宅の売却代金を購入資金に充てるケースが多いでしょう。この場合は、売却を先行し資金の目途をつけた上で新居を購入する方が安心です。
売却が成立しない場合に契約を解除できる「買い替え特約」を結ぶケースも考えられますが、この場合は特約条項を結ぶ際に売主の承諾が必要です。気に入ったマンションに出会ったとしても「買い替え特約」をつけた契約を断られるケースもあります。
一方で、一定の資金力があり住宅ローンが組める場合、今の自宅の住宅ローンを抱えたまま新居の住宅ローンを組めるケースもあります。この場合、必ずしも引渡し時までの売却成立が条件になっていないので、ある程度余裕を持って売却活動が可能です。低金利を背景に、審査の前提となる想定金利も以前より下がっており(かつては4%以上だったが、今は3%台が一般的)「売り」と「買い」を契約上切り離せるケースもあるようです。
「売却リスク」を低下できるなら、理想のマンション探しを先にする方が効率的です。売却はスムーズに運んだけど、購入したいマンションが見つからず家賃を払い続けることは、できれば回避したいところ。マイナス金利の導入で、融資のハードルが下がった今は、ある意味「買い替え時」とも言えるかも知れません。
■POINT 資金的な問題がなければ、購入を先行するのが理想
「自宅の売却を高く見積もってしまう」「購入価格を低く設定してしまう」ことに注意
買い替えを成功させるために大切なのは、売却によって得られる資金がどの程度なのかと、購入にどのくらいの資金が必要なのかを把握しておくことです。自宅ゆえに、売却価格を相場より高く見積もってしまうこともあります。売却のタイミングも考えて、無理のない価格設定を心掛けましょう。また、住まいのステップアップの場合、購入予算も低く設定しがちです。今の市場で希望のマンションがどのくらいの相場なのかは、よく把握しておきましょう。
また、売り時や買い時を考えすぎないことをお薦めします。大前提で考えるべきは「家族にとってのより良い暮らしの実現」。時期を考えすぎずに、理想のマンション探しをするのが大切だと思います。
■POINT 「買い時」「売り時」を意識しすぎない
買い替えのタイミングとして2016年はどうなのか
次に、買い替えのタイミングとして2016年を考えてみましょう。買い替えのタイミングとしては、「理想のマンション」が見つけやすく「現在住むマンション」が売りやすいことが重要です。そういう意味では、2016年は買い替え時と言えるかもしれません。
ここ数年の価格上昇で新築分譲マンションの販売ペースも一部鈍化。物件を選びやすい環境も出来つつあります。また、住宅ローン金利の低下は、長期固定金利の低下を促し実質的な負担額の上昇を抑えています。一方で、中古マンション価格は上昇トレンドが続いており、適正価格であればスムーズに売却しやすい状況です。選択肢が多いことは、住み替えのメリットも大きいと思います。
最後に、どんな買い替えであれば成功しやすいのかを考えてみましょう。
買い替えの成功の鍵を握るのが資金面だとすれば、売却価格が購入価格と比べて高い方がスムーズです。例えば、中古価格が上昇している都心エリアから郊外エリアへの買い替えは、資金的にはスムーズに行くケースが多いでしょう。また、千代田・中央・港の人気エリアから豊洲や木場などの湾岸エリアへの買い替えも資金的なハードルが低いと言えます。
一方、郊外エリアから都心エリアへの買い替えには、ある程度の資金の準備が必要でしょう。また、同一エリア内での買い替えには、マーケットの把握が欠かせません。新築価格が上昇している割に中古価格が振るわない場所もあります。よく確認して資金計画を立てましょう。
マンションストックが増える中、緩やかですが中古マンション流通成約件数は、上昇トレンドが続いています。「売ってよし」「買ってよし」と思えるマンションの買い替えは、これから活発化するのではないでしょうか。