『ジャージー・ボーイズ』観劇レポート
極上のハーモニーに彩られた
“やんちゃ坊主”たちの愛しき半生
『ジャージー・ボーイズ』写真提供:東宝演劇部
演出は『ザ・ビューティフル・ゲーム』『手紙』が記憶に新しい、新進気鋭の藤田俊太郎さん。『NINAGAWA・マクベス』など、ダイナミックな空間使いで知られる蜷川幸雄さんのもとで修業を積んだとあって、今回も客席通路から舞台上の3層構造のセットまで、劇場空間全体を使った演出が特徴的です。
『ジャージー・ボーイズ』フランキー=中川晃教 写真提供:東宝演劇部
とりわけ、ヒットチャートを登りつめたフォー・シーズンズの4人が最上部に組まれた楽屋セットで話す構図では、彼らの達成感が一目瞭然。またリーダー格・トミー(wキャスト、この日の出演はホワイトチームの中河内雅貴さん)の膨大な借金を巡って一同が積年の鬱憤を露わにする場面では、ギャングの親分(阿部裕さん)さえたじろぐ迫力の台詞の応酬があり、演劇的な見ごたえも十分です。
『ジャージー・ボーイズ』トミー=中河内雅貴 写真提供:東宝演劇部
そんななかで浮かび上がるのが、“ニュージャージーっ子”であることに誇りを持ち、結ばれた4人の絆。世慣れたトミー、ナイーブな少年から大人へと成長してゆくフランキー、地味な役回りに甘んじつつ“何か他の道”を夢見続けるニック、そしてフランキーとの出会いで作曲家の才能を開花させてゆくボブ……。
『ジャージー・ボーイズ』ボブ=海宝直人 写真提供:東宝演劇部
一見ばらばらのキャラクターを中河内雅貴さん、中川晃教さん、福井晶一、海宝直人さんが“オリジナル・キャスト?”と見まごうフィット感で演じ、彼らの絆を絶妙のハーモニーに昇華させています。特に全米ヒットチャート1位第二弾となった「Walk like a man」の声バランス良し、息もぴったりの歌唱は必聴。
『ジャージー・ボーイズ』ニック=福井晶一 写真提供:東宝演劇部
基本的に派手な振付のないフォー・シーズンズですが、今をときめくミュージカルスターであるこの4人が歌うと、リズムに乗ってのちょっとした振りも見どころです。特にアップテンポなナンバーでの中河内さんと福井さんの動きは、同じ振りでもご自身たちの持ち味がにじみ出ているのでしょう、随分とニュアンスが異なって興味深く、目が離せません。
『ジャージー・ボーイズ』写真提供:東宝演劇部
スピード感とメリハリ重視で進行してゆくオリジナル版と比べ、より各人物像を掘り下げた印象のある今回の藤田演出。中川さんは“スター”の虚像と家庭人としての在り方の狭間で揺れるフランキーに“やさしさ”を(そして歌唱においてはまろやかさのある声質で、実在のフランキーよりR&B的なテイストも)、中河内さんはどこまでも自分流で物事を進めようとして挫折するトミーに“憎めない愛嬌”を、福井さんはおおらかに見えてある日突然感情を爆発させるニックに“人間臭さ”をプラス。また海宝さんはその端正なたたずまいに、最後にグループに加わった“弟分”の冷静な視点を漂わせており、4人の関係性がよりヴィヴィッドに描きだされています。
『ジャージー・ボーイズ』写真提供:東宝演劇部
いったんは袂を分かった4人が再結集した後、“その後”を語る終盤。実話に基づいているだけに、そこにはある種のほろ苦さが漂いますが、今回の日本版ではそれに加え、演じる俳優たちが残すそれぞれの“味”が格別です。“Oh, What a night”に始まるヒット曲群が耳に残る中で、日本版『ジャージー・ボーイズ』は“ジャージーのやんちゃ坊主たち”の半生が、この上なく愛おしく映る舞台に仕上がっています。