ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

海宝直人、声を究め役を生きる【気になる新星vol.20】(4ページ目)

豊かな歌唱力と緻密な演技を武器に、15年の『レ・ミゼラブル』マリウス役以降、『アラジン』『ライオンキング』『ノートルダムの鐘』に主演、大躍進を遂げている海宝直人さん。16年のインタビューから1年、この間に手掛けた大役や意外な“目標”について、たっぷりとお話いただきました。3月のコンサート・レポートも添え、海宝さんの“今”をお届けします!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『レ・ミゼラブル』マリウス役で一躍、注目を集める

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

――そして大きな転機となったのが『レ・ミゼラブル』だったのですね。

「オーディションには演出補のエイドリアン(・サープル)さんがいらっしゃったのですが、彼はすごく役者を大事にしてくださる方なんですよ。いわゆる、オーディションの“はい、やって下さい。はい、お疲れ様でした”という感じではなくて、場を和ませて“こういうシチュエーションで、こういうふうにやってみようか”と何回かトライしながら、その人の持っているものを引き出してくださるんです。ワークショップみたいな感じで、それ自体に学びのあるオーディションでした」

――そこで引き出されたものが評価され、合格に繋がったのですね。本番での海宝さんのマリウスには、“若さゆえの危なっかしさ”が漂い、バルジャンが助けたくなるのにも説得力がありました。
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

「僕は子供の頃から『レ・ミゼラブル』が好きで、何回も観ていたし、とても出たい作品でした。だからイメージはいろいろあったのですが、自分がチャレンジするからには今までのマリウス像を忘れて、一から作ってみようと思ったんです。現場でディスカッションしながら作っていきましたね。

僕の中では、マリウスの“成長”を大事に描きたい、という思いがありました。最初にアンジョルラスと一緒にビラを配るシーンにしても、未熟さゆえの熱さ、力強さを出したい。はっきりした信念のあるアンジョルラスとは違って、マリウスには行き場の定まらない熱さがある。だからコゼットと出会った時に、ばっとその恋に走ってしまうんです。そんな彼が、エポニーヌの気持ちに気づいていなかったことを彼女の死を通して初めて知り、大事な友人たちもバリケードで次々に失ってゆく。そういう悲劇を経験することによって、最後にコゼットという一人の女性を“守る”人間に成長してゆくのです。その過程をできるだけ丁寧に演じようと努めましたね」

――続く大役は『アラジン』のタイトルロール。やはりオーディションで掴んだお役ですね。私もどきどきしながら見学しましたが、ご自身は?

「いやあ、緊張しましたね。アニメ版は、小さいころからビデオを何度もテープを巻き戻して観て、愛着のある作品だったので、最初はがちがちでした。でも歌の審査で『逃げ足なら負けない』というナンバーを歌いだしたら、海外スタッフの方々が楽しそうに聞いて下さって、それが救いでした(笑)」

――オーディションでは演出補のスコットさんが台詞審査の際、皆さんに「テンポよく、間を詰めて」と何度もおっしゃっていました。これはお稽古でもポイントだったのでしょうか?
『アラジン』(C)Disney 撮影:荒井健

『アラジン』(C)Disney 撮影:荒井健

「すごく難しかったです。確かに海外スタッフには“なるべく間を切ってください”と言われましたが、テンポを出すからと言って台詞がつぶれてはいけません。それに日本版ではジーニーとの友情やジャスミンとの愛情をしっかりと描くことで、大きな感動を得ていただくということが重視されていますので、テンポ感と間合いとのせめぎあいはいつも感じながら演じていました。オーディションを受ける前にブロードウェイ版を観て、その時はただただ楽しんでいましたが、振り返るとやはり(日本版より)ショーの部分が強く押し出されていたかもしれません。(自分が出演を経験した)今、また観たら新たな発見があるかもしれないですね」

――海宝さんは音楽活動にも力を入れていらっしゃるのですよね。

「ええ、4月24日にディナーライブ、そして7月にはバースデーライブと東山義久さんたちとのVOCE CONCERTOというライブを控えています。今月のディナーライブでは、主にディズニーをやりたいなと思っているんですよ。前回のライブではディズニー“ミュージカル”をテーマにしていましたが、今回はシャーマン兄弟(『メリー・ポピンズ』)からアラン・メンケンまで、様々な作曲家によるディズニー“アニメーション”の名曲を歌います。

ライブをやる第一の理由は、歌が好きで、自分の表現手段として追究してゆきたいという思いからです。歌が好きになったのは3歳ぐらい、家族とミュージカルごっこをしていた時からですね。自分が理想とする声が出せなくて壁にぶち当たったことは、もちろんあります。でも、だからやめようと思ったことは一度もなくて、発声や解剖の本を買いあさって研究しました。凝り性なんです(笑)。今の自分の声はそうやって作ってきたものですが、まだまだ、作品やカンパニーによって求められる声はいろいろなので、柔軟性を持ちたいですね。例えばクラシカルな発声が求められる作品であれば、それに対応できる自分でありたいです。ミュージカル俳優をやっている以上、それは大事なことだと思います」

――今のお話の延長線上になりますが、今後のビジョンをどう描いていますか?

「ミュージカルは僕の原点であり、好きなものでもあるので突き詰めていきたいですし、歌も永遠に勉強し続けたいと思っています。その一方で、ストレート・プレイもやっていきたいし、機会があれば映像にもチャレンジしたいです。体が一つでは足りない? そうですね(笑)。

あとは、自分に出来るかどうかわからないけれど、いつかミュージカルを書くということにも興味があります。もちろん海外の作品も素晴らしいものはたくさんありますが、日本語で作られた作品は自然に気持ちが入りやすいこともありますし、以前、事務所の先輩のtekkanさんが演出したオリジナル・ミュージカル『POSTMAN THE MUSICAL』に出演して、日本人が作るものには独自の繊細さがあるなと感じました。そういう舞台の創造にはとても興味を持っています」

*****
芸歴20年以上、ということが信じられないほど、終始初々しく語ってくれた海宝さん。98年7月の『ライオンキング』ヤングシンバ役オーディションでは、天才肌だったりダンスが得意だったりといろいろなお子さんがいるなかで、無心に、のびのびと課題に取り組む海宝少年はひときわ目立ち、すぐに審査員たちに好感を持たれていることがうかがえました。その後様々な経験を重ね、地道に、いくつもの壁を乗り越えて来た彼。しっかりと身に着けた技術はもちろんですが、その芯には今もあの日の、“ただただ、芝居が好き”という無心の原動力があり、私たちを魅了しているのでしょう。昨年からの大役ラッシュを経て、今後彼がどんな役者になってゆくのか、興味は尽きません。

*公演情報*
◎『ライオンキング』上演中=四季劇場「春」(出演者スケジュールについては劇団HPにてチェックを)
『ジャージー・ボーイズ』7月1~31日=シアタークリエ(6月29,30日プレビュー)
◎『NAOTO KAIHO スプリング・プレミアム・ディナー・ライブ“Friend Like U”』4月24日=ザ・プリンス パークタワー東京
◎『海宝直人 Birthday LIVE』Home My Home in Ichikawa 7月4日=市川市文化会館 小ホール
◎『VOCE CONCERTO~GALAXY DREAM~』(7月18~19日)=赤坂BLITZ
*次頁に『ジャージー・ボーイズ』観劇レポートを掲載しました!*
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