お金の悩みを解決!マネープランクリニック/海外在住・海外で働く人のお金悩み相談

49歳イギリス在住、年収3000万円。1年後失業しそう…(2ページ目)

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、イギリスの日本法人で退職の危機に直面している50歳目前の会社員男性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

あるじゃん 編集部

執筆者:あるじゃん 編集部

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アドバイス1 持続的な不動産価格の値上がりが条件

ご相談者が来年に勤務先を退職し、その後、現在のイギリス国内での不動産業で生計を立て、さらに老後に備えていくというプランですが、結論から言えば、資金的には可能でしょう。ただし、「現在の生活水準を落とさず」という部分は条件付きということになると思います。

まず、退職後の収支を確認しておきます。

収入としては、夫の給与150万円とボーナス170万円(ともに手取額)がなくなり、世帯としての月収120万円となります。一方、退職によって大きく減る生活コストは見当たりませんので、現在と同様の生活を継続するとすれば自営業コストも含めて、毎月247万5000円が発生します。この時点で、毎月127万5000円の赤字が出ることになります。

ただし、家賃収入以外にイギリスの不動産の高騰により、ローンの借り換えの際に現金収入が発生するとのこと。これがどの程度増え続けるかは、私は専門外ですので断言はできませんが、ご相談者の方が言われるように「しばらく続く」のであれば、昨年では年間1500万円近い収入を得ているわけですから、先の赤字はほぼ相殺できます。

一方、家賃収入では80%程度のコストがかかっているため、今後よほど利益率を高めるか、もしくは物件保有数を大幅に増やさない限り、年間1500万円の収入増は難しいでしょう。裏を返せば、退職後も同水準の生活を維持するには、持続的な不動産価格の値上がりが必須条件となるということです。
 

アドバイス2 生活のダウンサイジングで対処する

では、ローンの借り換えによる収益が続かないとすればどうでしょう。家賃収入がアップしない限り、少なくとも公的年金支給までは、貯蓄等の資産を取り崩さなくては生活水準を保てなくなります。それを試算してみましょう。

現在、毎月の収支でのプラス分である21万5000円とボーナス全額を貯蓄できたとします。これに退職金2000万円を加えると、1年後の貯蓄および投資商品の合計は約6000万円になっています。ただし、これには2人の息子さんの大学費用も含まれています。次男の方も下宿であれば3年間で約900万円。現在計上されている教育費25万円に、長男の方の大学費用がどの程度含まれているか不明ですが、仮に学費は含まれているならば、貯蓄からの引き出し分は卒業までの下宿費用と生活費。それを200万円程度とすれば計1100万円を先の6000万円から差し引かなくてはなりません。

したがって、計算上は、残り4900万円を公的年金が支給される65歳まで、月額27万円ずつ取り崩せることになります(投資商品の評価額が変動しなかったと仮定した場合)。

自営業だけとしての利益は14万円(収入120万円、コスト106万円)ですから、27万円を加算すると41万円。現在の支出費目を見て見ると、交際費だけで使い切ってしまう金額です。途中、教育費負担はゼロになりますが、それでも、このようなキャッシュフローは現実的ではありません。

そうなると、対処法はひとつしかありません。生活コストのダウンサイジングです。結果、「生活水準を下げずに」という要望はかなわないわけですが、マネープランという視点から言えば、収入が下がれば、支出も下げるということが家計管理の原則なのです。

どこをどの程度下げるかはご相談者の支出の優先順位に沿って判断されればいいでしょう。ただし、収入によって、家計全体で抑えるべき額は自ずと決まってきます。ローンの借り入れによって生じる収入が750万円に半減すれば、その分、生活費を落とさなくては貯蓄を取り崩すことになりますが、それも限りがあるということです。
 

アドバイス3 リスク軽減のため不動産の売却の前倒しも

それでも、冒頭でも触れましたが、老後資金的についてはさほど心配はしていません。所有する不動産の資産価値が、短期間に十分な増え方をし、今後しばらくはその状態が維持されそうだからです。

老後の収入となる公的年金は、相談者世帯の場合、月額で約17万~21万円ほど(67歳、イギリスの年金が加算される)ですから、その時期に不動産をすべて売却して2億円ほどの利益が出る可能性もあります。90歳まで生きたとすると、月額67万円が年金に上乗せできるほどの金額です。現状の生活水準よりはやや落とす必要がありますが、それでも不便を感じない生活は十分にできる金額です。

その上で、気になる点がひとつ。「ローンの完済時期となる65~70歳の時点で物件を半分ほど売却し、負債分を完済する」というプランは、やや長期的過ぎるのではないでしょうか。20年近く先の話です。しかも、借入額は個人事業としては小さくありません。何らかの要因で不動産価格が下落した場合、その振り幅も大きいはずです。

不動産価格の上昇率がローン金利を上回っているならば、確かにより長く借りていた方が得となります。しかし、市況変化というリスクには十分警戒すべきです。ときに予定より前倒しで売却し、ローンの完済時期を早めることも、選択肢として絶えず持っておくべきだと思います。
 

「エルトンジョン」さんから寄せられた感想

的確なアドバイスをいただき、大変ありがとうございました。これを額に入れて今後の指針としていつも目に付くところに掲示しておきたいと思います。特に年金支給開始までの間がきついこと、生活コストのダウンサイジングの必要性、市況変化リスクに十分警戒し物件を売却する選択肢を絶えず持っておくこと、などがポイントと理解しました。


教えてくれたのは……
深野 康彦さん
 
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業界歴26年目のベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ





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